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#88 交渉した、商売人 6

 一度仮眠しているおかげか特に眠気は湧いてこず、仲間達に混じって俺も生け捕りにした連中の監視を続けた。

 武器は奪ってあるが正直な所逃げ出そうとする奴が出るだろうと思ってそこそこ注意していたんだが、ギルドの連中は完全に意気消沈していて座り込んだままほとんど身動きしなかった。

 コランタ商会の護衛の方はガッチリ拘束してあったのでこちらは1、2度寝返りをうっただけで朝を迎えた。

 明るくなり移動しやすくなったんだからさっさとトロスへ向かうべきで、戦闘が終わってからも完全武装を続けている俺達にトロスへ向かう準備の必要は無いが、サラ達には用意が必要だろう。

 俺達も朝食位は取っておくべきだし、それはトロスまで歩かせる生け捕りにした連中も同じだな。

 サラ達の準備が終わる前に全員の食事は終わらせておきたいので、格納庫に買い溜めしてある保存食を生け捕りにした連中へ配っていく。

 完全に拘束しているコランタ商会の護衛の方にも水だけは飲ませておいた。

 そうやってこっちの全員が食事を済ませて一服した頃、念話で出発の用意するよ指示を出しておいたティーエ達が馬車を先導してサラ達も合流してきた。

 けどアリスはまだ昨日のショックから立ち直れていないようで馬車に引き籠っており、旅装を整えて歩いているサラと御者しているメリエラだけが挨拶をしてきた。

 見た目は大丈夫そうだが念のため確認するとサラ達も出発の準備は終わっているようなので生け捕りにした連中を立たせる。

 コランタ商会の護衛の拘束は弛めたくないので生け捕りにした連中数人に担がせて整列させた。

 そうしている間に仕事前のドワーフ達が集まってもう一度見送りをしてくれ廃坑を出発した。


 トロスへはコランタ商会の護衛を担ぐ生け捕りにした連中を先に歩かせ、俺やバルバス達が監視しながらその後に続く。

 サラとメリエラが御者をしている馬車は俺達の後ろについて最後尾はティータ達2人に任せた。

 生け捕りにした連中がサボって歩くのを渋るかとも思っていたんだが、人を担ぐのがいい負荷になったようで早く終わらせるため黙々と歩いていく。

 途中で道の脇に広がる森から2,3度数匹のゴブリンが襲ってこようとしたが、隊列が乱れる前にティーエ達が精霊術でサクッと始末してくれついでに魔石の回収もしてくれた。

 

 他にはこれといった問題もなく俺達の普段の行き来より大分時間が掛かったがそれでも日が陰り始める頃にはトロスの街門に着けた。

 明らかに拘束している奴がいるため揉める可能性もあった街に入るための検問もギルド職員のサラが同行しているおかげですんなり済み、日が沈む前にその傭兵ギルドにも着けた。

 それでもこれからは捕虜の引き渡しや事情聴取で時間を取られるんだろうなあ、と移動中の打ち合わせ通り先にギルドの建物へ入っていくサラを見送る。

 廃坑での経緯を報告して理解させギルドとしての対応を決めるだけでも時間が掛かると思っていたんだが、5分と経たずサラは他の職員を引き連れて俺の前まで戻ってきた。

「遅くなって申し訳ありません。捕虜をこちらで引き取ります。よろしいですか?」

「ああ、連れて行ってくれ」

 俺の答えを聞いたサラは後ろの職員に目配せをし、頷き返した彼らは生け捕りにした連中を取り囲んでギルドの建物内へ連行していく。

「それにしても俺が思ってたよりずいぶん早いな。他の職員へ事情を納得させるだけでも、もっと時間が掛かると思ってた」

「それは既定の対応マニュアルがあるからですね。残念ですが私達の手配した傭兵と依頼主との間でよく揉め事が起こるので」

「ああ、そのよく起こる揉め事をギルドで調停していて即応マニュアルが出来たんだな」

 サラが頷き返してくるここまでの会話の間に生け捕りにした連中は全員建物内へ連行されており、本当に手馴れているようだ。

「ではリクさん達にも聞き取りをさせて頂きたいのでついて来てもらえますか?」

「分かった。案内してくれ」

 もう一度頷き返してくるサラに先導されて俺達もギルドの建物へ入っていった。


 玄関ホールでは一応自衛させるため取り上げなった鎧を職員達に没収されている引き渡した連中を横目にカウンターの中へ案内される。

 そのまま奥にあった階段を上がり2階に幾つかある部屋の一つに通されると男が一人応接セットに座って待っていた。

「リクさん、この者はギルドの調査部に属している者です」

「初めまして。役目上名乗れないのでまずその非礼をお許しください。もう日が暮れますし出来るだけ手早く済ませるつもりでおりますのでご協力お願いします。どうぞ、そこへおかけください」

 サラの紹介で立ち上がった男が一礼して来て、その勧めに従い俺が男の体面に座り他のみんなはおれの後ろ立った。

 サラはその男の横について二人とも腰を下ろし、挨拶通り早速質問をしてきた。

 サラが言った通りこの男が嘘を見抜けるなら余り意味はないが、看破眼の能力は伏せておきたいので襲撃に気づけた理由は昨日と同じ創作を話していく。

 完全記憶領域にサラへ答えた話が全文残っているので創作部分の説明が食い違う事は無いが、完全に同じ説明だと返って違和感がでそうなので創作部分は語尾や言い回しを多少変え、隠す必要がない部分は下手な脚色はせず事実のまま答えた。

 使うと返って能力を見抜かれそうで看破眼を使わなかったから内心は分からないが、調査部の男は表情を変えず俺の話を聞き終わると一礼してサラに後を任せて部屋を出て行った。

「ご協力ありがとうございます、リクさん。本来ならここでギルド長がお詫びと賠償金の交渉をしなければいけないのですが、今回は当ギルドの職員が関わっておりリクさんの出された条件もあるのでそれはあの不心得者達への処分が決まってからとさせて頂いてもよろしいですか?」

「ああ、そうだな。あいつ等の売却額が決まらないと賠償金の額も決められないからな。じゃあ、今日はこれで引き揚げていいな?」

「いえ、もう一つだけお伝えしないといけない事があります。今日の昼頃アルデスタの統括支部から伝令がきて、ガーレン様がアルデスタまで来て欲しいとリクさん達をお呼びだそうです。礼の件についてだと伝えれば呼び出す理由は分かるだろうと仰っていたそうですが、お分かりになりますか?」

 ガーレンと言われて一瞬戸惑ったが、完全記憶領域を調べたらグライエンさんの家名だった。

 そうなると例の件というのは魔人結晶を持って来てくれという事だろう。

 これは後回しにせずさっさと呼び出しに答えておいた方が良さそうだ。

「ああ、察しはつく。すぐにアルデスタへ行かなきゃいけないから明日の朝までにギルドでまた馬車を用意してくれるか?」

「勿論お受けします」

「じゃあ、頼む。まだ何かあるか?」

 サラは首を振ったので馬車の件を念押ししてソファーを立った。

 お任せ下さいと答えてきたサラに玄関ホールまで見送られてギルドを去り、面倒事が一つ順当に片付いたのでギルドの近くにある酒場でみんなと祝杯を挙げ家へ引き上げた。


お読み頂きありがとうございます。

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