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#81 手をつけた、交易の準備 2

 さて、ザイオ達がこの砦で暮らすとグライエンさんへ話を通した以上その配下がいつここへやってくるか分からないので、もう人化出来ない眷属達が砦をうろついてるのは不味い。

 楔を見られるのも不味いので坑道から戻ってきた夜の内に地下の部屋にある干渉地へ楔を移動させ、俺や眷属の許可の無い者は出入り禁止にした。

 仕方がない措置だが、こうなると人化出来ない眷属達はもうこの楔に転移してこない方がいい。

 それと地脈から溢れてくる瘴気の事もありこの森での魔物狩りは続けないと不味い訳だが、森の東側に関しては砦で暮らす獣人に獣耳の者やエルフの戦士達に任せてしまえばいいだろう。

 楔を移すついでに話をしに行ったタリンダは魔物の氾濫が収まるだろうこの森へはもう無理に来る必要は無いと答えてくれたので、森の西側に新しく楔を打ち込み眷属達にはそこから魔物狩りへ出てもらうとしよう。


 一夜明け超人体で遠征に出る用意を済ませ砦の地下に下りるとすでに20人を軽く超える完全武装したドワーフ達がソワソワして待っていた。

 俺を見つけたそのドワーフ達の余りに熱を帯びた期待の眼差しが痛いので、すぐにティータとティーエを念話で読んで楔の操作を始めてもらう。

 このまま二人には楔の管理に残ってもらい喜色を浮かべて転移していくドワーフ達を見送って、俺も傭兵と鉢合う可能性を考え人化が出来る面々とグリアを連れて砦を出発した。


 今回の遠征はギラン商会の補給隊が出城に着く予定日の前日までに新しく楔を打ち込む場所を確保できればいいので急がず森の中を歩いて西進して行く。

 5本角を潰した事でその密度は下がってきているが、それでも良く遭遇する小規模なゴブリンやオークの群れは全て討伐して進んで行った。

 2日掛けて森の中央部を横断し、3日目の朝からは新たに作った楔のナビゲートに従って森の中を歩く。

 その日の夕方頃に着いたこの辺りで一番強い地脈への干渉地は、以前ザイオ達の集落を調べた時に目印としたあの大木の根元だった。

 隠しておきたい物を設置するにはこの大木が目立つが、そこは工夫してこのまま眷属達が狩りから帰って来る時の目印代わりに使わせてもらうとしよう。

 森の中で何かを隠すなら地下が順当だが、その入り口を分かり易く大木の根元に入口を作る必要も無い。

 少し離れていて周りからは見えにくいが開けた場所が近くにあるので、そこに出入口を作るとしよう。

 カモフラージュの役に立つ周りの木々を傷めないようその根に気を付けて土魔術で地面を掘り始めた。

 真っ直ぐに下へ掘る立坑のようにはせずそうきつくない勾配で地下へ向けて螺旋状に坑道を掘り進めていく。

 周りの木の根も届かない十分な深さに達した所で楔が引き合う干渉地の方へ掘り進む向きを変えた。

 ここまでは問題なかったんだが楔が真下を向く所まで坑道を伸ばしていくと恐らくあの大木のものだろうかなり太い根に突き当たった。

 この根は干渉地の一番強い場所を貫いてまだまだ地中へ続いていそうで、これ以上深く掘ると狩りの時に眷属達が地上へ出るのに時間が掛かりすぎる。

 この根を切って大木を痛めるのはカモフラージュに損だし、大木は水をここより地下からでもくみ上げられそうなので俺が妥協して根のすぐ脇に楔を打ち込んだ。

 ここまで済めば後はマドラも通れるように拡張していくだけなので、土魔術の使えるバルバスやギャルドも転移で呼びよせて作業を手伝ってもらう。

 楔の周りをホール状にし坑道を拡げていくと案の定大木の根が他にも出てくるが、生きている大きな根には手をつけず細い根は切ったり坑道を曲げたりした。

 出入り口が1つだと場所を特定され易いのでもう2つ同じように坑道を掘り出入り口も追加した。

 

 取り敢えず拡張はここまでで充分だろうから次は楔の警備の手配に入る。

 これまではネームド眷属達に持ち回りで当たってもらっていたが、楔の数が増えてきたしもう専従の者達をおいた方がいいだろう。

 ただゼロから新しく用意すると大変なので、ハック配下のハイドロックゴーレムを増員し隠れ里の警備監視と並行して楔の警備にも当たってもらうとしよう。

 そうするとハックの配下達の強化に必要なポイントも増えるので、ハックを含めその配下達を警備だけじゃなく魔物狩りにも参加させてポイントを稼いでもらうとしよう。

 他にもロックカノンモスやバーストロックを出入り口から続く螺旋坑道の部分に配置して、もしも侵入者があった場合の遅滞や坑道自体を爆破して生き埋めにしてしまうのも良さそうだ。

 

 そう方針が決まったのでまず冥炎山麓の隠れ里を警備監視してくれているハックの元を訪れる。

 仕事の追加を指示すると嬉しそうに気合十分で了承してくれた。

 続けてここ最近で貯まったポイントを使いハックの配下となるハイドロックゴーレム達を創造したんだが、新しい仕事を任せるしいつまでもハックの配下達では様にならないのでロックガーディアンと名称をつけた。

