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#46 教えて貰った、ミシェリ魔法薬店 2

 ミシェリ魔法薬店のカウンター奥に抜けて通された部屋は、落ち着いた雰囲気だが中々豪華な応接室だった。

 お茶を淹れてくるから座って待っていてと出て行くミシェリさんを見送り応接セットの椅子の一つに座って大人しく待つ。

 茶器一式を持って戻ってきたミシェリさんはテーブルにそれを広げ俺に一杯お茶をいれくれ向かいの椅子に腰かけた。

「で、一体何を考えてるの?」

「ミシェリさんの知ってると思うけど傭兵業がそこそこ上手く行っていてな。装備更新用の積み立て以上に小銭が貯まって来たんだ。余程の事故がなきゃこれからも貯まっていきそうなんで、どこかに投資しようと思ってる。トロスにはデカい港があるから海運関係が最初に思い浮かんだんだが、どんなもんかな?」

「海運ねぇ・・・」

 俺の話を聞いてミシェリさんの表情は思案気になった。

 どうやらトロスに着いてから感じていた俺の予想はそれほど外れてはいないようだ。

「やっぱり海運の景気は良くないのか?」

「あら、気づいてたのね。」

「まあ、あれだけの港に多い時でも半分くらいしか船が停泊しないからな。」

 不景気だと分かっている業種にわざわざ投資する俺の意図が読めないのか、ミシェリさんの訝しがる表情が深まった。

「そこに気づいていて海運に投資するつもりなの?」

「まあ傾いている海運が持ち直してこの街を訪れる人が増えれば、魔石のなんかの需要も増えてただ投資するだけより儲かるんじゃないかって思ったんだよ。」

「なるほどね。そこまで考えているのなら、わたしの助言なんて必要ないんじゃない?」

「いや、恥ずかしい話になるけど俺は海運がどうして不景気の理由はよく分かってないんだ。まずそこの所から教えてくれないか?」

「分かったわ。けどわたしの見立てが絶対に合ってるとは限らないんだから鵜呑みにせず他からも情報を集めてから投資先は決めなさいよ?リクが投資に失敗して夜逃げでもされたらわたしも困るんだから。」

 訝しげな表情を引っ込め真剣に念を押してきたミシェリさんへ苦笑しながら頷き返して話の続きを促した。


「わたしの私見になるけど、ここの港に船が余り来ない理由は恐らく最低でも3つあるわ。まず1つ目は冥炎山にいた邪竜よ。あいつがこの半島の突端部を通る船を何隻も沈めたの。だからここからの西の海路は急ぎじゃないと通らない航路として忌避されてるわ」

「ちょっと待った。その邪竜はたしか教会の勇者が相討ちで倒したんじゃないのか?」

「ええ、そうよ。鱗を持って帰還された御付の方がいたそうだし、聖女様が骸を確認してもいるから間違いないと思うわ。でも事実を元にした風評って中々消えない物なのよ?」

 鱗を持って帰還した従者や教会の聖女なんてバルバスやアデルファにアグリスが興味を持ちそうな話だが今は深く突っ込まず折を見てまた話を聞くとしよう。

「なるほどな、続けてくれ」

「2つ目は地形の問題よ。ここトロスから半島の突端部にある漁村周辺までの沿岸海域は岩礁が多くて航海が難しいらしいの。迂回しようと思ったらかなり沖に出ないとダメだそうだし、沿岸で安全な航路もあるらしいけどそこには魔物が出るみたいなの。だからここから半島の南を周り西に抜ける航路は地形に詳しい船頭と水棲の魔物に対応出来る戦力が必要になる筈だから新参や一般の船にはかなりのリスクがあると思うわ」

「信頼できる護衛を雇うには伝手がいるし、上手く護衛を増やせても積み荷が減る上報酬も必要になる。もし座礁でもすれば船そのものが沈むかもしれなから敬遠されるって事だな」

「ええ、その通り。それで最後の3つ目は補給の問題よ。ここエルゴルバ半島は雨も適度に降るし気温も温暖なんだけど、どうしてか作物の作柄があまり良くないの。そのせいで食料品は余所の港の相場より少し高めだって聞いたし、大地竜山脈に隔てらえた僻地にある半島だから傭兵の絶対数も少なくて魔石も割高だった。だから他の港より補給にコストがかかってるはずよ。まあ魔石の問題だけはリクがここの来たことで多少はマシになったみたいだけどね」

「まあ投資を考える位には、その魔石で稼がせて貰ってるからな。でもそうか、なかなか一筋縄じゃいかない問題があるみたいだな」

 風評に地形や物資とどれ一つとっても簡単に解決しそうにないし、恐らくミシェリさんが把握していない要因だってあるだろう。

 それでも海運の再興が一番トロスの街を活性化させるはずだ。

 まずは正確な情報をもっと集める必要がありそうで、海運の問題山積ぶりに一つため息をついていると何か悪巧みでもありそうな意味深の笑顔をミシェリさんが浮かべていた。

「難しい表情をしてるけど海運への投資を止めたくなった?」

「・・・いや、投資を止める気は今の所ない。ただ簡単でもないとよく分かったから暫くは本業の魔物討伐に中心に余った時間で情報収集をやるよ。急ぐ必要もないしな」

「そう、だったら私の提案を聞いてくれない?」

 ミシェリさんが意味深な笑顔を深めているが下手に勘ぐらず大人しく頷いた。

「実はアルデスタにあるこの伯爵領最大級の商会に魔法薬を卸しているの」

 俺も聞いただけだがアルデスタというのはトロスから北東に馬車で1日程の場所にあるそうだ。

 この半島最大の都市で領主である伯爵の居城もある領都らしい。

「海運にも顔の利く商会だし、リクが納品を代行してくれるなら顔つなぎの紹介状を書くんだけど、どうかしら?」

「あ〜そういう事か。ミシェリさんは輸送費を浮かせて俺は情報収集の伝手を得るって訳だ」

「そういう事。リクは理解が早くて助かるわ」

 ミシェリさんはもう意味深な笑顔を引っ込めているがそれは俺が断らないと分かってるからだろう。

 まあその思惑通りで多少癪だがもう少し条件を聞こう。

「一回だけでいいんだな?」

「出来ればこれからはリクに納品を頼みたいの。勿論2回目以降はちゃんと輸送料を払うわ」

「どうして輸送専門の奴じゃなくて俺に頼むんだ?」

「リク達は格納庫を持ってるから破損による欠品が起こらないし盗賊や魔物も問題にならないでしょ、だからよ。それで返答を聞かせてくれる?」

 大手の商会に接触する機会が増えれば、海運だけじゃなく他の情報も手にし易くなるだろうし悪い取引じゃないか。

「分かった、引き受ける。初回は俺が出向くつもりだけど後は仲間に任せる機会がほとんどになると思うがそれは構わないな?」

「ええ、いいわ。それと今回だけで構わないからアルデスタの傭兵ギルドへもついでに魔法薬を運んでくれない?単発での納品依頼がきているの」

「・・・分かった、そっちも引き受ける」

「ありがとう、リク。」

 いい笑顔をしているミシェリさんを見ているといいように使われている気がするが深く考えない方が精神衛生上良さそうだ。

「もう納める魔法薬は出来てるのか?」

「ええ、出来てるわ。ただ紹介状はこれから書かなきゃいけないから、明日以降一緒に取りに来て」

「了解。アルデスタへ向かう手配を終えたらまた顔を出すよ」

 出されていたお茶をグッと一気に飲み干して席を立った。


お読み頂きありがとうございます。

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