表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/142

#29 偵察に来た、港町トロス 3

 楔で作る日本食と比べると可もなく不可もなくといった感じの宿の夕食を食べて部屋に引き上げ、昼間防具屋で買ったフード付きで大きめの魔術師用ローブを今着ている服の上から重ね着しているとティーエが問いかけてきた。

「リク様、又お出かけですか?」

「ああ、昼間は買い物中心だったし、夜の街の様子も見ておきたいんだ。」

 そこで一旦言葉を切り溶岩体に体を換装して楔を作ると超人体へ戻る。

「ついでにこいつを刺す候補地も探してくるよ。」

「なるほど、楔を魔術師用の杖と思わせる為にそのローブを着られたんですね?」

 ティーエへ頷いているとバルバスが話かけてきた。

「御一人で行かれるつもりですかな?」

「そうだ。バルバスやティータ達を連れて行くとどうしても目立つからな。いざとなったらためらわず精霊達を召喚するから安心しろ。この宿も絶対に安全って訳じゃないだろうからバルバスはティーエ達についていてくれ」

「仕方ありませな。十分お気をつけくだされ。」

 過保護気味なバルバスへも苦笑しながら頷くとフードを目深にかぶって部屋を出た。


 宿から足を踏み出し周囲を一瞥してみるとほとんどが宿屋のようで酒場も併設されているんだろう男達が騒ぐ声が聞こえてくる。

 昼間は街中の店を回ったので港の方をまず見てみるとしよう。

 セラに書いて貰った地図を思い出し目的の方向へ歩き出すと宿屋街周辺だけあって幾つもの酒場が軒を連ねていたが、進むにつれ段々花街のような様相へ変わっていく。

 いかにも街娼といった雰囲気の姐さんに遊ばないかと艶のある声で頻繁に話かけられるが何とかあしらって花街の外れまで来ると干渉地ではないが強い魔力を感じた。

 とある路地の奥から感じるのでいつでも精霊を実体化出来るよう準備してその路地へ足を踏み入れる。

 春を売る引き込み部屋が幾つもあるようで男女が絡み合う声が両側から聞こえてくる細い道を魔力を頼りに進んで行くと一軒の家に行き当たった。

 夜だけに当然扉は閉まっていて中から強い魔力を感じる上、以前冥炎山の邪竜の亡骸を押さえていた膜とよく似たもので家全体が覆われていた。

 俄然興味が湧いてきたが扉の佇まいを見ると何かの店のようなので日を改めて明るい時間帯に再度ここを訪ねるとしよう。


 入ってきた路地を引き返し大通りに出ると元の進路を歩いて行く。

 周囲の様子が花街から倉庫街に変わって暫く経つと港へ出た。

 大型の商船が10隻は優に停泊できると思うかなりの規模の港みたいだが実際に泊まっているのは中型や小型の船が3〜4隻ほどのようだ。

 周辺の海の風向きや天候が悪くてたまたま少ないのかこの港を使う航路が寂れているのかは暫く様子を見て判断しよう。

 ただ昼間ギルドや商店が集まる一帯歩いて受けた印象だと航路が寂れている可能性の方が高いような気がする。


 貰った地図通りならこれでこの街のよく人が集まる界隈は大体見て回ったと思う。

 酒場通りや花街周辺で楔に反応する干渉地が幾つかあったが全部その上に店が立っていたのでこっそり楔を刺せてもまず有効活用出来ないだろう。

 後は住宅街周辺と商店が集まる一帯をもう一度歩いて良い干渉地が探すとしよう。

 ここまで来た道とは別の道に入り大雑把な方角を頼り住宅街へ向けて歩いていると大きな分岐路に出た。

 片方の道はここまでとそう大差ないように見えるが、もう片方は少し進んだ先から道の両脇が段々と荒れていっていた。

 セラから貰った地図を取り出し現在位置を確認してみると考えていた通りここまでと大差ない道は住宅街へ続いているようで、荒れていく道はスラムへ向かっているようだ。

 そこでふと瘴気が湧き出す干渉地の周りは荒廃が促されるかもと思いつきスラムの方へ楔を向けて探索機能の感度を上げみるが特に引かれる感覚は無く、返って住宅街の方へ強く引っ張られるように感じる。

 用事もないのにスラムに入り自分から揉め事を起こす気も無いので住宅街への道に入った。

 

 楔が引かれる感覚に従って歩いて行くと十字路の角にあるそこそこ大きな一軒家へ行き当たった。

 間近まで来ると調べた範囲でこの街一番の干渉地だと実感できるが2m程の壁と鉄柵の門に囲まれ門構え位しか中の様子が見えない。

 幸い家の中から人の気配はしないので敷地に入って少しこの家を調べて見よう。

 辺りを見回し人通りがないのを確かめてから壁を飛び越え庭に生えている雑草をかき分けて窓に近づきカーテンの隙間から中を覗いてみる。

 リビングルームだと見える部屋にテーブルやソファーが置かれているが全部布を被せられその上に埃が溜まっているようなので外で感じた気配の通りここは空き家と思ってよさそうだ。

 間取りも確かめようと部屋の扉へ視線を向けるとフレイムフファントムのような白い人の上半身が廊下を横切って行く。

 慌てて看破眼を発動してそいつを見ると人の死霊のようでゆっくり扉の前を通り過ぎ見えなくなるが、恐らく見た事で微弱なそいつの気配を捉えられるようになった。

 暫く家の中をさまようその気配を追っていたが不意に地中へ吸い込まれように消えてしまった。

 理由は分からないがこの家は死霊の出る瑕疵物件という訳だ。

 それならこの規模の家でも安く借りられそうだし、死霊の方も占有領域を展開して完璧な看破眼で調べればすぐに排除方法を見つけられるだろう。

 出物を見つけたいい気分で敷地を出ると一応商店街の方へ向かい、さっきの家の他にも干渉地を探してみると幾つかあったがきちんとした商店がその上に立っていた。

 大雑把だが街を一回りしてみたので今日はここまでにしよう。

 宿に戻ると周りにある殆んどの酒場の明りは消えていてまた雰囲気が一変して静まりかえっていた。

 宿の夜番に声を掛けて部屋に戻り寝ずに待っていた三人へ話は明日にするから休むよう告げて俺もベッドに入った。


お読み頂き有難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