#43 呼び出された、トロスの高級住宅街 4
ギヌーボの配下達が立坑の最下層へ着き、その後ろを下っていたサラに続いて俺達も底へ下り立つ。
ネイミとマドラの願いをギャルドが土魔術で叶える形で大幅に拡張された最下層の坑道がギヌーボの配下達には異様だったようで護衛役がここからどう進むか議論をしていた。
廃坑前の坑道図のような物も取り出して議論に熱が入り始めるが、その声に引き寄せられるように魔物の気配が幾つかの種類近づいてくる。
今の段階で俺達が前に出れば問題なく片付けられそうだが、それでも報酬が出るのかサラに確かめてから動くとしよう。
ギヌーボの配下達の議論を多少の呆れ顔を浮かべて見ているサラの傍へ行き耳打ちした。
「サラ、ロックゴーレムとロックリザードそれにどういう訳かロックモールの気配まで坑道の先から近づいてくる。俺達でさっさと片付けようか?」
「いえ、魔物の排除も彼らの責任の範疇ですから警告だけに留めておきましょう。」
多少意外だったのでサラの表情を見るが特に変化は無い。
「警告だけで済ますのは何でだ?あいつらの腕前じゃあ近づいてくる魔物に勝てないだろうから、結局はサラの要請に通りに俺達が始末する事になると思うぞ?」
「確かにリクさんの言う通りだと思いますが、彼らの手に負えなくなるまで静観して頂けませんか?」
「まあ、サラに考えがあるんなら従うが幾らギヌーボの配下とはいえ無駄死には出したくないからむこうに重傷者が出たら俺達も前に出るぞ。」
「はい、それでお願いします。」
サラが頷いてくれたのでバルバスにティータやティーエへ戦闘準備を促し、まだ議論を続けているギヌーボの配下達へ魔物の接近を教えてやる。
俺の警告を聞いた彼らは慌てて戦闘準備を始めるが工夫たちへの満足な退避指示も終わらない内にまずロックゴーレムが姿を現した。
護衛役達は慌てて剣を抜き構えを取るが工夫たちは案外と冷静で一塊になって階段付近にいる俺達の方へ退避してくる。
護衛役達は近づいてきたロックゴーレムを5人で包囲し一斉に切り掛かるが岩質の体に全く歯が立たず、不用意に間合いを詰めたのが返って仇になりロックゴーレムのアッパーをまともに食らって護衛の一人が宙を舞った。
続けてロックゴーレムの裏拳で護衛の2人がなぎ倒され、残った護衛の2人も戦意が喪失したようで棒立ちになって後退りしていくのでこの辺りが潮時だろう。
介入の同意を求めてサラへ視線を送るとためらう事無く頷き返してくれ、俺もすぐさまみんなへ指示を飛ばす。
「俺達が前に出て寄って来る魔物を仕留めるぞ。バルバスはギヌーボの配下を助けてやれ。ティーエはここから援護射撃を頼む。ティータはサラの護衛に残ってくれ。みんな、行くぞ。」
「御意」
「「はい、お任せください。」」
みんなの返事を聞いて俺も腰の刀の鯉口を切り駆け出した。
丁度姿を現したロックリザードへ向けて距離を詰めながらロックゴーレムの方を一瞥するとバルバスがもう間合いを詰め体内を緩やかに移動する核を一撃で貫いていた。
俺も負けじとロックリザードへ間合いを詰め、噛みついてくるその首を居合の一撃で落とす。
次の獲物を捜して立坑の底を一瞥するとティーエが水の精霊術で生み出した円刃で別のロックリザードの頭を真っ二つにしていた。
そこで不意に俺達とは違う魔力の高まり感じその発生源へ目を向ければ、ロックモールが拳大の石弾を生成している。
次の瞬間工夫たち目掛け撃ち出されるその石弾を横から飛び込んで何とか途中で撃ち落とし、続けて突撃してくるロックモールを一撃で切り伏せるが別のロックゴーレムやロックリザードが立坑の底へ姿を現した。
そこから暫く侵入してくる魔物への迎撃が続き、俺の背後を取ろうとしたロックリザードをティータの生み出した風の刃が両断したその時また魔力の高まりを感じる。
すぐさまそちらへ振り向くといつの間にか現れた通常の個体より二回り程大きく鈍色の体表をしたロックモールの周りに大小幾つもの石弾が生成されていた。
