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#50 魔物討伐の準備をした、トロス

 ギラン商会の馬車は街道を快調に飛ばしてくれ、今回の依頼に向けてどういう準備をするか考えながら馬車に揺られていると空が多少赤くなりだしたころトロスの北門を潜れた。

 御者にチップを出して別れ、バルバス達には眷属達を廃坑道の楔の元へ集めるよう指示し俺はミシェリさんの元へ急ぐ。

 昼の顔から夜の顔へ雰囲気を変えていく花街を抜け客の呼び込みが始まっている裏路地を通りミシェリ魔法薬店に着いた。

 扉の鍵はまだ開いており中に入るとカウンターにいたミシェリさんは多少奇異の目を俺に向けてきた。

「あら、あなたがこんな時間にこの界隈にいるなんて珍しいわね」

「さっきアルデスタから戻ってきたばかりで、そのままここへ顔を出したからこの時間なんだよ。依頼はきちんと果たしたからその代金と納品証明を持ってきた、受け取ってくれ」

 格納庫から金袋と納品証明を二つずつ取り出してカウンターの上に並べる。

 ミシェリさんは手早くそれらを確認して俺に視線を戻した。

「確かに、ご苦労さま。それでいい儲け話が出来た?」

 カウンターの上の物を片付けながらミシェリさんは悪戯が成功したような笑顔を向けてくる。

 その顔を見て一つ察しがついた。

「その表情、ギラン商会の海運が会頭の直轄事業だって知ってたんだな」

「あら、いいじゃない。最初から商会のトップと知り合いになれたんだから。それで話してみてどうだった?」

「投資の話をする前に傭兵の仕事を引き受ける羽目になったよ。アルデスタの傭兵ギルドに領主から強制依頼が出たのを知ってるか?」

 俺が強制依頼と口にした辺りからミシェリさんは表情を真剣な物に一変させ、どこか俺をからかうようだった前のめりの姿勢も正した。

「ごめんなさい。まだよ。その話詳しく聞かせてくれる?」

「ああ、構わない」

 アルデスタの宿やグライエン氏に聞いた話をミシェリさんへ順にしていく。

 話が進むにつれミシェリさんの表情は真剣さの度合いを増して行った。

「そう、北の方で魔物の群れが森から溢れたの。話の通りだとすると魔法薬の需要が高騰しそうね。忙しくなりそうだわ。それでリク達もその援軍に参加するのね?」

「ああ、ギラン商会に雇われて派遣される傭兵って立場で参戦する事になった。魔物の見張りとして坑道に人は残すけど俺が戻るまで鉱石の供給や魔法薬の納品代行は諦めてくれ」

「まあ、仕方ないわね。それでいつトロスを立つつもりなの?」

「坑道で俺達とは別に魔物狩りをさせている連中にも今の話をしないといけないから、恐らく3〜4日後位になるんじゃないかな」

「分かったわ。この2~3日の間に出来るだけ魔法薬を準備しておくから出発前に取りに来て」

「助かる。払いは鉱石でいいか?」

「ええ、忘れず取りに来てね」

「分かってる。じゃあ今日はこれで引き揚げるよ」

 頷いてくれるミシェリさんの前を辞して店の外へ出た。


 完全に夜の顔へ変わった花街や飲み屋街を素通りし家まで帰って来る。

 玄関をくぐりそのまま地下に下りて楔の機能で転移し廃鉱山の地下ホールに出ると獣人の里を警備監視しているハック以外の全てのネームド眷属がそろってくれていた。

 早速話を始めたいが何をするにしても原資になってくる楔の中のポイント残量を確認する。

 そろそろ換装魔体の保留してある因子を解放しようと思い溜めていたポイントが45000程になっていた。

 因子の解放が遅れるのは少し残念だがこれ2人擬人化出来るし、出発するまでの3日あれば恐らくもう一人追加できる。

 まあアグリスとアデルファ以外に擬人化を与えられる眷属が増えているか確認は必要だが、それは引き受けた依頼の話の後にしよう。

「バルバス、みんなにここへ集合を掛けた理由を話してくれているか?」

「はい、ギラン商会での話を皆にしておきました」

 視線を向けた俺にバルバスは頷いてくれる。

「助かる。じゃあ今回の依頼で俺の考えたみんなの役割分担を話すから意見があったら何でも言ってくれ。まずバルバスだが廃坑道を人間から見て空にする訳にはいかないからウチのナンバー2として管理のため残ったって事にしてくれ。勿論依頼先の戦地に着いて干渉地を確保したら呼び寄せるからゴーレムの姿で暴れて欲しい。ただ気が早いかもしれないけど向こうではその魔法の槍は使わずマグマの槍で戦ってくれよ」

「ゴーレムの姿と擬人化した姿を関連付けない為ですな。心得ました。わたしの方からも一つ具申がありまして、シャドウフレイムとなれるフレイムファントムを何体か見繕っておるので眷属に加えお連れ下され」

「索敵役の追加はありがたいな。後で忘れずやっておく。次にティータとティーエだが俺についてきて精霊術や新しく覚えた魔術で援護してくれ」

「はい、お任せください。リク様」

「お役に立ってみせます」

 視線を向けていたティーエとティータが頷いてくれるのを確かめアグリスとアデルファへ視線を移す。

「アデルファとアグリスには擬人化の能力を与えるから人として俺についてきてくれ。十分な金を渡すから出発までに装備を整えてほしい。後上手く行くならもう一名擬人化出来ると思うからそいつの分の装備もついで用意してくれ。まあギラン商会からもっといい物が手に入るかもしれないけどな」

