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#52 魔物討伐の準備をした、アルデスタ

「リク様、御武運をお祈りしておりますぞ。後お早くご用命くだされ」

「ああ、依頼先に着いたらなるべく早く干渉地を確保するよ」

 アルデスタから戻って4日経った早朝。出発の挨拶を交わし最後に一礼したバルバスに見送られ、いつもとは違うメンバーでトロスの家を出た。

 何とか加工の間に合った即席の鞍と手綱を身につけたグリアにシャドウフレイム達が姿を消して張りつきアグリスが跨って先頭を進み、その後を俺、アデルファ、ガディにティータとティーエが続いて行く。

 馬車を手配している北門へ向かう途中ギルド近くの広場を通りかかり、3〜40人程の武装した一団が目に留まった。

 その中に既知の気配を感じて目を向ければ、ボルトンとその仲間達が混ざっている。

 そうなるとこの一団がトロスから派遣される傭兵部隊という事になるんだろう。

 広場に近づくとグリアが目立つせいかボルトン達も俺達に気づき、互いに身振りで挨拶を交わし内心であいつ等の武運を祈ってその一団の脇を通り抜けた。

 

 北門の近くで手配していた馬車に乗り込みトロスを出発する。

 グリアが馬車の後ろに続く形で前回と同じようなペースで街道を走り、問題なく夕方前にアルデスタの城門前まで来れた。

 馬車とはそこで別れ入場審査の列に並んで待つ間、シャドウフレイム達は城壁に張られた結界を飛び越えさせた。

 使役魔物を連れてでもアルデスタに入れるとサラに聞いていたし結界がどうグリアに反応するか興味があったが、城門の部分はは解除と再展開が容易なようで結界の解除された門を何事もなく潜ってアルデスタに入った。

 

 先に結界を飛び越えたシャドウフレイム達と街中で合流しそのままギラン商会を目指す。

 以前と変わらないように見えるアルデスタの街を抜けグリアは外で待たせて商会の建物に入った。

 ここも前と同じようにせわしなく働いている従業員たちの一人へ話かけて名乗ると事情が周知されているようですぐにエクトールさんの元へ案内してくれる。

 この前と同じ部屋に通され、書類仕事をしていたエクトールさんが柔和な笑顔で歓迎いてくれた。

「お待ちしていました、リク殿」

「改めてお世話になります。エクトールさん」

 挨拶を交わし俺達を一瞥するとエクトールさんが眉をひそめた。

「新しい方が3名いらっしゃるようですが、槍を使っていた方はどうされました?」

「バルバスは魔物の狩場の管理に残しました。今回連れてきたアグリス、アデルファ、ガディの三名とも俺と同等の腕前をしていますからご心配なく」

 エクトールさんが一つ頷いてくれたので今度は俺から切り出す。

「早速ですが使役魔物と泊まれる宿を紹介しれ貰えませんか?アルデスタに入ってすぐにこちらへ顔を出したので手配がまだなんです」

「そういう事なら当商会の客室にお泊り下さい。厩舎もありますので使役魔物の世話も出来ますよ」

 そう答えてくれたエクトールさんはすぐに従業員を呼び寄せ人数分の客室と厩舎の準備を指示してくれる。

 俺もグリアの世話をアグリスに頼んでその従業員について行かせ、エクトールさんの準備の状況を聞くため向かい合ってソファーに腰を下ろした。

「ご厚意感謝します。それでアルデスタから出発は明日のいつ頃になりそうですか?」

 軽い気持ちで確認したんだがエクトールさんの表情が曇った。

「実を言いますと出発は明後日以降に遅れそうなんです」

「何か問題でも起きたんですか?」

「はい、支援物資は集め終わりましたが、一緒にここを立つ予定の伯爵家の二次増援部隊の集合が遅れているようなんです」

「あのグライエン様が遅れているんですか?」

 あの精力的に動いていた方が何故と思ったがエクトールさんは首を横に振った。

「あいつはアルデスタの警備隊から選抜した兵とギルドの傭兵を率い私がアルデスタで集めた物資を持って既に戦地へ向かいました。仕事が遅れているのは二次増援部隊の責任者に指名された男です。昨日面会したのですがのらりくらりと言い訳を並べるばかりで遅々としてアルデスタ周辺からの兵の集合は進んでないようです。明日もう一度面会する予定でおりますが、もし兵の収集がまだ全く進んでいないようなら当商会の輸送隊だけで戦地へ物資を運ぶことになるとご理解ください」

 エクトールさんへ頷いてこれからどうするか考える。

 一日暇にするのも勿体無いので何か準備する事は無いか考えて思いついた。

「分かりました。そういう事ならこれからギラン商会と取引のある武器屋か鍛冶職人の所へ案内してくれませんか?最短でも出発まで一昼夜以上あるなら武器だけじゃなく既製品の鎧も俺達用に調整する事位は出来ると思うんです。トロスよりいい物が在るかもしれませんし、格納庫を持っているので予備の装備があっても困りませんしね」