 名前をつけられたのが嬉しそうなロックガーディアン達には早速冥炎山での狩りやロックカノンモスとバーストロックの捕獲に手を貸してもらった。


 ロックガーディアン達の新規の追加や魔物狩りに参加させて強化したりロックカノンモスやバーストロックを捕獲して各楔周りへの配置は継続して続けるつもりだが、トロスの廃坑の調査も開始から4日以上経ち目途が立った頃だろうから砦の方へ戻ってみた。

 転移したその足でザイオの部屋を訪ねたんだが誰も在らず、近くにいた別のドワーフに行方を聞いたら廃坑ではなくこの砦に備え付けられていた鍛冶工房にいるみたいだ。

 場所はここを制圧した時に確認しているので足を向けてみると10名以上のドワーフが作業していてこの前まで廃屋のようだった工房が大分綺麗になり新しく持ち込んだ設備も据えつけていた。

 その中にはザイオの姿もあり俺を見つけると向こうから近づいて来た。

「おお、リク殿。やっと戻ってきたか。待っておったぞ」

「そりゃ悪かったが、工房の整備を始めてるって事は調査の方は終わってるんだな?」

「勿論終わっておる。本格的な採掘の準備も始めておるが勝手をしては不味いと思ってな、先に工房を整備しておったんじゃ」

「なるほどな。なら早速調査の結果を教えてくれ」

「うむ。近くの空き部屋を休憩室に改装したんじゃ。そこで話をするとしよう」

 ザイオに続いて工房の二つ隣の部屋に入るとテーブルと椅子にお茶を淹れる道具一式がそろっていて、そこに座りザイオと向かい合った。

「さて、順を追って報告をしようかの。まず上層に関してじゃが、・・・」

「待った。立坑の封印より上には上がるなって指示したはずだぞ?」

「そこは坑道の巡回に来たバルバス殿の手を借りたのよ。メウロ殿が下層でやっておったようにサンプルの鉱石を集めて貰ってな、おおまかじゃがある程度の状況は分かったつもりじゃぞ」

「そういう事か。話の腰を折って悪かった。最初からもう一度話してくれ」

「では、改めて上層に関してからじゃが、・・・」

 サンプルからだけの推測の部分もあるので絶対ではないと但しがついたが、最上層でも高純度で上質な鉄鉱石が取れるようだ。

 そこから下層へ行くにつれ通常の鋼を全ての面で上位互換するウーツ鋼へ加工できる特殊な鉄鉱石が取れる割合が増えていき、最下層付近では各種の属性を帯びた色金や魔力の増幅率が高いミスリルの鉱石も採掘出来始めているそうだ。

 また確定ではないが、さらに深く掘り進めれば宝石を上回る最高の硬度に金属の柔軟性も併せ持つアダマンタイトや神位の金属というオリハルコンの鉱石が採掘できる可能性もあるという。

 加えて各種の鉱脈は独立してかなりの広がりがあり、全体の埋蔵量は故郷のドワーフ達を全員連れてきて100年以上採掘しても全てを掘り出せない規模の量があるそうだ。

「ザイオ達の調査を疑う訳じゃないが、1つの鉱脈からそんなに種類の違う各種の金属が採掘できるもんなのか?」

「うむ、これは儂の私見なるがの。あの鉱脈は相当大規模じゃが元はただの鉄鉱石の鉱脈だったとみておる。そこに地脈の力が地下から溢れてきて鉄鉱石が各種の金属に変化したんではと思うておる」

 ザイオの説明は一応筋が通っているし、どうしても気になるなら後で看破眼を使って調べてみればいい。

 納得して頷くと一通り話し終えたザイオが居住まいを正した。

「最後にこれは儂らドワーフ一同からの頼みなんじゃが、上層の坑道も含めてあの鉱脈の採掘を儂らに任せてもらえんかな?必ず余すことなく鉱石を掘り出して利益をリク殿に還元してみせるぞ」

「俺としてもドワーフ達が責任を持ってやってくれるならありがたいが、上層の坑道には魔物退治に俺の配下じゃない連中も出入りしてる。それは禁止できないし楔の転移能力を身内以外に明かすつもりはないから、上層へも手をつけたいなら実際に坑道がある場所へ移住して貰う事になるぞ?」

「何じゃ、その程度なら問題にもならんよ。皆文句なく移住に賛成するはずじゃ」

「分かった。ギラン商会と交易の話が纏まったら俺は一度転移を使わずあの鉱脈の近くにある港町に戻るつもりだから、それに合せて一緒に移動してくれ。ただし移住するのは半数だけだ。ドワーフが全員ここを引き払ったら、転移の事を明かさない以上ここに残る獣人やエルフの戦士がドワーフ製の武具を身に着け続ける建前が無くなるんだからな?縁を切るつもりはないんだろう?」

「むう、確かにその通りじゃの。仕方ない、移住には足自慢を半分選ぶが楔を使った人員交替は認めて欲しいの」

 苦渋の決断を迫られたような表情をしているザイオに苦笑しながら頷いてやった。


お読み頂きありがとうございます。

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