「御意に従います」

「お役に立ってみせますよ、リク様」

 返事を返してくれた二人から全員を見回しながら話を続ける。

「残りのみんなは向こうで干渉地を確保するまでいつも通りポイントを稼いで欲しんだが、1つ意見を聞かせて欲しい事がある。廃坑道で遭遇し名前を付けて従わせたって名目でグリアを連れて行くのはありだと思うか?」

「ありだと思いますよ。一定以上の強さの奴が知恵ある魔物を連れてるなんて俺達が前いた所じゃそう珍しくありませんから」

「アグの言う通りです。リク様の護衛力強化につながりますし、鞍と手綱を多少弄ればグリア殿に乗っての騎乗戦闘も可能でしょう。リク様がお乗りになってもいいし、わたしやアグにも多少の心得はあるのでよりお役に立てると思います」

 賛否の確認にバルバスの方へも視線を向けると躊躇なく頷いてくれたので、決まりだな。

「反対意見は無いみたいだし頼むぞ、グリア」

「へい、任せて下さい」

 グリアが頷いてくれるとドグラが一歩前に出た。

「頭、俺は連れて行ってくれないんですかい?」

「坑道に出てくる魔物じゃないからお前はダメだ。ドグラ。干渉地を確保したら呼び寄せて暴れさせてやるからそれまで待ってろ」

「へい、分かりやした」

 ドグラが下がった所で話を終え、手回しの良い事にバルバスが連れてきていたフレイムファントム達を眷属に引き入れシャドウフレイムへ任じた。


 みんなに解散を許可する前にアグリスとアデルファへ擬人化能力を付与し、俺やバルバスから予備の格納庫や服を融通する。

 ついでに他の眷属へ擬人化能力を付与出来るか調べてみたらガディにダルクとハックにクライフやネイミへ付与可能だった。

 クライフは元人間でネイミは魔人なのでまあ分かるが、どうして以前不可能だったダルクとハックやガディに付与可能になったのか看破眼で調べてみる。

 どうやら人関連の因子保有者かレベル20以上で基本人型をしている者に今の所は擬人化を付与可能なようだ。

 こうなると出発するまでにあと一名誰に擬人化を付与するか問題になるが、ここはマジックマグマアーマーを同列に扱うという意味でガディとしよう。

 これで準備を始める前に決めておくべき事がすんだのでアグリスとアデルファにトロスの俺の元へ翌朝出頭するよう指示して眷属達に解散を許可した。


 一夜明け擬人化して地下から上がってきた二人にガディの装備の調達も頼み、紛失した事にして3人分の通行証も手に入れるよう指示し十分な金を持たせ送り出す。

 俺の方はボルトン達へしばらく不在するのを伝えグリアを連れ歩く口実作りに廃坑道へ歩いて向かった。

 昼前に坑道の入口に着き、すっかりボルトン達の定宿として再生された建物の中を覗くが魔物狩りの途中だったようで荷物番しかいない。

 仕方ないので話がありボルトン達へ面会を希望していると荷物番たちへ伝え俺達も坑道に入った。

 立坑を下り楔の元まで行ってグリアと合流し来た道をそのまま引き返して一緒に坑道を出る。

 もう一度ボルトン達のねぐらに顔を出すと今度はボルトンや仲間達がそろっていて、グリアを紹介し依頼でしばらくバルバス以外がここを離れると話すと驚かれたがボルトン達の話を聞いて俺も少し驚いた。

「ボルトン達も北の魔物討伐に参加するのか?」

「はい、昨日ギルドへ魔石の換金に行ったやつが話を拾ってきて、この坑道での狩りで上がった力を試すいい機会だと思ったんで行ってみようと思います」

「分かったが、ここでの魔物狩りはどうする?あの剣の貸し出し契約はこれで終わりか?」

「いえ、貸し出しはこれからも続けてください。討伐に参加するのは俺を含めて装備がそろっていて腕前に自信のある数人だけですし、頭数の減る分はスラムの知り合いに声を掛けてすぐに埋めますから」

「まあ、魔物狩りをしっかりやってくれるなら出自を問うつもりはないけど、狩りに穴が開くようならギルドの方へ人員補充の声を掛けるからな?」

 ただこうは言っても恐らくギルドも討伐に人手を取られる筈だから即人員補充とはいかないだろう。

「はい、討伐に参加する前にしっかり補充の手当てをします」

「ならいいが、たぶん俺達は3日後の朝方トロスを立つ。それまでに補充の目途が立たないようならここに残るバルバスへ報告しろよ」

「俺達も多分同じ日にトロスを立つと思うんで、それまでには引き継ぐ奴を連れて挨拶に行かせてもらいます」

 そうボルトンが言うので俺の家を知っているのか聞いたら街のどこにあるかは知っているようで、ついでに依頼で出ている間の剣の貸し出し料も家に持ってくるよう指示した。

 ボルトン達の荷物の整理がまだ途中だったのでそれが終わるのを待ち一緒に廃坑道を後にする。

 グリアの連れ歩くのが問題になるかもと多少不安だったが、名前を付けた使役魔物だと説明するとトロスの門をあっさり潜れて中に入れた。


 それからの2日は準備に専念しミシェリさんからは魔法薬を約束通り融通してもらい、何とかポイントも溜めてガディへ擬人化を付与できた。

 アルデスタ行きの馬車を手配するためギルドへ足を運ぶとサラからも問題の討伐への参加を依頼される。

 断ると非難を含んだ厳しい視線を向けられるがギラン商会の傭兵としての参加を伝えると頭を下げて謝ってくれた。

 そこからは馬車の手配を素早く終えてくれ、武運をお祈りしますとサラはもう一度頭を下げて送り出してくれた。





お読み頂きありがとうございます。

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