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#72 踏み入った、氾濫した森 13

 配下に置いた集落の戦士達に複数名の重傷者は出たが幸い死者無く戦闘を終えられたようで、その重傷者達もネイミの回復魔術で肩を貸せば歩ける程度までは治療でき皆歩いて戦場から引き上げた。

 楔を刺した場所まで戻ってくると無事避難は完了したようで集落の住民は誰も残って在らず、警備に残したダルクや集落の戦士に楔の操作を任せたティータとティーエが楔を守ってくれていた。

 合流した集落の戦士達が勝利と互いの無事を喜び合う中、ティータとティーエが出迎えてくれる。

「お勝ちになられたようですね。おめでとうございます。リク様」

「みんな大きな怪我なく、ご無事に戻られて何よりです」

「ありがと、二人とも。周りで喜んでいる通り近づいてきた魔物の群れは蹴散らしてきた。こっちは住人が誰も残ってないから避難や家財の持ち出しは無事に済んだみたいだけど、何か問題があった?」

「特にこれといった事は無く、リク様の言われた通り避難は滞りなく終わりました。また小規模な魔物の群れが2度近づいてきましたが、ダルク殿が迅速に仕留めてくれています」

「なら良かった。周りの騒ぎが一段落したらここから撤収するからまた楔の操作を頼む」

「はい、お任せください」

 答えてくれたティータに続いてティーエも頷いてくれる。

 続けて傍まで来ていたダルクの働きも労っておいた。


 俺達がそんな話をしている間に集落の戦士達も互いの無事を確認し合えたようで、次は避難した家族の様子を確かめたいんだろうすぐに落ち着いて楔の周りに集まりだした。

 案の定ザイオから戦士達を砦へ転移させてほしいと要請が来て、ティータとティーエに住人達を避難させたように戦士達のピストン輸送を始めて貰う。

 ただ貧乏くじを引かせる事になるが早期警戒役としてナージュには残ってもらう。

 加えて護衛や移動の足としてバルバスとドグラやグリアにも留まってもらい、その他が転移で移動していくのを見送って楔を引き抜き溶岩体へ吸収した。


 この集落の傍まで来た時のようにグリアに騎乗してナージュを前に乗せ、バルバスにはドグラへ騎乗してもらい砦へ向けて出発する。

 昨日は同行人がいた上に集落へ魔物の群れを誘引しないよう大回りをしたが今日は気にせずドグラとグリアには俺の覚えている砦への最短ルートを走ってもらう。

 そのグリアとドグラも最近の魔物狩りでレベルが一段と上がり巡航速度も合わせて早くなったようでこのスピードなら昼過ぎには砦に着きそうだ。

 すれ違う小規模な魔物の群れも軽々と振り切ってくれ、その上なるべく揺れないように走ってくれるので正直暇になってくる。

 そういえば報告があるとバルバスが言っていたので念話をつないてみた。

(バルバス、この調子なら移動に問題はなさそうだし、砦に着くまで時間が出来たから報告したい事っていうのを聞かせてくれないか)

(御意。リク様にお話ししたかったのは昨日砦の周囲の索敵や掃討中に気配を感じた魔物の群れについてですな)

(何かおかしかったのか?)

(その通りですぞ。不用意に近づかず距離をおいて気配を感じただけなのですが、その群れは恐らく50に満たない小規模な群れでありながら一体一体の気配の大きさが他より飛び抜けておりました。加えてその中でさらに頭一つ以上大きな気配を放つ奴もおり、急遽シャドウフレイムを1体呼び寄せ近づかぬよう意を含めて気付かれぬように監視をさせております)

(それは俺やあの万を超えてた群れの主とは別の魔人がこの森へ手を出して来たって事だな?)

(確かにわたしも最初はそう思っておったのですが、今は違うと思っておりますぞ)

(違うのか?ならバルバスの考えを聞かせてくれ)

(では、推測になりますがわたしの見つけたかの群れはあの万を超えていた群れの主が配下の内で強力な個体だけを取り巻きとして連れ、我らを捜しておるのだと考えております。我々との幾度かの衝突で雑魚は役に立たないと悟り、自らを含めた精鋭で確実に我らを潰そうとしておるのだと思いますぞ。)

(なるほど、一理あるな。朝方までの戦闘で倒した3本角も強かったけど、万を超える魔物を束ねられるかといったら微妙な所だと思うしな)

