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#62 踏み入った、氾濫した森 3

 恐らく今回森が溢れた原因なのだろう万を超える巨大な魔物の群れを背にして再び空を西へ進んで行く。

 問題の群れに行き当たるまで上がる一方だった魔物の密度が明らかに下がっていくのが見て取れる。

 やはり予想通りあの群れその物かその中にいるはずの支配個体が森から溢れる程に魔物が生まれている原因とみて間違いなさそうだ。

 大分西へ来て瘴鬼の森の外縁部と同程度まで魔物の密度が下がって来たのでもう少し進んだら一旦砦へ戻ろうかと考えているといきなりタリンダが羽ばたき急制動をかけた。

 とっさにタリンダへつかまり周囲をみまわすと今飛んでいた場所をかなりのスピードで何かが通過していく。

 それを何とか目で追うとどうやら魔術か精霊術で強化された矢が下から射られたみたいだ。

 空へ向かっていくその矢が失速する前に続けてもう2度タリンダが急速回避を行う。

 また下から矢を射かけられたようで最初の矢より大きめで微妙に形の違う2本の矢が空へ登っていった。

 ほとんど連続して放たれた今の3矢の軌道をすぐに逆算して発射地点の方へ視線を向けると木々の間に髪と肌の色は違うがティータ達によく似た女が弓に新たな矢を番えている。

 他にも樽のようだが小柄な体型の奴が自身の身長を超えるような大型のクロスボウを構えているし、種類までははっきりしないが毛深く恐らく何かの獣人が大型の弓を俺達に向けていて周りにも数名その三人によく似た者達がいる。

 恐らく異なる種族の者達が一緒にいるのも不思議だが、いきなり襲ってきたのはどうしてか考えてそれはすぐに答えが出た。

 今俺は出城の守備兵達に見られた場合を考えて溶岩体に体を換装しているので魔人が幻獣を操り襲ってきたと思われたんだろう。

 そう考えている間にタリンダが嘴に魔力を集めて反撃の準備に入ったので慌てて待ったを掛けた。

(やめろ!タリンダ!手出しはせずにさっさとここを離れよう)

(どうして反撃せずに逃げろと言うのですか?リク。襲ってきた者達を討ち取るのは当たり前の事でしょう)

(攻撃してきた連中はエルフや獣人に見えた。この森で暮らしているなら溢れている魔物達と勝手に潰しあってくれる筈だ。魔物討伐の手間も多少は減るかもしれないし放っておけばいい)

 他にも多少余裕の出て来た元日本人として何とか下の連中と接触を持ってこの世界のエルフや獣人の事をもっと知りたいという欲もあるから下手に攻撃はしたくない。

(確かに一理ありますね。ではさっさとここを離れましょう)

 タリンダは一応納得してくれたようで嘴に集めていた魔力を散らし今度は翼に魔力を纏って風を生み出し一気に加速する。

 地上からもう数本矢が撃たれたが簡単に振り切りこの場を離脱してくれた。

 その後は少し考えがあったのであの巨大な魔物の群れの北側をタリンダには飛んでもらい砦へと帰還した。


 空からの偵察を終え砦に戻ってから一夜明け、今日も溶岩体でドグラに数体のシャドウフレイム達と共に騎乗し偵察に出ると眷属達へ伝えると護衛がいると皆から一斉に意見されガディとグリアがついてくる事になった。

 ちなみにバルバスは昨日十分暴れまわったそうで残って楔の警備をしてくれるらしく、アグリスとアデルファはネイミと一緒にマドラに乗って魔物狩りへ出るようだ。

 冥炎山の洞窟や廃坑の掃討はみんなと早朝の内に終わらせたんだから、と自慢げなネイミへ気をつけろよと声をかけて城門で別れ砦を出発した。


 空から確認しただけでその下の地上を進む勝手を掴むのに多少戸惑ったが、慣れてからはそう苦労せずタリンダと昨日飛んだ問題の群れの北側のルートをもう一度西へ向けて進んで行く。

 進路上にいる魔物の群れを蹴散らしながら半日近くかけて昨日獣人達に狙撃された地点の近くにあって目印になる大木の元まで進み、獣人達の動向を調べてここに戻ってくるようシャドウフレイム達へ指示し飛んでいく姿を見送った。

 俺達は問題の群れを地上で間近から偵察するため今進んで来たルートを引き返す。

 ついさっき掃討したルートにもう入り込んでいた別の群れを片付けて進んで行き、途中からはルートを外れ十分警戒を怠らず北側から問題の群れに近づいて行く。

 段々とおびただしい数の魔物の気配が感じられるようになり一層注意して進んで行くと森の中に魔物の壁が出来たと錯覚するような問題の群れが見えてきた。

 向こうに気づかれないよう十分距離を取って足を止め群れの様子を観察していく。

 数が多いので気配を頼りにすぐ群れ自体は見つけられたが、その数が逆に災いして群れの中心付近の気配の大小がほとんど区別できないし壁に見える程のあの密度だと忍び込んで内部を探るのも難しい。

