#65 踏み入った、氾濫した森 6
グライエンさんへ偵察の報告を入れ砦に戻ってきてからはポイントの荒稼ぎにまい進した。
人間の斥候が森に入ってくる事を考慮し、眷属全員を同時に動員出来るよう擬人化はせずティータとティーエやシャドウフレイム達に砦と楔の警備を頼み、特有の仕事を任せていない残り全員で魔物狩りにあたった。
勿論目標はあの万を超える魔物の群れだが、移動中に遭遇する50から100位の群れもきっちり潰してしっかりポイントへ変えていった。
以前と同じ場所にいた問題の群れに対しては威力偵察した時と同じように機動力のある囮で群れの一部を釣り出し罠へ誘い込んだ。
魔物達が先の襲撃から学習している可能性も考えて、ドグラとグリアにその騎乗者だけじゃなくケルブとラザも加えて囮の戦力を増しておいた。
他にも罠の種類を増やしたり仕込む範囲を広げたりと対策をしてみたが魔物達の行動は以前と変わりなく簡単に引っかかってくれ、俺達の頭数が増えた分楽に殲滅出来た。
ただ魔物の質も前とほとんど変わりなくバルバスが一度2本角のオーガと行きあったが簡単に首を落として倒せたそうだ。
3日の間に2回問題の群れから釣り出しと殲滅を行い合わせて3000以上の魔物を仕留め、その後タリンダの背に乗せてもらい空からもう一度問題の群れを再度偵察してみた。
群れの規模に若干の縮小が見られた程度で思ったほどの戦果は出ていなかったが、これは魔物の湧きがまだ収まっていない証拠でもあるだろう。
まあ、ここへ討伐に来てからの一連の戦闘でがっつりポイントが手に入り、棚上げになっていた待望の件を解決でき試運転までやれたのだから取り敢えずは良しとしよう。
そんな風に砦を拠点にしてポイントを稼ぐ魔物討伐を続けながら数日を過ごし、自室にした砦の一室で寝ていた俺に念話での警告が飛んできた。
一気に意識が覚醒しベッドから飛び起きて窓を見るとうっすら外が明るくなっている。
どうやら念話での警告はシャドウフレイム達が送ってきてくれたようで開いた目をすぐにまた閉じた。
俺の視界に今シャドウフレイム達が見ている早朝の砦周囲に広がる森の景色が映し出される。
そんな薄暗い森の中シャドウフレイムの1体が見据える方向へ俺も意識を向けると幾つかの影が動いて見える。
さらに詳しく注意すればそれらは人影で、性別は分からないが犬系と猫系の顔をしている獣人が一人ずつ先を行き、恐らく女のエルフと耳だけが獣のような感じの女がその後ろに続いている。
追跡には十分注意したつもりなんだが、たぶんあの獣人やエルフにドワーフが集まっていた集落の住人達が俺達の後をつけてきたと考えるのが一番無難だろう。
これは厄介な事態になる可能性が出てきた。
この砦を見つけただけで帰ってくれるなら、まだいい。
詳しく探られる前に問題の群れを討伐しないといけなくなるし多少勿体ないが、討伐を終えてこの砦から撤収すれば魔人の俺と擬人化した俺の関連付けはされないだろう。
前に考えた通りに集落の住人と接触できるはずだ。
問題は連中が砦の中まで探ろうとした場合で、楔を見せる訳にはいかない以上迎撃が必要になる。
最悪仕留めることになっても擬人化した俺との関係があるとは見られないだろうが、出した偵察が戻らない場合のあの集落の動きが予想出来ない。
もしこの森からの撤収を選ばれてしまうと折角異人種と友好的に接触できそうな機会が不意になる。
まあそれでも砦に入って来られたら迎え討たない訳にはいかないので、ほどほどにあしらって追い払うとしよう。
そうなると魔人の俺と擬人化した俺を関連づけられないようティータとティーエには楔で廃坑か冥炎山へ移動してもらい、もし近づいてくる連中が逃げ出さなくても生け捕り可能なように手加減が出来る俺とゴーレム組が相手をするべきだな。
念話の映像を見ると獣人達は近づいてきているし、さっさと指示を出してしまおう。
シャドウフレイム達との念話を切って目を開けると続けて俺から念話で砦の仲間達へ指示を飛しながら自室を出た。
寝る時に寝具を傷付けないよう超人体だった体を溶岩体に換装しておく。
シャドウフレイム達から断続的に送られてくる念話の映像を元に近づいてくる連中の進行方向に一番近い城門へ向かって歩いていく。
俺が城塞を出るとバルバス以下ゴーレム組のアデルファアグリスにガディがもう揃ってくれていた。
