#47 鉢合わせた、アルデスタ 1
ミシェリ魔法薬店を出ると真っ直ぐ家への帰路に着く。
アルデスタに向かうのは確定なので事前に情報をギルドで聞くのが正確かもしれないが先に知っている身内に尋ねるべきだろう。
家に帰り玄関をくぐるとまっずぐ地下へ下りクライフの研究室の扉を開けた。
どうやら念動魔術の併用で何かの魔道具を作っていたようで手が止まるのを待って声をかけた。
「クライフ、悪いが少し時間をくれるか?」
「少々お待ちください」
両手の他に浮かべていた計4つの工具を作業台に置いてクライフは俺の前に浮遊してきた。
「どのような御用でしょうか、リク様」
「実はミシェリさんに貯金の運用法を相談したら、逆に依頼を受けてアルデスタに行く事になってな。以前は場所と名前を聞いただけだからもう少し詳しく教えてくれないか」
「相変わらずあの娘は人に頼みごとをするのが上手いようですな。まあそれは置いておいて、アルデスタですか。特に変わった物がある街ではありませんでしたよ。元々は瘴鬼の森から湧いて出る魔物の頻出ルート上に討伐のため建てられた出城が前身で、そこに領主が住まうようになって城塞都市が形成された街だった筈です。ギルドで通行証を手に入れついでに辻馬車の手配もすればアルデスタへは簡単につけるでしょうが、恐らく教会が魔物を拒絶する結界を張っていますよ。少なくともわたしが生きている時はそうでした」
結界と聞いて邪竜を封じていたやつやミシェリさんの店を覆っているやつが思いおこされる。
とくに邪竜を封じていたやつには俺の体もきっちり反応していたので、あれが大勢の通る街の門で起きたらかなりヤバそうだ。
「もしかして俺やバルバスの擬人化がばれる可能性があるってことか?」
「はい、まあゼロではないといった程度の確率だと思いますが」
分かってはいたが0だと言ってはくれなかったので思わず渋い表情になる。
ただクライフは否定意見を言うだけの奴ではないので話の続きを聞こう。
「そう忠告してくれる割りにアルデスタ行きの中止を促さないのは何か対策があるからだと思っていいか?」
「勿論です。低級になると思いますが大至急で魔術防御の護符を作るのでそれをお持ちください」
「すまん。どうしてそれが対策になるのかも教えてくれ」
「簡単な理由です。お作りする護符は魔術を減衰するするタイプの物を考えているので、もしも結界が反応しても護符が干渉したと言えばそれで納得するでしょう。普通の兵は魔人が人に化けて街に潜入しようとするなどとは考えませんから」
「なるほどな、よく分かった。悪いが早速制作に掛かってくれるか?」
「承りました。すぐに作業を始めます」
一礼してくれたクライフが喜色を纏って作業をはじめてくれたので邪魔にならないよう研究室を出た。
今回もクライフの仕事は本当に早く翌日の昼には腕輪型をした魔術防御の護符を仕上げてくれた。
そのクライフの助言に従い昼からはギルドへ顔を出して手数料を払いアルデスタの通行証と翌朝一番の辻馬車を手配してもらう。
その足でミシェリさんの元も訪れ魔法薬と紹介状の他にアルデスタの傭兵ギルドと納品先の商会の場所が書かれた地図も受け取って引き上げた。
その翌早朝、眷属達に後を任せバルバスにティータとティーエを連れてトロスの家を出た。
北門の近くで手配していた辻馬車に先払いで運賃を払い全員乗り込んでトロスを出発する。
初めて乗った馬車は思いの外よく揺れ最初は無様に酔わないか内心かなり不安だったが、貰った体はここでも高性能で特段問題なく車内で過ごせた。
行く道の両側に広がる農村の風景を横目に中々の速度を出して馬車は進んで行く。
2時間に1度ほど馬たちを休ませながら多少凸凹し緩くカーブしている道をひたすら馬車が走っていると太陽が少し傾いて来た頃遠目に城壁が見えてきた。
そしてクライフが言っていた結界だと思う城壁と一体化しているが高さは3倍近くある光の壁もこの目で捉えた。
内心多少不安だが表に出さないよう気を付けて馬車が城壁へ近づいて行くのをジッと待ち、暫くしてゆっくりとスピードを落とし城門付近に止まった馬車を下りる。
御者にチップの銅貨を渡して入場待ちの列に並ぶと待ち時間を利用し看破眼で結界だと思う光の壁を調べてみた。
叡智の方の看破眼なので発動者や開発者などの詳しい情報は見えないが、大まかな術式や魔力の供給ラインは見える。
どうやら魔物が纏う瘴気に反応して侵入を拒む半実体の壁のようで地脈炉を使って瘴気を抑え込める俺と違いバルバスがちょっと不安になった。
まあ魔石や魔物素材が帯びる位の少量の瘴気には反応しないようだし、クライフの護符がある。
それでもいざとなったらここにいる兵を蹴散らして冥炎山に引き籠ればいいだろう。
そう腹をくくって門衛に通行証を提示して入場の許可をもらい門の部分にも展開されている光の壁を通過するが、俺にもバルバスにも全く反応せず取り越し苦労に終わってアルデスタに入場した。
ホッとしたようなどこか肩透かしを食らったような気分を払うように気合を入れ直しミシェリさんからもらった地図を取り出す。
夕方というにはまだ早い時間だが今から商会を訪ねても幹部級と今日中に面会出来るとも思えないので距離的にも近いギルドの用事を先に済ませた方が効率的だろう。
目的地であるアルデスタの傭兵ギルドへの道順を地図で確認して歩き出した。
石造りの建物が両側に並び人々が行き交う石畳の道を俺達も進んで行く。
何度か角を曲がり見慣れたギルドの看板を掲げる建物に入るとトロスの物とよく似た傭兵ギルドの風景が広がっていた。
恐らく一番混むと思う夕方の時間を外しているお蔭か多少は空いていて、それほど待たず受付嬢に対応してもらえた。
「ご利用ありがとうございます。どのような御用件でしょうか?」
「トロスのミシェリ魔法薬店から店主の代理で魔法薬を納めに来た。現品と依頼書の控えを渡すから代金と納品証明をくれ。あと多少値が張ってもいいから4人で泊まれて煩わしい事の宿屋を紹介してくれ。」
「承りました。ではここに魔法薬と依頼書の控えをここにお出しください」
受付嬢が出したトレーに求められた物を出し、一礼して奥に引っ込む姿を見送るといきなり大きな音がギルドに響く。
とっさにその発生源へ振り向けば扉が勢いよく開かれていてかなりの風格がある老騎士が中に入りながら声を張った。
「伯爵家から傭兵ギルドへ強制依頼だ。」
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