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#30 偵察に来た、港町トロス 4

 宿の食堂で朝食を取りながらバルバスとティータやティーエへ昨日の夜の事を話し、食事を終えると家具屋行きは保留にして三名を連れあの家があった界隈へ足を運ぶ。

 周囲の家へ手分けして聞き込みを行いあの家の家主を教えて貰うと、雑貨屋を営む女将さんだそうで店のある場所も教えてくれたので早速向かってみた。

 あの家のすぐ近くにある日用品や食料品が店頭に並ぶ店へ4人で入ると店番をしていた恰幅の良い女将さんが話かけてきた。

「いらっしゃい、何が入り用だい?」

「いや、俺達はあそこの角の家の家主さんがここにいるって聞いてきたんだけど間違いないかな?」

 俺が問いかけると愛想のいい笑顔で話しかけてくれた女将さんの表情が途端に曇る。

「間違いないけど、それがどうしたんだい。」

「俺達は旅の傭兵で、暫くこの街の周りで魔物狩りをしようと考えてるからきちんとした拠点が欲しいんだよ。それであの家を拠点として貸してくれないか交渉しに来たんだ。」

「そうかい、魔物退治の傭兵が借りてくれるなら大歓迎なんだけどね、あの家にはちょっと問題があるんだよ。」

「幽霊が出るんだろ?聞き込みの時教えて貰ったし、昨日の夜俺が実際見てる。だけど俺達は魔物退治の傭兵だ、幽霊が出る位気にしない。ただ幽霊が出る分相応に家賃を値下げしてくれるとありがたいかな?」

 曇っていた女将さんの表情が多少呆れたものに変わった。

「なるほどね、わざと問題のある家を借りて家賃を節約しようって事かい。いいよ、あの家を貸すけど、幽霊の事で文句を言ってくるのはなしだよ?」

「勿論、約束するよ。」

「じゃあ後は家賃だね、・・・諸経費込みで月2000ロブロでどうだい?」

 昨日一日色々と金を使ってみて1ロブロは10円位の価値があると思えた。

 そこそこの大きさの家で月二万の家賃は破格だろう。

「値切った俺が言うのもなんだけど、安すぎない?」

「正直な話、あの家に人が住んで管理してくれるだけであたし達にとっては得になるんだよ。」

「そういう事なら月2000ロブロで借りるよ。後遅くなったけど名乗らせて。俺はリク、後ろのダークエルフはティータとティーエ、大男はバルバスだ。これからよろしく。」

「あたしはララナだよ。こちらこそよろしくね。」

 ララナさんとがっちり握手を交わすと左腕に嵌めている格納庫からロブロ小銀貨を6枚取り出す。

「取り敢えず3か月分の家賃を前払いするから受け取って。」

「確かに受け取ったよ。あの家の鍵を持ってくるから、ちょっと待ってておくれ。」

 俺から銀貨を受け取ったララナさんは足早に店の奥へ消えると直ぐに鍵束を持って戻ってくる。

 ララナさんを先頭にあの家の前まで移動し門に掛かっていた南京錠のような鍵を外してくれると鍵束から一つ鍵を外して手渡してくれた。

「それがこの家の鍵だよ。中に残ってる家具は自由に使いな。最低限の管理はしてたけど後の掃除は自分達でやっておくれ。じゃあ幽霊の文句以外で何かあったらいつでも言ってきな。」

「ありがと。ララナさん」

 ひらひらと手を振って去っていくララナさんを見送って俺達は家の敷地へ足を踏み入れた。


 玄関の鍵を開け全員家の中に入って玄関を占めると三人へ振り返る。

「じゃあ、俺は最適の場所を探して楔を打ち込んでくるから、三人は家の中を確認して掃除を始めてくれ。」

 俺の指示に頷いて三人共家の中に散って行くので俺も格納庫に仕舞った楔を取り出す。

 干渉地を探す機能を起動し楔に引かれるように家の中を歩いていると程なく一番引き合う場所の真上を見つけたが、家の間取りを確かめるとここは昨日の夜幽霊の気配消えた位置でもあった。

