#77 手をつけた、後始末 1
5本角へ止めを刺した手応えは確かにあったが、オーガの驚異的な再生力を考え5本角の体から少し距離を置き残身を維持してその様子を窺う。
それでも5本角へ集中していた意識は段々と解れていき周りの気配を感じ取れるようになってくると俺の背中を守るように大きな気配が控えていた。
「いたのか、バルバス」
「わたし達が受け持った魔物どもは全て片付けたので、お傍に控えておりました。敵の頭の単独討伐、お見事でしたな。リク様」
振り返った俺にバルバスは一礼してくれる。
その後ろには少し距離を置いてアグリスとアデルファも控えてくれていた。
「そう言ってくれるのは嬉しいが俺が単独でこいつを討てたのは、ほぼ運が味方してくれたからだ。実力では俺が負けてたな」
「そうご自分を卑下なさるな。自身へ傾いて来た運を逃さず掴み取るのも実力の内ですぞ」
「分かった。そう思う事にする。俺の戦いを少しは見てたみたいだし、アグリスとアデルファも戦闘を終えてるみたいだから取り巻きのオーガ共は全部片付けたんだろうけど、何か被害は出たか?」
「ガディとドグラにグリアが軽傷とは言えぬ深さの傷を負い、大半の者が軽傷を負いましたがネイミがすでに手当てを済ませており死者はおりませんぞ。今ここにおらぬのは周囲の警戒と戦闘中捨て置いたオーガ共の残した魔石や素材を回収させているからですな」
命を落とした者がいないと聞いてホッとしたが、それでもバルバスやアデルファ達の戦闘の経緯がどうだったかは知っておくべきだと思うので、俺が走り出した辺りからの経過を聞いてみた。
先に2本角達との戦闘の様子を聞くとバルバスの隊は最後に見た時からの優勢は変わらずバルバスが無双の活躍ですぐに2本角をすべて片付けガディの隊への応援へ向かったみたいだ。
ガディとドグラにグリアが傷を負ったのもバルバスの隊が応援に駆け付けるまでの間のようで、後ろに控える術師達の壁役を重視しきちんと計算して2本角の攻撃を受け止め負った怪我だったそうだ。
勿論ガディ達の怪我か深刻になる前にバルバスの隊の救援が間に合い残った2本角を前後から挟撃して仕留めたみたいだ。
最後の2本角へ止めを刺した後は魔力を温存出来ていたネイミがガディ達をすぐに治療し、その間に別れていた2隊をバルバスが編成し直しアグリスとアデルファへの援軍に向かったらしい。
ただこの時点で3本角は残り1体まで減っておりアグリスとアデルファはほぼ無傷でその1体を仕留めに掛かっていたそうだ。
バルバスは二人へ手を貸す必要は無いと判断し、回復役のネイミとその護衛としてマドラだけをアグリスとアデルファの傍へ始動させ、残りはガディをリーダーに周囲の警戒や素材の回収を命じたようだ。
バルバス自身はもしもの時の俺への援護のため単身で戦闘中の俺の傍へ移動を始め、それが丁度5本角の膝蹴りで受けた傷の治療を終えて俺が立ち上がった時だったみたいだ。
そこから俺と5本角はほぼ互角の戦闘を繰り広げていたし、俺に花を持たせて最後まで一人で戦わせてくれたようだ。
そんなバルバス達の報告を聞き終えた頃、一応まだ警戒していた5本角の上半身と下半身に変化が起こる。
輪郭がぼやけてもやのようになると下半身を含めて心臓がある辺りに一瞬で吸い寄せられていく。
全てのもやが一点で凝固し後には他の魔石より大きいオーガの魔石のさらに数倍大きな水晶状の結晶が残った。
一応看破眼で見て悪影響は無さそうだが念のため手を魔力で防御してその結晶を拾ってみる。
手が触れた瞬間、纏っていた魔力がその結晶に流れ一瞬の内にこの森が俺の占有領域へ置き換わった。
いきなりの事で面食らうが今の状況なら限定因果の看破眼が使えるので拾い上げた結晶を調べてみた。
どうやらこの結晶はあの5本角のアビリティ瘴気炉の能力を一部引きついでいて俺が地脈へ打ち込む楔のような機能を持っており、似た力を持つ俺の魔力が通った事で領域の支配権が俺へ移ったみたいだ。
他にも今後問題になりそうな事態か結晶を通して見えたが、これへの対処は南へ向かったという魔物の群れを排除してからだな。
加えてこの結晶からは新しい力を得られるあの惹かれる感覚がする。
ただ森に魔物を溢れさせた魔人を討伐した証明にグライエンさんへこの結晶を見せないといけないだろうからすぐには溶融同化で取り込む訳にはいかない。