 まあ、バルバスの予想が当たっていようと外れて新しい魔人がいようと今話しに上がった群れが砦の周りに居続けるようならいずれ接触する事になる。

 もしその群れの主が第三の魔人なら交渉でけりがつく可能性もあるが、あの万を超えていた群れを率いていた奴なら戦闘は避けられないだろう。

 そいつが手も足も出ないほどの強さなら砦を放棄する事になっても逃げるしかないが、折角占有した場所を手放すのは惜しい。

 戦いになった時に備えて少しでも勝率を上げるため今回も大量に手に入ったポイントを皆へどう使うか考えながら移動の時間は過ぎて行った。


 バルバスの報告が終わってからもドグラとグリアが快調に飛ばしてくれ、魔物に襲われるといった問題もなく予想通り昼を少し過ぎた頃砦が見えてくる。

 ゆっくり減速しながら砦の城門前に着くと見張りをしていたんだろう門の上にシャドウフレイムの一体が姿を現し俺達の前まで下りてきて一礼してくれた。

 そのシャドウフレイムに頼んで城門を開けて貰い砦に入った所でナージュは解放する。

 その良く聞こえる耳で仲間の声が拾えたんだろう真っ直ぐ城塞の中へ駆けていくナージュの背中を見送り続けて周囲を一瞥すれると大分砦の様子が変わっていた。

 避難から半日近く経っているだけあって城塞と城壁の間にテントを張って生活スペースを確保している獣人やエルフ達の姿が幾つもある。

 城塞の窓越しには空き部屋を掃除している獣耳に者やドワーフの姿が幾つもの部屋で見てとれた。

 俺達はこの砦の数部屋だけを寝床として使っているだけだから集落の住人がここを有効活用するのに全く文句はない。

 ただこの後起きるだろう戦闘の結果次第ではこの砦を引き払う可能性も少しはあるので、まだすぐに移動できる状態を維持して欲しい。

 そういった今後の話をするためザイオやヘムレオンを捜して城塞内へ入ったんだが、中庭へ開いた窓越しに楔の傍で鎮座しているタリンダが目に留まったので何かあるのかと思って傍まで行ってみた。

「昼間タリンダがここにいるなんて珍しいな」

「あなたを待っていたんですよ、リク。昨日頼まれた通りにリクが興味を持つと思う物を見つけたので狩りを切り上げて急いで戻ってきたんです。感謝なさい」

「そっか、ありがと。で、何を見つけたんだ?」

「3000を大幅に超える魔物の群れが移動していましたよ」

 さらに詳しくタリンダへ昨日まで遡って話を聞いてみるとあの万を超えていた群れが西へ向かっていたのも見つけていたようだ。

 この砦から離れていくし昨日の夕方は俺が居なったので報告は保留にしたが、今日も念のため確認しに行けばあの群れが半分ほどに減り南に進路を変えていたので報告に戻ってきてくれたらしい。

 ただまた俺が居らず腹を立てていたみたいだがティータとティーエがなだめてここで待ってくれていたみたいだ。

「確かに重要な情報だな。改めて感謝するよ、タリンダ」

「礼も大事ですが約束の報酬も忘れないように。では、今日は戻ります」

 俺が頷くのを見届けてタリンダは立ち上がり楔を起動して俺の前から転移で消えた。


 さて、今タリンダが教えてくれた情報を元に帰る途中で纏めた考えの修正が必要だろう。

 あの万を超えていた群れは2つじゃなく恐らく3つに別れたみたいだ。

 バルバスの予想通りとして主がいつ離れたのかは分からないが残りの連中が二手に分かれたのは昨日の夕方以降だと思う。

 一方は救援した集落の壊滅が目的で南に向かう群れは人間達を蹂躙しようというのだろう。

 予想が外れていたら南へ向かう群れに主がいる可能性があるわけだが叩く順番は決まっている。

 グライエンさんへの義理もあるが配下とした集落の住人達の保護が優先なので、砦周辺をうろついている小規模だが強力な群れへ対処してから南へ向かう群れの掃討だ。

 勿論すぐに対応できない南に向かう群れが何某かの被害を出す可能性は十分にある。

 だがこの森の近郊にある人族の集落には避難が命じられていたし、グライエンさんが前に話していた通りに対応するなら出城も中々堅牢なので自力討伐が無理だったとしても俺達が救援に向かうまで持ってくれると信じよう。

 流石に今日はもう動けないが、明日中に砦の近くにいる群れへ対処できれば出城が落ちる前に救援へ間に合うはずだ。

 それに少し不謹慎だがこの状況を俺達にとって有効に活用する手も思いついた。

 ただこれもすぐに実行できるわけではないので改めて話をするためザイオの居場所を中庭にいたドワーフに聞いてみた。

 

 城塞の空き部屋の一つにザイオはいるようで尋ねてみると本人がいたので早速用件を伝える。

 避難準備の継続を指示するとかなり訝しがったが、バルバスからの報告に合わせてその群れへ明日対処にでる事を話してやるとすぐに納得して指示を砦中に広めてくれた。

 ついで一回分の食事提供を対価に後回しになっていた魔石の整理を頼むとこれも快諾したので格納領域に収めた魔石をザイオの部屋に吐き出しておいた。

 その後は約束通り楔で作った食事を配り、明日の決戦に備えて呼び寄せたみんなの意見を聞きながら溜まったポイントで俺を含む全員の能力向上を行い夜が更けていった。


お読み頂きありがとうございます。

併せて誤字の報告もありがとうございました。

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