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#54 戦地へ向かった、輸送隊 2

 刀を手にゆっくり立ち上がると両手持ちの戦斧を担いでアデルファも続いてくれ、焚き火の傍を離れて村の出入り口へ向けて歩いて行く。

 両手持ちの戦鎚を手にテントから出て来たアグリスも足早に俺の隣まで歩いてきて、そこからは歩調を合わせてくれた。

 同じく革鎧に身を包み短剣や杖を持ったティータやティーエも少し間をおいて俺の後ろに続いてくれる。

 今回グリアにはガディが騎乗し後詰めと打ち漏らしの始末を頼み焚き火の傍で待機させた。

 一応俺を先頭に村の出入り口がだんだん近づいてくるが、待ち伏せでも考えているのか賊たちに動きはない。

 まあザイデルさんの要請である賊への警告はやりやすいので、構わず声を張った。

「出入り口の周りに隠れてるお前らに最初で最後の警告だ。俺達がそこに行くまでに武器を置いて出てこい。それ以外の行動は俺達への敵対と見なし実力で排除する」

 歩きながら宣告を終え大分近づいたので直に連中の様子をみると本当に自分達が気付かれていないと思っていたようで動揺しているのが良く見て取れる。

 これなら近づくだけで全員逃げるかなと思ったが、一人の男が立ち上がって檄を飛ばし続けて他の賊も全員立ち上がって武器を抜いた。

(みんな今最初に声を上げた奴を首領格の第一候補としよう。取り敢えずあいつは街道へ逃がして追い立てよう。後の連中も犯罪奴隷として売れるだろうからなるべく生け捕りにしておこう。じゃあ、安全第一で予定通りに。)

 俺の念話にアデルファとアグリスが頷き、雪崩れ込んでくる賊達へ逆に飛び込んで行ってくれる。

 俺も刀を抜いて続くが前の二人が得意の重量武器を一振りするたびに4〜5人が宙を舞い、地面に落ちるとティータやティーエが精霊術で操る雑草が急成長して賊を全員絡め取っていく。

 俺も慌てて刀の峰を返し2〜3人打ち倒すともう賊は10人程しか残っておらず全員が驚愕と恐怖の表情を浮かべていた。

 アデルファとアグリスが武器をもう一振りしたら終わってしまいそうなので、予定通りに逃げだすよう刀の切っ先を推定の首領格へ向けた。

「さて、後はお前達だけだ。とっとと終わらせたいから、さっさと掛かってこい」

 続けて自分で言ったセリフとは逆に魔力を纏い首領格が逃げたすよう威圧していく。

 俺の意図を察してくれたアグリスやアデルファも同じように威圧を掛けてくれ、賊達の表情がさらに青ざめ引きつっていく。

 ダメ押しで少し大げさに足を一歩踏み出すとこれが首領格以外の心を折ったようで全員武器を放り投げ逃げ散って行った。

(俺が首領格を追い立てる、みんなは逃げたやつらを押さえてくれ。)

 念話の途中からアデルファとアグリスは反応してくれ、今度は一人づつ確実に気絶させていき俺の後ろに控えてくれていたティータとティーエがさっきと同じように精霊術で作った草の縄で縛り上げていく。

 俺がもう一歩足を前に出すと一つ舌打ちをしてやっと首領格が街道の方へ逃げ始め、身体能力を押さえる為体に纏った魔力を散らし距離を取って俺もその後を追った。


 待機していてくれたグリアとガディへ念話で指示を出しながら、先を逃げていく首領格を少しずつ間の距離を詰めながら追い立てていく。

 賊の逃げ足は中々で思っていたより早く街道が見えてきた。

 重装備の連中がいた場所ももう近いので、もう一度全身に魔力を纏い一気に前との距離を縮めると賊が期待通りのセリフを吐いてくれる。

「おい、あんた等。追われてるんだ。助けてくれ」

 重装備の連中は今の首領格が上げた声で本人だけじゃなく俺にも気づいたようで一斉にクロスボウを構えた。

 全員が躊躇なく同じ行動を取った所を見て、予め幾つかの状況を想定して対応を決めておいたんだろう。

 気配探知で大まかだが狙いが読めたのでさらにスピードを上げ、放てと号令がかかった瞬間前を行く賊の首を後ろから掴み引っこ抜くようにして一緒に横へ飛ぶ。

 狙いが正確だったのが返って幸いしほとんどの矢は避けられたが、1本だけわざと首領格の太ももへ命中させ俺の後ろへ庇うように放り投げ重装備の連中を見る。

 次の矢を警戒したが連中はクロスボウを鞍へ戻し槍を持つようなので俺の方も手早く知りたい事を聞き出しておこう。

「そこのお前。取り敢えず命だけは助けてやるから、連中との関係を手早く話せ」

 横目を向けて問いかけた首領格の表情は青ざめていたが躊躇わず口を開いた。

「俺達への依頼主だ。金払いが良かったから今回の仕事を引き受けたが詳しい素性は何も知らない」

 口調や表情を看破眼で見た感じでは嘘じゃなさそうだ。

 ついでに傷の様子も見てみるが出血は余りないので暫くは放っておいてもいいだろう。

 これで気兼ねなくあそこの連中に仕掛けられる。

「分かった。邪魔になるからそこから動くなよ」

 首領格に釘を刺して重装備の連中へ向き直れば、向こうも交渉や俺達を見逃すつもりはないようで槍を構え突撃陣形を組み終わっていた。

 感じる気配からして全員レベル12〜3位のようだから俺だけでも時間をかければ倒せそうだが、波状的に突撃を繰り返されれば対応に手を取られ倒し切るまでに後ろの賊がやられる可能性がある。

