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#61 踏み入った、氾濫した森 2

 トロスの借家でゆっくり休んだ翌朝、身支度を整え食堂に出ると一緒に戻ってきたティーエとティータが朝食を用意してくれたようでテーブルに食事が並んでおり台所に二人の姿も見える。

 そのテーブルでは昨夜俺が早く休んだ上に坑道へ狩りに出ていて会えなかったバルバスが先に食事を取っていた。

「おはよ、バルバス。1週間ぶりくらいだが元気そうだな」

「おお、リク様。おはようございます。お久しぶりですな。昨夜戻った時はもうお休みで声は掛けませなんだが、改めて無事のご帰還嬉しく思いますぞ」

 バルバスへ頷いてテーブルにつき今のあいさつで俺に気づいたティーエとティータが俺の分の朝食を追加して並べてくれる。

 2人に礼を言って食事をし、ひと段落した所で今度はバルバスから話かけてきた。

「リク様にお尋ねしますが、お戻りになられたという事は向こうで占有領域を確保されたのですな?」

「ああ、魔物が溢れた森で放棄されていた砦を丸ごと確保した。余所者はいないからバルバス達居残り組もこれからは交替で向こうへ行って暴れてもらうぞ。ただ転移での移動がばれないよう向こうでは擬人化を解いてくれよ」

「御意。ドグラやネイミ達も狩場が広がって喜ぶはず、存分に暴れてポイントをリク様に献上しましょうぞ。お任せあれ」

「向こうでもう2000近く魔物を狩ったが、まだまだ幾らでもいそうだからよろしく頼むな」

 バルバスは嬉しそうに力強く頷いてネイミ達に声を掛けてきますと先に食堂を出て行った。

 俺も残りの朝食を平らげ食堂を出て地下室へ下りていく。

 楔の転移機能を起動するが輸送隊の護衛中から考えていた事を実行するため、出城へは戻らず外輪山の楔へ向けて飛んだ。


 10日ぶり位に転移したタリンダの巣は特に変わりなく、いつものように生まれた時とあまり変わりの無い産毛につつまれている雛たちが俺に気づき喜声を上げて近寄ってくる。

 これもいつものように3匹それぞれの口へ格納領域から取り出した同品質の魔石を1つずつ放り込んでやる。

 美味そうに魔石を口の中で転がす雛たちを撫でていると上からタリンダの顔が近づいて来た。

(魔石を持ってきたのは殊勝ですが暫くぶりですね、リク。契約を忘れたのかと思いましたよ)

「前に来た時話しておいた筈だぞ、少しの間俺は楔が使えないからここには来られないって。まあいいや。タリンダ、また少し頼まれてくれないか?」

(頼みですか。まあいいでしょう、言ってみなさい)

「実はな、・・・」

 大地竜山脈の麓で森から溢れる程魔物が発生している事とその森の中に楔を打ち込んで占有領域を確保した事を詳細を交えて説明した。

「それでな、タリンダの背中に乗せてもらって上から森や魔物の群れの様子を偵察したいんだ。頼めるか?」

(頼みを聞くのは構いませんが一つ条件があります)

「何だ、言ってみてくれ」

(魔物が溢れている期間だけでよいので、その楔を使いわたしもその森へ自由に出向けるようになさい)

 この条件出すって事は恐らく雛たちに食べさせる魔石を向こうで荒稼ぎしたいんだろう。

 討伐の手が増えるのは頭数の少ない俺達にとってもプラスだが、タリンダは大きいのでどうしても目立つ。

 出城と砦には十分な距離があるけどグライエンさん達が森の中まで討伐を進めた場合に砦から飛び立つタリンダを見られる可能性があるか。

「分かった。その条件は一応飲むが俺達の事情で楔の使用を制限させてもらう事があるかも知れない。そこは承知してくれ」

(・・・仕方ありませんね。では早速案内なさい)

 一段と顔を近づけて催促してくるタリンダに苦笑を浮かべて了解と伝え、雛たちへもう1つずつ魔石を放ってやり楔を起動した。


 タリンダと共に砦の楔へ転移すると丁度ドグラに騎乗したブレイブマグマアーマー姿のバルバスにマドラの首の一つへ腰掛けたネイミが中庭を出て行く所だった。

 向こうも俺達の転移に気づいてくれたようで互いに手を振って挨拶を交わし、改めて砦を出て行くバルバス達を見送って俺はタリンダへ跨った。

 翼を広げ羽ばたき一回で城塞より高く舞い上がったタリンダは自身の魔術で作った上昇気流に翼を広げて乗り螺旋状に高度を上げながらその途中で念話を送ってくる。

(さて、リク。どちらの方向へ飛ぶのですか?)

 完全記憶領域へ納めているサイデルさんから貰った地形図を呼び出すと砦は森の東部に位置しているのでまずは広い方を見て回った方が良いだろう。

(今日は西方面を一回りしてこよう。ただ飛び道具や魔術を使う魔物を見かけたから高度は高めを維持してくれ)

(面倒な魔物がいるようですね。分かりました、行きますよ)

 念話をしている間に十分な高度が取れたんだろうタリンダは体を傾け進路を西へ向けた。


 自然や魔術で自ら起こした風を巧みに翼へはらみほとんど羽ばたく事無くタリンダは大空を滑るように進んで行く。

 眼下に広がる森は中々の密度で生い茂っており俺の注文通り高度もかなりあるが、神造魔体の視力と気配探知スキルのおかげで何とか森の様子が掴みとれる。

 砦からさほど離れていな所からゴブリンとオークが混在した50匹程の群れがうろついているようで西へ行く程その数は増えていく。

 以前通った事のある瘴鬼の森の外縁部と比べても魔物の密度は大分高いが砦から2〜3時間飛んだ所でさらに森の様子が一変する。

 タリンダが事前に念話も無く急に方向転換してスピードを上げ俺が理由を尋ねる前に進む先に見えてきたのは、眼下の森にひしめくおびただしい数の魔物の群れだった。

 ざっと数えても明らかに万を超える数がいるようで、ゴブリンやオークだけではなくオーガの姿も木々の間から見て取れた。

(驚いた。この群れに気づいたから急に方向転換したのか?タリンダ)

(ええ、そうです。これは厄介な事になっていますね)

(同感だ。この数を殲滅するのはかなり骨が折れそうだな)

(数だけが脅威ではありませんよ、リク。この規模の群れなら間違いなくあなたのような強力な統率者がいます。もしかしたらその個体を討つ方がこの群れを殲滅するより大変かもしれませんよ。)

 確かに倒した魔物から得るポイントを使い地脈炉で体力や魔力に疲労感を回復し続けながら戦えば、時間がかかるだろうが俺個人でも雑魚の魔物だけなら万を超えようと恐らく討てる。

 タリンダのこの話も可能性としては十分ありえるな。

(忠告感謝する。十分に偵察をしてからこの群れのボスとは当たるよ)

(そういう事なら、しばらくこの上に旋回して留まり統率者を探してみますか?)

(いや、やめておこう。高度を取っているし森の木々が邪魔で特定の個体を探すのは多分無理だ。それよりもう少し西まで飛んで魔物の密度の変化を調べておきたい。頼めるか?)

(いいでしょう、分かりました。行きますよ)

 返事と同時にタリンダは体を傾けて旋回し進路を変更してくれた。


お読み頂きありがとうございます。

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