#79 手をつけた、後始末 3
倒した魔物達は既に素材や魔石に変わっているが、下手に手をつけ後でグライエンさん達と揉めるのも面倒なので回収はせず集落の戦士達には出城と森の間の平地で野営の準備を始めさせる。
助勢したとはいえグライエンさんが素性の不明な相手を堅守しなければいけない出城へ招き入れるとは思えないからだ。
俺達も自前の野営道具を格納庫から取り出し設置し終えた所で出城の城門が開いて何人か外に出てきた。
多分俺達の事を探りに来たんだろうが誰が出てきたにせよ、俺達が対応するべきだろう。
設置した野営道具をそのままに野営地の端へ出て出城から出てきた誰かが近づいてくるのを待った。
段々姿がはっきりしてくると先頭には騎乗したグライエンさんがいて、後ろに続いているのはいつもの護衛の騎士達だった。
「そこに居るのはもしかしてリク殿か?」
「ええ、そうです。砦が落ちていなかったので大丈夫だとは思っていましたが、ご無事で何よりです。グライエン様」
「そちらも無事なようでなりよりだが、何故リク殿がここにおるのだ?それにこの者達はいったい何者なのだ?」
「それについてはまずこの者達がグライエン様の敵では無い事は俺が保障します。ただもう夜になりますし詳しい話は明日にしませんか?」
「ふむ、この者達に我らへの敵意がないというのなら儂の方にも異存はない」
「じゃあ、明日俺がここの人たちの代表を連れて出城へ出向きますよ」
「承知した。こちらの準備が出来たら城門を開く。案内も出すのでそれに従って儂の所まで来てくれ」
「こちらも分かりました。ここの代表に話を通しておきます」
「よろしく頼む。ではまた明日」
最後に一つ頷いて踵を返したグライエンさんを見送って、俺達も今の話を伝えにザイオの元へ向かった。
元々グライエンさんと交渉を持つつもりだったので俺が伝えた話をザイオも快諾してくれ、余計な警戒をさせないよう随員はヘムレオンとヴォーガイ達4人だけと決めてそれぞれのテントへ引き上げた。
明けて翌朝、交渉事には武力の背景も必要だと思うので随員以外の集落の戦士達にも野営場所でそのまま待機してもらい俺達とザイオ達は出城へ出向いた。
城門へ近づくと扉が開いて話の通り案内の者が出てきて中に招いてくれ、そのまま城塞へ先導してくれる。
ついて行った先で通された応接室には既にグライエンさんと傭兵ギルドの職員がソファーに座って待っていた。
「良く出向いてくれた。好きな場所に掛けてくれ」
勧められたソファーに俺とザイオにヘムレオンさんが座りアグリスとアデルファが俺の後ろに立つ。
他の者は部屋の外で持つ事にして扉を閉め、お互い名乗り合った所でグライエンさんが話を切り出した。
「ではリク殿、まずはここを出てからこれまでの経緯を詳しく教えてくれまいか?」
「分かりました。順を追って話していきます」
勿論俺の秘密を守るためありのままは話せないので前回報告と同じように大まかな事実は変えないで都合の悪い所を考えてきた話と差し替え話していく。
まず砦はザイオ達が先に見つけ住んでいた事にして、魔物狩りの途中で偶然出会ってそれ以降協力していた事にした。
5本角の討伐に関しては倒した魔物数を誤魔化すため集落の戦士達に陽動を駆けて取り巻きを引きはがして貰い、護衛が手薄になった所を俺達と戦士達の精鋭で仕留めたとしておいた。
「今言ったように群れの主だった5本角のオーガは討伐出来たんですが、陽動で誘い出した魔物達の掃討はまだ済んでいません。とくに南へ向かった群れの追撃は急務だと思ったのでザイオ達の手も借りる事にして追撃してきたんです」
「・・・リク殿の話を信じたいのだが、何か証拠になるような物を持っておるか?」
「それならこれはどうですか」