 外から見ているだけだと群れの位置以外に大した情報は得られそうにないし、多少危険だがきちんと退路を確保してあの群れへ一当てし内部を探ってみるとしよう。

 一旦監視場所から元のルート近くまで引きあげ、ガディ達へ威力偵察をしてみる考えを伝えると全員が即座に気合を入れて賛同してくれる。

 提案した俺以上にやる気の溢れるみんなへ引き上げる間に考えた策を話し罠も仕込んで監視場所へ引き返した。

 問題の群れの外縁部を見ていき、ほとんど差はないと思うがそれでも一応防御の薄そうな場所を探してゴブリンの比率が多少高い場所を見つけたのでそこを突入場所に決める。

 俺はドグラにガディはグリアに騎乗し頷き合ってタイミングを合わせて問題の群れへ突撃して行った。

 

 一気にトップスピードに入ったドグラの背で刀を抜きリーチを稼ぐため魔力と炎を纏わせて擬似的に刀身を延長する。

 あの群れの数だと手数が少しでも多い方が良さそうなので一刀程得意ではないが左手にもマグマで同じ長さの刀を生み出す。

 炎を纏った俺とドグラはどうして目立つので魔物達に気付かれて目の前に迫った群れが一気に殺気立つが構わず見定めた場所へ突っ込んでいった。

 ドグラは進路をふさごうとするゴブリンやオークを意に介さず踏み潰し跳ね飛ばして進み、俺も両手の刀を振るって群がる魔物をなぎ倒していく。

 斜め後ろに続いてくれるガディにグリアも問題なくゴブリンやオークを片付けながらついてきてくれる。

 一本角のオークが数体進路上に立ちふさがりこれも一刀で沈めて進んでいくが、それ以上の大物は幸か不幸か見つけられなかった。

 そこが多少残念だがこの戦力で群れの中心へ突っ込んでいくと自滅になりかないので出城でのアグリスに倣って半円を描くように進路を変え一旦魔物の群れを突き抜けた。

 そのまま背中を見せ逃げるふりをして距離を取る俺達へ投石や魔術が撃ち込まれるが回避したり撃ち落としたりして後ろの様子を確かめると全力で魔物達が追いかけて来る。

 様子見をするようならもう一度挑発のため仕掛ける予定で、群れの全てが追って来るなら準備した罠を放棄して全力で逃げるつもりだったが、一部だけが群れから分かれて追いかけてくる。

 これなら用意した策が上手くはまりそうだ。

 

 振り返って見た群れの大きさや気配からしておおよそ1500程で一塊になり追いかけてくる魔物達を追いつさせずかといって振り切らないスピードを維持して俺達の背中を追いかけさせる。

 罠を仕掛けた場所が近づいて来たのでガディ達を真後ろにつかせ、完全記憶領域を頼りに罠にかからないよう仕掛けた範囲の中心を突っ切っていく。

 準備していた罠を全員が全て回避し仕掛けた範囲の中心を突きった所でスピードを緩めていき、一旦振り返ると丁度追いかけてきた群れの先頭が最初に罠へ足をかけていた。

 土魔術を使い俺とガディで掘った1m程の落とし穴にオークがはまって動きが止まり、そこへ後続が突っ込み先頭で玉突き渋滞が起こる。

 それでも立ち止まった連中をそのままに左右へ別れて群れは前に進もうとするが別の落とし穴に先頭がはまってまた渋滞が起こる。

 そういった事態が最前列のあちこちで起こり群れ全体のスピードが激減した瞬間、予め落とし穴に隠れるよう指示していた精霊達へ一斉に念話を送った。

 地上へ飛び出して着地したり枝に降りた瞬間から各属性の精霊弾をばら撒くケルブ達の姿は全力で火をふく重機関銃が4丁あるようで滞留した先頭から魔物達をなぎ倒していく。

 うかうかすると俺やガディ達の見せ場も無くなりそうなので慌てて移動を再開した。

 ウォルト達が注意を引きつけてくれているのでドグラ達には全力で走ってもらい罠を設置した範囲のすぐ外縁を回って混乱におちいっている群れへ側面から斬り込んだ。

 混乱に拍車をかけるため一度は群れの中をつき向け、反対側へ出てからはすぐさま精霊達の対面に移動し俺とガディも地面に下りて残りの魔物を掃討していく。

 ゴブリンやオークの強さは出城を襲っていた奴等とほぼ同じで1本角のオーガが10体ほどいたがそれ以上強さの魔物はいなかった。

 最後に残ったオーガを俺が切り倒すまでにすぐ自己修復できる程度の傷を皆つけられたがそれだけで済み、魔物の死体が消えて残った魔石や素材を集めて回る方がよほど大変だったがみんな黙々と作業してくれる。

 手に入った情報は余りなかったが恐らく本命だろう群れの頭数は確実に削れたので強行偵察の成果はまあまあとしておこう。

 後始末が終わった後はシャドウフレイム達との合流地点である別れた大木まで戻ったがシャドウフレイム達の方はまだ戻っておらず、一日は待つと約束しているしもう日は落ちているのでここで野営を決めた。


お読み頂きありがとうございます。

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