今回も工夫たちを狙っているようなので射線に飛び込み、撃ち出されてくる石弾の内致死の大きさがある幾つかを何とか刀で撃ち落とす。
手が出せなかった石弾を視線で追うとティーエも精霊術の石弾で迎撃してくれたようで大半を相殺できていたが、幾つかの小さな石弾が工夫の大半をなぎ倒した。
心の中で一つ舌打ちし、次弾の生成を始めようと魔力をまた高めるそのロックモールへ今度は俺の方から切り掛かっていく。
何とか石弾が生成される前に間合いへ飛び込め刀を振り下ろすが前足から伸びる鈍色の爪に受け止められた。
間髪を入れず打ち込まれてくるもう片方の爪をバックステップで回避し、刀に纏わせる魔力を上げ炎も追加して再度間合いに飛び込む。
そのロックモールはまた鈍色の爪を盾にして俺の刀を受け止めようとするが今度はその爪を切り飛ばしてやる。
返す刀と共にもう一歩踏み込み止めを刺すためそのロックモールの様子を注視すると明らかに恐怖が見て取れた。
このロックモールには知性がある、一瞬そう考えてしまいそのせいで踏み込みが遅れ俺の方がロックモールの無事な方の爪での反撃を刀で受け止めた。
続けて目つぶし目的だろう後ろ脚を蹴りあげての砂かけを刀で爪を弾き後ろに下がって躱すと鈍色のロックモールは躊躇う事無く俺に背を向けて坑道の奥へと逃げていった。
とっさに追いたくなるが魔物の気配が近づいてこなくなったので多少悔しいが今ここに残っている奴らを倒し一息つくのが先だろう。
バルバスの突きが最後のロックゴーレムを仕留め、立坑の底に侵入してきた魔物を掃討し終わる。
そのままバルバスには警戒を頼み、俺とティーエで看破眼も使い怪我人の様子を確認していく。
幸い死者は無く鈍色のロックモールの石弾を受けた工夫の大半は軽傷で済んだようだが、一人の工夫とロックゴーレムの拳をあびた3人の護衛役は重傷なようだ。
手持ちの魔法薬で治療してやれば十分助かりそうだが、それでもすぐに動けるようにはならないだろう。
魔物が徘徊する坑道に怪我人を置いてはおけないので運び出さないといけないが残った護衛や工夫だけでは流石に手が足りない。
まあすぐ外にボルトン達がいる筈なので手を貸してくれると思うが、呼んでくるまでただ待っているというのも手持無沙汰だろうからあの鈍色のロックモールを追ってみようか。
「ティーエ、魔法薬を使って怪我人を手当てしてやれ。サラも手伝って欲しい。ティータ、怪我人を運び出す人手が欲しいから、一旦外へ出てボルトン達を呼んできてくれ。バルバスはそのまま魔物を警戒してくれ。」
みんな頷くと行動を開始してくれる。
まずティータが呼び出したように装ってガロとウォルトを新たに呼び出しお供につけてボルトン達を呼びに送り出した。
その後俺の格納庫から回復用の魔法薬を取り出しサラへ手渡した。
「その魔法薬を使ってくれ。あと俺はこれから逃げていったあの特異なロックモールを追ってみようと思う。」
魔法薬を受け取ってくれたサラの表情が渋い物に変わる。
「リクさん、傭兵として強力な魔物を仕留めたいというお気持ちは分かりますが、この状況での単独行動は双方にとって危険ではありませんか?」
「それも一理あるんだが、もしも逃げていったあいつがまた魔物達を糾合して戻ってきたら今度は死人が出かねない。その場合を想定して迎撃地点をここから引き離したいという意味もあるんだ。これで納得してくれるか?」
渋い表情のままだったがサラはゆっくり頷いてくれた。
(そういうことだから、ここの防衛は任せるぞ、バルバス。)
(御意、お任せあれ。ただ、リク様も十分ご注意をお願いしますぞ。危険を感じたら楔を守る者達を呼び寄せるようにして下され。)
念話を返してくれたバルバスへ頷きあの鈍色のロックモールが残した足跡を追って坑道の一つへ飛び込んだ。
お読み頂きありがとうございます。