 まあ馬上からの槍が届かなければいいし逃走防止もかねて賊の真下に土魔術を発動させて2m程の落とし穴を掘って放り込んだ。


 一応クロスボウの曲射や下馬しての槍撃を警戒して落とし穴に固めた土で蓋をしていると多少焦った感じで5人程が突撃してくる。

 今の様子だと突撃を装ってそれを止めようと俺が前に出た所を足止めし、先に俺が確保した賊を仕留めるつもりだったようだ。

 それでも変化する事態へ柔軟に対応できるだけの錬度はあるようで馬を加速させながら鏃の隊形を組んで突っ込んでくる。

 こいつ等も出来るだけ生け捕りにしたいので後続のみんなが合流するまでは様子見でいいだろう。

 土の蓋にはそこそこの強度を持たせたので確保した賊の事も取り敢えず忘れていいな。

 考えている間に間近まで来た先頭の一騎が突き出してくる槍を紙一重で避け、後で楽が出来るようすれ違いざまに風魔術で編んだ圧縮空気の塊を脇の辺りに仕込み横を通りぬける。

 斜め後ろいた後続の一騎の攻撃も同じように仕込みをしてすり抜け、駆け抜けていく騎馬の様子を後ろから窺うがどうやら仕込みには気付いていない。

 上手く行ったようだが内心で喜ぶ暇もなく次の5騎が俺へ向けて加速を始めた。

 2波目の突撃も仕掛けをしながらかわし、続けて突っ込んできた3波目も同じようにしてすり抜けると最初の5人が方向転換しまた突撃してきた。

 今度は別の奴に魔術を仕込んでやり過ごすと2波目の連中がまた突撃してきて、3波目の連中を含めた反復突撃をかわしながら仕掛けて来た全員へ仕込みが終わった所で念話が飛んできた。

(リク様、もうすぐ追いつきますけど、何遊んでんですか?)

(お前達を待ってたんだよ、アグリス。注意を引いて馬の行き足を鈍らせてくれ。そこで仕込んだものを使い一時的にほとんどの奴を行動不能にするから纏めて生け捕りにしてやろう。)

(了解です。ある程度近づいたら声を上げるんで、それに合わせてその仕込みってやつを使ってください。)

 念話を終えて農村の方へ視線の向けるとまだ少し距離があるが確かにアグリスとアデルファの姿が見える。

 波状的に続いている突撃をかわしながらふたりが近づいてくるのを待ち、十分傍まで来て雄叫びをそろって上げたアグリスとアデルファへ騎馬の注意が逸れスピードが落ちた瞬間仕掛けを発動させた。

 脇腹の辺りに仕込んだ空気の塊が一斉に破裂し、仕掛けた全員を馬上から吹き飛ばす。

 受け身も取れず地面へ叩き付けられ呼吸ができず動きが止まった奴らへ素早く近づき、魔力を応用した鎧通しの打撃を打ち込んで気絶させていく。

 俺が突撃の一隊目を組んでいた5人へ止めを刺している間にアグリスとアデルファも手分けをしてくれたようで、最後の一人を気絶させて周囲を確認すると二人とも別の隊への止めを刺し終わっていた。

 アグリスとアデルファの機転に感心するが、突撃に参加しなかった連中がまだ残っているのでそちらへ視線を向ける。

 優勢から急に一変した戦況へ理解が追いついていないみたいで呆然としており、これはチャンスだ。

「アグリス、アデルファ、ここは任せるぞ!」

 2人の返事も待たず残った連中へ向けて駆け出しながら、伏せておいた切り札へ念話をつなぐ。

(ガディ、グリア、待たせたな。俺を挟んで残った連中の反対側に出てくれ。挟み撃ちにするぞ。)

(御意、お任せ下さい。)

(待ってましたぜ、頭。)

 二名とも焦れていたようで念話での返事の途中から動き出してくれ、俺から見て残った連中の後方に茂る背丈のある草むらから飛び出してくれる。

 実はアグリスとアデルファが合流してくれる前から騎馬たちの逃亡阻止のため二人とも今の場所に伏せてくれていた。

 今回は地味な役回りに回って貰った分最後の見せ場はガディとグリアに譲ろう。

(グリア、そのまま距離を詰めて咆哮を上げ馬の自由を奪え。)

 返事の代わりに加速したグリアは間合いを一気に詰めて咆哮を上げ、それを間近で浴びた馬たちは恐慌状態へ陥って一斉に暴れだした。

 後ろから不意を打たれ馬の制御ができなかった残った連中は振り落とされ地面へ叩き付けられる。

 ここまではほとんど予想通りだったので油断あったと思う、続く事態へ反応できず残った連中の一人がガディとグリアを目にすると腰から短剣を引き抜いて素早く自分の首へ突き立てた。

 慌てて傍まで行き様子を見るがもう事切れており、首の短剣には何かの液体が塗られていて看破眼を使ってみるとそれは毒のようだった。

 予想外の行動だが呆然としている残りの奴を素早く気絶させ、グリアとガディにザイデルさんを呼びに行かせた。


お読み頂きありがとうございます。

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