「良い考えだと思います。すぐに手配いたしましょう」

 エクトールさんは一つ頷くとすぐに声を張って従業員を呼び出してくれた。


 ギラン商会での面会を切り上げアグリスも呼び戻して従業員が案内してくれたのは、トロスで馴染にしている武器屋より2回り以上大きな武具工房だった。

 紹介された工房主の話では街の衛兵やギルドの傭兵の動員で在庫が減っているという事だったが、俺的には十分な品数があるように見える。

 流石に刀は無かったがそれでも何本かの大剣や両手持ちの斧や鎚に短剣と杖を見繕う。

 偶然サイズが合い簡単な微調整程度で着られるようになった鉄製の部分鎧も俺用に手に入れ、大きめに作ったせいで売れ残っていた同系統の鎧をアグリス、アデルファ、ガディように一揃いずつ明日の夜までに調整してもられる事になった。


 武具工房から商会へ戻って一夜明け身支度を整えて朝食も振舞ってもらうと商会を出て行こうとするエクトールさんを見かける。

 恐らく昨日話していた二次増援部隊の責任者との面会へ向かうんだろう。

 面会の内容が俺も気になるので、発見されない事を第一に動くよう念を押してシャドウフレイムの一体をついて行かせた。

 俺も折角出来た時間を無駄にしないよう前に来た時は出来なかった完全記憶領域を使ったアルデスタの脳内地図作りに街へ出た。

 まずはギラン商会周辺の街並みを記憶し、次に街の主要道路を把握するため大通りへ足を向ける。

 アルデスタには南門から入ったしギルドやギラン商会は街の中心部にあるので大通りへ出てそれに沿って北へ行ってみた。

 真っ直ぐ大通りを歩いて行くと北門が見えてきてその前の広場に150人程の武装した集団がたむろしていた。

 装備がまちまちな所を見ると皆傭兵のようで、恐らくこの集団はギルドの2次か3次派遣の増援部隊だろう。

 集団行動の程度から士気を推測できるかと思ってその集団を囲んで眺めている野次馬に混じりついでに気配探知スキルで感じる気配の大きさから比較的腕の立つ者へ看破眼を向けていく。

 少し距離があるので読み取り辛かったが看破した10名程は平均してレベル20前後位で皆レベル4〜5の剣術や魔術などの戦闘系のスキルを身に着けている。

 単純な数字での比較だが以前奴隷狩りを潰した時一対一で仕留めたあいつと同程度で、これならそう悪くない使い手が集まったようだ。

 そうしていると看破した内の大剣を装備した男が声を張って隊長だと名乗りを上げ続けて出発を告げる。

 続いて隊長だと名乗った男を先頭に軍隊ほどではないがそこそこ揃った行進で開いている北門を潜っていきギルドの増援部隊はアルデスタを出立していった。

 段々と北門周辺の往来が増えていき、それに紛れてギルドの増援部隊が見えなくなるまで見送る。

 その歩く姿の中にやる気のない気だるげな者や、明らかに不服そうな者は見かけなかったので士気はそう低くなさそうだ。

 多少ホッとして北門周辺の脳内地図作りに戻った。


 昼ごろになったので食事のため商会まで引き上げるとエクトールさんについて行かせたシャドウフレイムが戻っていた。

 尾行が上手く行ったか気になったが空腹には勝てず、商会の食堂で昼食を食べてから客室へ引き上げ報告して貰う。

 どうやらシャドウフレイムは上手くやってくれたようで、目を閉じた視界に窓からのぞき覗き込んだ会談の様子が映し出された。

 エクトールさんと二次増援部隊の責任者だろう金属の鎧を身に着けた中年の男性が向かい合って座りエクトールさんが色々問いかけている。

 その度に責任者だろう中年の男はのらりくらりとはぐらかし最後は無言での睨み合いになって何を聞いても無駄だと思たんだろうエクトールさんが席を立った。

 常に抑えた表情と口調で問いかけていたエクトールさんと違い責任者だろう中年の男には隠そうとはしているようだったが明らかに意図的なサボタージュをしているという雰囲気がにじみ出ていた。

 こうなるとギラン商会の人員だけで物資を戦地へ送る事になりそうだし伯爵家の二次増援部隊にはあまり期待しない方が良さそうだ。

 シャドウフレイムからの報告が終わりまた地図作りに出ようとしたら昨日の武具工房から連絡がきた。

 装備の最終調整と引き渡しをしたいというので全員で出向き、きちんと俺達に合わせてくれた武具を貰い受ける。

 商会に戻るとエクトールさんに呼び出され明日の朝物資を送るので護衛について欲しいと告げられた。


お読み頂きありがとうございます。


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