#27 偵察に来た、港町トロス 1
「リク様、あそこの門からトロスの中に入れます。」
街を取り囲んでいる防壁の西側から北側に回り込んでティータの指差す方向に目をやると確かに門があった。
十数人程が門番の前に列を作り街に入るための審査を待っているが、円滑に審査は済んでいるようにみえるのでそれ程待たなくてもよさそうだ。
列の最後尾に並びゆっくりと前に進みながら順番を待っていると前にいた男が門を中へ歩きだし次と声を掛けられたので門番の前まで進み出た。
「名前に身分と街に来た目的を言い、通行証を提示しろ。」
「俺はリク、後ろのダークエルフはティータとティーエ、最後尾の大男はバルバスだ。全員魔物の討伐を専門にしている旅の傭兵だ。この街には装備や消耗品の補充のため訪れた。通行証は持っていない。」
門番は一人ずつ俺達を見定めてからまた俺に向き直った。
「いいだろう。通っていいが通行証を持っていないなら入場税を払ってもらうぞ。」
あっさり話が進んだので突っ込んだ説明を求められた時のため色々考えていた身分の設定が無駄になったが手間が省けてよかったと思おう。
「勿論異存はない。ただ手持ちの現金が少なくてな、魔石の物納でも構わないか?」
「ああ、そこの詰所に担当の者にいるから手続きをしろ。行っていいぞ。」
門番に礼を言い指で示された詰所は歩き始めた。
門を潜ってすぐ傍にある詰所に入り用件を告げると直ぐ中にいた人が対応してくれる。
一人頭5個の魔石が必要だと教えてくれたので20個カウンターの上に魔石を出すと1ヶ月有効だという木製の通行証を発行してくれ受け取って詰所を出た。
どうして俺達がこのトロスという冥炎山から北東にある港街に来たかというとティータとティーエのための買い物が主目的だ。
具体的には祝勝会の後ティータとティーエの何も無い部屋を覗いて家具や身の周りの物が必要だと気づいたので、多少の家具は俺の記憶から楔で実体化できたが女物の服や下着は無理だった。
そこで俺も擬人化出来るようになったし街に買い物に行くと話すと護衛不足を理由に眷属達に猛反対させてしまう。
ならば魔物使いだとでも身分を偽って眷属を直接連れて行こうかと思ったが、試しに眷属創操でみんなも擬人化か出来ないか俺のアビリティの複製付与をやってみる。
するとバルバス、アグリス、アデルファの三名が一人につき20000ポイントで擬人化能力を付与出来るみたいだった。
ただガディやダルクには付与できなかったしポイントの関係でバルバスだけだが擬人化能力を付与し護衛について貰う事で街への買い物を眷属みんなに納得してもらう。
格納領域から取り出してあった奴隷化の首輪を全部溶融同化で取り込んでポイントを確保し、俺がやった失敗を繰り返さないようバルバスの腰に布を巻き擬人化能力を付与して変身してもらう。
2m半近くあったバルバスの身長が2m弱位に縮むが外見は完全に人間のものに変わり、能力を看破してみるとマグマアーマードボディの一部能力に制限が掛かったようだが他に変動は無かった。
ただ回収した服の中にバルバスの体格に合うサイズの物がなかったので一番大きなやつをティータとティーエに無理やりサイズ直しして貰い眷族達に楔を任せて出発した。
ティータの助言と人間の体での戦闘力確認のため移動中遭遇したゴブリンやオークを全部狩ってみたが俺にバルバスも思っていた通り殆ど戦闘に弊害は感じなかった。
騎乗させてくれたグリアとドグラが今回も快調に飛ばしてくれ歩きだと1週間以上かかる行程を2日で運んでくれが、人間に見られると流石に不味いので街からはある程度距離を取って徒歩に切り替える。
移動中の護衛としてついてきてくれたギャルドにグリアとドグラが帰るのを見送り、半日弱歩いてトロスの防壁の西側へ着いたという訳だ。
詰所から出て通りを歩きながらバルバスへ顔を向ける。
「そこそこ緊張してたんだが、簡単に街の中に入れたな。」
「まあ、あまり出入りを厳しく取り締まると人が集まらなくなりますからな。」
「確かに。人が集まらないと金も集まらなくて街を維持できなくなるだろうからな。」
御意と応じてくれバルバスだけじゃなくティータとティーエにも振り返り今度は念話をつなげる。
(この後の予定を確認しておこう。まずティータの助言で集めたゴブリンやオークの魔石を換金してから服や家具を買おう。金なら奴隷商から大金を得ているけど、魔石を換金する事で周りに腕前を証明できるみたいだから鬱陶しい奴等に絡まれ辛くなるだろう。必要な物が揃ったらこの街を見て回って出来ればどこかに楔を打ち込んで維持出来る場所を確保したいけど、今回は2〜3日で一旦冥炎山へ戻るとしよう。何か付け加える事があったら言ってくれ。)
(では一つだけ提案いたします。リク様は旅の傭兵と名乗られていましたから、きちんとした防具も手に入れる事をお勧めします。傭兵と名乗った以上相応な身なりをしていないと侮られる原因になると思います。)
(なるほど、ティーエの言うとおりだな。全員の防具とティータとティーエ用の武器の購入も予定に入れよう。助言感謝する。じゃあ、魔石を買い取ってくれる所へ案内してくれ。)
念話で返事をしてくれ頷いたティータが先頭に立って俺達は後に続いた。
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