 あの幽霊の気配は床へ吸い込まれるよう消えたので看破眼も使って床を調べて見ると上手く隠された扉があるが特に鍵のようなものは掛かってなかった。

 慎重に開けてみると地下への階段があり一応罠を警戒して看破眼で調べながら下りていくと、床に所々途切れた魔方陣のようなものが描かれ空の棚が幾つも並んだ地下室へ出た。

 楔を刺す最適の場所が床の陣の中央のようで、ここまで罠は無かったし陣も機能を失っていると看破眼で見えるので取り敢えず楔を陣の中央へ打ちこみ占有領域を展開する。

 トロス全域の他に周囲の小さな農村を幾つか収める所まで広がった感触がするが、昨日足を運んだ花街傍のあの家だけは領域化出来なかった。

 かなり気になるがあの家については後で訪ねた時看破眼で調べて見ればいいだろう。


 それより先に問題ないとは思うが完全な看破眼で床の魔方陣を調べて見る。

 機能を失っているのは間違いないが、どうやらこの陣は錬成術という地球の錬金術に似た魔法技術のためのものだったようだ。

 地脈から力を吸い上げて術者に流し込みより高難度の術の成功や術の規模の拡大のために使われたようで、この陣には瘴気を魔力に変換する機能も付いていた。

 この機能がついているとなるとここの地脈への干渉地は瘴気泉なのかもしれない。

 楔で調べてみるとその通りで人の街に瘴気が湧いているのは不味いだろうから楔の機能で霊気泉へ切り替えてみる。

 すると花街傍のあの家も占有領域下に入ったが、同時にすぐ傍から絶叫する念話が送り付けられてきた。

 とっさに刀を抜き魔力を纏って念が送られてくる方に振り返ると昨日この家で見た死霊がもがき苦しんでいた。

 看破眼を向け調べてみると戦闘能力はないようなのでより詳しい情報を覗こうとすると念話が伝わっていたようでバルバスが魔力を纏って階段を下りてきた。

 この死霊は少し様子を見たいので俺から声を掛ける。

「大丈夫だ。今の念話の主に戦闘力は無い。少し様子を見たいから手出し無用だ。」

 ちゃんと指示は伝わったようで地下室まで下りてきたバルバスは戦闘態勢を解除していた。

「そのようですが、それでも十分お気をつけくだされ。」

 死霊を一瞥して警告してくれるバルバスに頷いて視線を戻すと、念話で絶叫していた死霊から瘴気が漏れ始めた。

 一瞬強く噴き出したので警戒を強めるがすぐに弱まっていき瘴気が漏れなくなると同時に絶叫も止む。

 次に何が起こるか注視していると死霊は深々と頭を下げた。

(驚かせてしまって、ほんとーに申し訳ありません。)

 送られてきた念話に多少呆気に取られるがすぐに気を引き締め答えを返す。

「多少驚いたけど謝る必要はないよ。ただ一つ聞きたいんだけど、あんたは今の自分の状態を自覚してるのか?」

(はい、自分が死んでいる事もアンデッドになった事も分かっています。)

「そっか、なら俺達は新しくこの家を借りた傭兵なんだが、俺達と争う気はあるか?」

(いえいえ、貴方が今刺した結界具の放つ霊気で正気を取り戻しています。この家をうろついて住む人に迷惑を掛ける気はもうありません。)

「だったらこれからあんたとどう向き合うか決める判断材料にしたいからあんたの事を教えてくれないか?」

(分かりました、聞いてください。)

 床に座りこの幽霊が念話で喋る話に嘘がないか看破眼で見ながら同時に能力も見ていく。

 レベルは1しかないが魔力と感覚が高く、錬成術や魔道具作成に魔法薬製造の高レベルスキルも持っている。

 でもどうしてレベル1で高レベルスキルを持っているのか詳しく見てみると、どうやら瘴気に侵された無意識化ここに湧く瘴気を取り込みそれをポイントのように消費して生前から持っていたこれらのスキルをさらに強化したようだ。

 能力を確かめると幽霊が喋る話に集中し一応看破眼で見ると嘘はないようだが確認のため俺からも問いかけた。

「確認させてくれ。あんたは生前この家に住んでいた元錬成術師で、高難度の錬成に挑戦したら床の陣が暴走し高濃度の瘴気が大量に噴き出した。あっという間に瘴気に侵されてあんたは死に、魂はここの瘴気泉に囚われて死霊となり正気も失って時々家の中を彷徨っていた。大雑把だがあんたの身に起きた事はこんな所か?」

(その通りです。)

 色々役に立ちそうなのでこの幽霊は是非眷属にしたいが、もし成仏したいと思っている所を無理に眷属化しても禍根を残すだけだろう。

 まずはこの世に未練があるか聞いてみようか。

「話は変わるが、あんたは錬成術に魔道具や魔法薬の制作なんかにまだ未練があるか?」

(勿論ですよ。折角自我を取り戻しましたし極めたい術や作り出したい物がまだまだたくさんあります。ただこの体では錬成道具を満足に扱えませんし瘴気の供給が途絶えた以上わたしはもうすぐ消える事になると思います。本当に残念です。)

 最初は俺も驚くほど語気が強かったが、念話の最後は完全に意気消沈していた。

 語気の落差からして余程の未練があるんだろう。

 これなら条件次第で快く眷属になってくれそうだ。

「だったら、俺と取引しないか?」

(どういう事でしょう?)

「正気を保ったままあんたを消滅しないよう維持するから、俺のために働いてくれないか?勿論俺からの仕事が無い時は錬成術や魔道具、魔法薬製造の研究をして構わない。」

(大変有り難い提案なのですが、わたしは小心なので傭兵のような荒事には向きませんよ?)

「あんたにやって欲しいのは錬成術や魔道具に関する助言や俺が欲しいものをそれらの技術で作って貰う事だ。ただ俺達と一緒にレベル上げはやってもらうからな。」

(そういう事なら、喜んで取り引きさせて貰います。)

「じゃあ、決まりだな。」

 床から立ち上がって幽霊へ手を向けると体を溶岩体へ換装して眷属創操を発動する。

 すんなり魔力が通って眷属化が済むと目の前の幽霊がつぶやくように念話を送ってきた。

(魔人の方、だったのですか。)

「ああ、その通りだが俺は人間との共存共栄が基本路線で一方的な人間の虐殺なんてやる気はないから安心しろ。あと名乗ってなかったがリクって言う。よろしくな。」

(わたしも名乗るのが遅くなりました。クライフといいます。リク様が魔人の方だったのは少し驚きましたが、わたしも今はアンデットです。人の倫理から少々外れた事であろうと出来るだけお役に立つのでよろしくお願いします。)

「分かった、憶えとく。クライフを仲間に紹介するから上へ行こう。」

 首肯したクライフとバルバスを連れて地下室を出た。


お読み頂き有り難う御座います。


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