その上提出や買い取りを求められる筈だから、この結晶を手元に残すには頑張って交渉しないとダメだな。
掌の結晶を格納領域へ納めバルバス達へ振り返った。
「魔石や素材の回収が終わったら砦へ撤収しよう」
頷き返してくれたバルバス達が念話で仲間達を集めてくれ戦場を離れた。
警戒は仲間達に任せ俺はこれからどう動くか考えながら森の中を歩く。
戦闘の激しさに比べ時間はそれ程かからなかったようで昼過ぎには砦へ戻ってこられた。
見張りをしてくれているシャドウフレイム達が見つけてくれたか、獣耳の者達が近づく俺達の足音を拾っていたんだろう城門へ近づくと声をかける前に門を開いてくれた。
俺を先頭に砦へ入ると俺達の帰還の話が伝わっていたようでヘムレオンを従えたザイオが迎えに出てきていた。
「無事戻られたようじゃな、リク殿。して、首尾の程を聞かせてくれんか?」
「上々だ。目標とした魔物群れは全滅出来たし、怪我人は出たが俺達に死者は出ていない。それに目標の群れの構成から推察して倒したのは恐らくこの森に魔物を溢れさせた魔人とその手下達だろう」
「お見事じゃな。これで暫くは落ち着けそうじゃ」
ザイオに続いてヘムレオンも頷いているがすぐに用意を始めて欲しい事がある。
「いや、ザイオ達には悪いが集落の戦士達の半分を選んで明日の朝までに遠征へ出る準備をさせてほしい。昨日は黙っていたが倒した魔人の元から分裂したかなりの規模も群れが南下しているらしいんだ。そいつ等も片付けに行きたいんだが俺の配下は全員連れて行けなくてな。集落の戦士達にも手を貸して欲しい」
「この森から南というとすぐに人族の領域の筈じゃ。そこへ出て行く魔物どもを追撃してリク殿や儂らに何か益でのあるのかの?」
「ああ、そういえばまだ見せてなかったな」
体を溶岩体から超人体へ換装して見せてやる。
遠征の話を始めてから訝しがっていたザイオにヘムレオンも目を見開いて驚いた。
「俺は人族の姿も取れてな。この姿を利用して人族に紛れ傭兵もやってるんだ。この森へ来た最初の理由も人の領域へ溢れた魔物の討伐を依頼されたらだしな。その依頼もあって俺達は南へ向かう魔物の群れを追わないといけないんだが、俺の配下全員が人の姿に化けられる訳じゃないからどうしても頭数が足りないんだ。そこでザイオ達の手も借りたいんだが、この話に乗ってくれるならザイオ達にも利益はあると思うぞ」
ここまで話すと驚いていたザイオにヘムレオンの表情を引き締め問いかけてきた。
「ほう、どんな益があるというんですかな?」
「まず恩を押し売り出来るな。俺が最後に確かめた前線に展開している人族の防衛力だと恐らく魔物の殲滅は無理で、拠点に籠っても防衛戦を続けるのが関の山だろう。援軍に駆け付け魔物を討伐してやれば、間違いなく恩を売れる。この辺りを治めている貴族の家臣で防衛戦を指揮している奴に話を通す伝手があるから、その戦果を対価に報酬としてこの森への移住やこの砦の占拠を黙認させられると見てる。確実なのはこんな所だが、他にも交渉が上手くいけばザイオ達へ利益を誘導できると思う」
「なるほどの。儂らも人との無用な衝突は極力避けたい。他の益も期待できるというなら悪い話ではなさそうなので手を貸しますぞ。じゃが我らの戦士が出来るだけ傷つかぬよう立ち回って下さいますかな?」
「当たり前だ。俺に自分の配下を無駄に傷つける趣味はないよ。出来るだけ楽に戦えるように立ち回るし、やばいようなら迷わず手を引くさ。まかせろ」
「まあ、よいでしょう。戦士達の選抜と準備は明日の朝までに終わらせればいいのですな?」
「ああ、明日の朝ここに集合させてくれ」
俺に頷いた後振り返ったザイオにヘムレオンも同意して頷き、二人は足早に城塞の中へ戻っていった。
俺も周囲で待ってくれていた仲間達に解散を許可し、遅めの昼食を取るため楔へ足を向ける。
魔力を還元したポイントで作ったラーメンやカレーなどの日本食を部屋に持ち帰って満腹になるまで腹に詰め込んでいった。
その後襲ってきた眠気に勝てずベッドへ倒れ込んで眠りに落ちていった。
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