グライエンさんが話の信憑性の担保に証拠の提示を求めてくるのは分かっていたので、5本角の残した結晶を移しておいた格納庫から取り出す。
その結晶を見たグライエンさんはソファーから腰を浮かせ目を向いて驚きを顔に浮かべた。
「それは・・・まさか?」
「倒した5本角のオーガの死体が変化した結晶です」
「リク殿を疑う訳ではないのだが、手に取って確かめさせてもらえるか?」
「どうぞ」
俺から結晶を手渡しされたグライエンさんは、後ろに控えていた護衛や驚きを顔に浮かべたまま近づいて来たギルドの職員と共に丹念に見回しお互い頷い合ってから俺に視線を戻してきた。
「確かに魔人を倒した後に残る魔人結晶で間違いない。リク殿の話の証拠としては申し分ないのだが加えて尋ねたい、これをどうされるつもりか?」
「もう使い道を考えているんで、手元に残そうと思ってます」
「むう、出来るなら儂に譲ってもらえんか?勿論討伐の名誉や十分な報酬は約束する」
「すいませが、お断りします。討伐の名誉や報酬を軽く見ている訳ではないんですが、その結晶が武具や魔道具となって俺にもたらしてくれるだろう強さの方が俺にはより重要なんです」
「確かにリク殿のような若い傭兵ならその考えも道理よな。致し方ないが1つこの頼みだけは聞き入れてくれ。次に儂が面会を頼むまでその結晶に手をつけずそのまま持っていてくれないか?」
「それは構いませんが、理由を教えて下さいますか?」
「うむ、リク殿の話からして森が完全に落ち着くにはまだしばらくかかりそうだが、いずれは討伐の成功をお館様に報告せねばならん。その時に成否を疑われぬようその結晶を成功の証としてお館様や儂以外の家臣達に見せたいのだ。分かってもらえるか?」
「納得しました。次にグライエンさんから声が掛かるまでこの結晶はこのまま保管しておきます」
俺が頷くとグライエンさんは少しほっとして、同時にかなり名残惜しそうだったが結晶を俺に返してくれた。
「グライエンさんの頼みごとを断った上で恐縮なんですが、こちらからお願いがあります。俺の話を聞いてお察しだと思いますがザイオ達は最近この辺りに移住して来て、今は放棄されていた砦に居住しています。ここの森への定住とあの砦の使用を認めて頂けるようご領主様に取り次いで頂けませんか?」
俺が頼みを口にしてから表情を引き締めたグライエンさんだったが、よろしくお願いするとザイオにヘムレオンが頭を下げると鷹揚に頷き返した。
「そういう事ならお館様にお願いに行く必要は無いぞ。この辺り一帯の管理は儂に一任されておる。危ない所を助勢して貰った訳だし、筋を通して挨拶に来てくれた以上は儂の権限で森への定住とかの砦の使用を許可しよう。ただ管理しておる他の村々との兼ね合いもあるので、ある程度の税は払ってもらわねば困る。詳細な額などは魔物を鎮めた後での話し合いになろうが、それで構わんな?」
「妥当な条件ですな。こちらに異存はありませんぞ。グライエン殿の配慮に感謝を。礼という訳ではないのじゃが、儂らが倒した魔物が残した魔石や素材はグライエン殿のお好きなようにして下され」
「それはかたじけない。ありがたく活用させてもらおう」
話しの続きでグライエンさんから俺達は昨日倒した魔物の魔石や素材の権利をどうするつもりか尋ねられた。
3本角や2本角のオーガの魔石は倒したアデルファ達がその場で回収してくれているので、俺も好きに処分してくれていいと答えた。
俺やザイオ達から言質を取れたのでグライエンさんは戦場の片付けを護衛の一人へ命じ、一礼したその護衛は部屋を出て行った。
これで必須の交渉事は無難な所で落ち着いたようなので、次の話を俺から切り出す。