「急な招集に答えてくれて、ありがと。最後にもう一度今近づいてきてる連中への対応を確認する。取り敢えず生かして追い払ってくれ、追う必要も無い。もし逃げずに俺達へ仕掛けてきても最悪生け捕りにしたいんだ。よろしく頼むな」
みんな頷いてくれるのを確かめてシャドウフレイムへ視界を繋ぐと砦を囲む森の端まで獣人達とエルフは進んで来ていた。
その木陰から獣人達が飛び出した所で念話を切りすぐに目を開けると恐らく精霊術を使ったんだろう閂が勝手に外れ城門が僅かに開きその隙間から獣人達が音もなく滑り込んできた。
城門と城塞の間にある庭を挟んでその獣人達へ俺も含めて眷属達が一斉に溶岩で各々の得意武器を作り出し構えを取る。
待ち伏せを予想していなかったのか侵入者は一様に一瞬硬直するがすぐに各々の武器を俺達へ向けて構えた。
この様子だと無駄になりそうだが擬人化した時と似ないように気を付けて声を張る。
「侵入者共、ここは俺のシマだ。目障りだからここからさっさと失せろ。尻尾を巻いて逃げるなら今回は見逃してやる」
無視されると思ったが先頭にいる犬顔の獣人が声を張りかえしてきた。
「黙れ!魔人!お前を倒してこの森を俺達の新たな安住の地に変える!」
叫び終えた犬獣人は構えていた槍の穂先を俺に向けて突っ込んできた。
他の獣人やエルフも一拍おいて動き出した。
やっぱりこうなったかと思うがそれでも気合を入れ直して向かってくる連中の動きを注視する。
先頭の犬獣人が迫ってくるがバルバスが斜め後ろから割って入ってきて俺に向けられた槍を自身の溶岩の槍で受け止め、流れるような前蹴りでその犬獣人を吹き飛ばした。
すかさず追っていくバルバスにこれでは俺の出番が無くなるとハッと気づき、素早く周囲を確認すればもう剣を使う猫獣人とはガディが切り結んでいる。
2本の短剣を操る獣耳の女はアグリスが難なく抑え込んでいて、立て続けに放たれる女エルフの矢をアデルファはことごとくいなしていた。
どうやら今回俺の出番は無くなったようだが、集中は切らさないでおこう。
飛んで行った犬獣人へ視線を移すとあの前蹴りで勝負がついていたようで、意識を失い仰向けに倒れている所をバルバスがひっくり返し後ろ手に土魔術で枷を嵌めている。
キンという音がしたのでそちらを見ればガディの溶岩大剣の負荷に猫獣人の剣が耐えられず打ちあいの衝撃で折れたようで、すぐさま放たれるガディの拳が腹部を捕らえ猫獣人はくの字に折れ曲がって動かなくなった。
獣耳の女はいつの間にかアグリスが肩に担いで枷まで嵌め終えていて、女エルフも矢が尽きたようで短剣を逆手に構えてアデルファと向き合っている。
こうなると一人だけでも逃げ出すかなと思ったが、女エルフはアデルファをいきなり無視して俺目掛け走り出した。
眷属達が女エルフを遮ろうと動き出すが、折角俺に出番が回ってきそうなので手を挙げて制する。
女エルフが順手に持ち替え両手で握る短剣を看破眼で見るがただの鉄製で特別な力はなくこれなら素手で掴み取れる。
短剣を腰だめに女エルフが体ごと体当たりしてくるが、魔力を纏わせた左手で問題なく短剣の刃を掴めた。
これで女エルフが動揺しその隙に一撃を打ち込んで気絶させるつもりだったが、どうやら向こうにとってもこれは想定通りだったようで女エルフから気迫のこもった声と魔力が放たれる。
「非力な女と侮ったな、魔人!私の術で一緒に冥府に落ちろ!」
どうやら叫ぶのも俺の注意を引き術が発動するまでの一瞬を確保するためだったようで女エルフが喋り終わると同時に俺の周囲で風が渦を巻き始め一気に勢いを増していく。
ただこの程度の風の精霊術なら全身に魔力を纏えば傷一つつかずにいなせそうで、俺が動けないよう短剣を押し込んでくる女エルフは自分の放った術に巻き込まれての自滅に終わりそうだ。
そうなると後味が悪いし捕らえた獣人達の態度が硬化しそうなので、頭上にガロを呼び出して俺を取り巻き勢いを増す風の渦を羽ばたき1つで吹き払ってもらった。
そうして女エルフへ注意を戻すとガロの召喚がよっぽど意外だったのか呆然としていて、丁度隙だらけな首筋に手刀を打ち込んで意識を刈り取った。
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