「ついでにもう一つお願いがあるんですけど、ザイオ達に不足している物資をギラン商会の伝手で融通してやりたいんです。ただ馬車で道の悪い森の中まで荷物を運ぶのは難しいと思うんで、この出城で取引させてもらえませんか?ここから砦まではザイオ達の格納庫で運べると思うんで」
「ふむ、商売は自由にやってもらって構わん。ここを使うのも他に迷惑をかけない範囲でだが同様だ。今は森から溢れてくる魔物対策で出入りを厳重にしておるが、普段ここはこの辺りを行き交う行商達に解放しておるからな。ただ大きな物資の流れは把握しておきたい。商談が纏まってからでよいので大まかな内容だけは報告してくれ。おお、そうだ。ギラン商会からの補給隊が今ここに足止めされておるはずだ。話をしてみてはどうだ」
「足止めされた補給隊の面々には気の毒ですが、思ったより早くエクトールさんへ話を伝えられそうですね。早速これから話に行ってみます。ああ!その前にこれらが森の中で討伐した魔物から得た魔石の内の提出分になります。お納めしますので討伐証明を出していただけますか?」
「確かに預かった。すぐに確認して証明を出そう」
グライエンさんへ頷き返し、今俺自身でした話と齟齬がないよう1000個ずつに分けて魔石を入れていた袋を3つ格納庫から取り出した。
その袋を持ってそそくさと出てくギルドの職員を見送って、俺やザイオ達も挨拶の言葉を残して応接室を出た。
補給隊がいるなら以前と同じ中庭だろうと思いザイオ達と連れだって行ってみた。
予想は外れず中庭の一角に馬車が集まっており、その周りで作業をしている人の中に見知った顔があったんので俺から近づいて声をかけた。
「お久しぶりですね、ザイデルさん」
「ん?おお、リク殿か!森への遠征から戻ってきてたんだな。お仲間も全員揃ってるし、道理でこんなに早くあの数の魔物達が討伐されるわけだ」
「いつからここが包囲されてたのか知らないんですけど、ザイデルさん達には何か被害があったんですか?」
「いや俺達に被害はないぞ。ここに着くまでは問題なかったし、着いたその夕方にここが魔物に包囲されて足止めを食らったんだが、幸い城主様が防衛戦への参加を免除してくれたんでな」
「被害が無かったんなら何よりです。それで実は頼みたい事があって声をかけたんですけど、今いいですか?」
「おう、いいぞ。言ってくれ」
頷いてくれたサイデルさんへグライエンさんへ伝えた討伐の経緯やザイオ達のとの交易の話をしていく。
話を進めて行く内に段々サイデルさんの表情が興味深げなものに変わっていった。
「集落一つ分の物資の調達か。それも魔石や魔法薬に武具との物々交換ってのがちょっと特殊だが中々の大商いだな。いいぜ、これからアルデスタに戻るから会頭へリク殿からの頼みだって今の話を直接通しておく」
「お願いします。もう少し森の中の魔物を今の内に減らしたいんで俺達はザイオ達と森へ戻りますけど、それが一段落したらアルデスタへ出向きますね」
「いや、その必要はねえかもしれないぞ。今の話だと恐らくこれは会頭仕切りになる筈だ。もう一度ここまで物資を運んでこる事が決まってるから、会頭の性格だと俺達と一緒にここまで話を纏めに出張ってくるんじゃねえかな?」
「俺達にとってはありがたいですね。そうなると次回はいつ頃補給隊がここに着く予定なのか教えてくれますか?それに合わせて俺達ももう一度出城に戻ってくるんで」
頷いたザイデルさんから次回の到着時期を聞き、出発の準備に戻っていくのを見送った。
出発していく補給隊を見送った後は討伐の証明書の発行を出城で待った。
少し事務作業が遅れたので出城で休むようグライエンさんに引き留められたが、野営地でもう一泊し翌朝砦へ向けて出発した。
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