#135 後始末した、王都 7
「あなたには知っている事をすべて話してもらいます。まず確認しますが、さっきあなたの言っていたことは嘘なんですね?」
「・・・はい。その通りです」
上から見下ろすジアトルからの質問に護衛によって地面へねじ伏せられたままの技師は黙秘を通したかったようだが、首輪の強制力により絞り出すような声で答えた。
技師の取った行動からさっきの言葉が嘘なのは間違いなくても、言葉で確認して技師が認めた事によりジアトルの目に帯びる険がますます強くなった。
「では何故こんな嘘をついたんです」
「少しでも多くここの鉱山で負債を発生させて、いずれ閉山になる時に少しでもジアトル様の責任を重くするためです」
「なるほど。私があなたの嘘に気づかないままだったら、そうなっていたでしょうね。どうしてそんな事を狙っていたのかも気になりますが、それより先に聞いておきます。誰の指示でこんな嘘をついていたんです」
「・・・グリシャム様です」
やっぱりこの名前が出てきたか。
コランタ商会関係して裏から指示を出している黒幕がいる可能性が見えてきた時点で薄々そうじゃないかとも思ってたんだが、これは当たって欲しくなかった。
それでもアリスの護衛をしたこっちの事情は明かさずに、ジアトルとグリシャムがどんな関係なのか問い質すいい機会だな。
「ジアトルさん。次の質問をする前に教えてくれ。グリシャムっていうのはどんな奴で、あなたとはどんな関係なんだ?」
前半の問いかけは内心かなり白々しいんだが、これも合わせて聞いておかないと前からグリシャムの事を知っているのではと疑われかねないだろう。
俺からの問いかけは予想していたみたいで、答えを躊躇ったりせず戸惑いなく俺の方を向いてくれたんだが、ジアトルは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「お答えします。グリシャム様は私の所属しているコランタ商会会頭の長子で次期会頭候補でもあります。私とは父が長くコランタ商会で重役を勤めさせてもらっている縁で子供の頃からの知り合いです」
それで話が見えてきた。
多分ジアトルは次期会頭に指名される可能性があるアリスの婿候補の中で、一番かそうでなくてもかなり有力候補なんだろう。
だから自分の立場の危うくなっているグリシャムはアリスへ刺客を差し向けるだけじゃなく、婿候補のジアトルの評価も落として次期会頭の座を確実にしようと企んだんだな。
となるとこの考えが正しいか1つ確かめておきたい事がある。
「なるほど、そういう奴か。ああ、いい機会だからついでにもう一つ教えて欲しい。最初にこの鉱山を手に入れようと言い出したのは誰なんだ?」
「・・・グリシャム様です。かなりの儲けが出そうな鉱山を偶然見つけて購入はしたが、自分は商会の本業があるので管理は私に任せたいと向こうから話を持ち掛けてきました。恐らくあの段階から私を嵌めるつもりだったのでしょうね」
「その話の通りなら俺でもそう考えるな。だとすると初めからあなたを狙い撃ちにしてるみたいだし、そのグリシャムに恨まれる心当たりでもあるか?」
「ええ、一つ思い当たる事があります。商会の内輪の話なので詳しくはお教えできませんが、グリシャム様の立場を脅かしかねない話が商会内で持ち上がっていました。その話では私が重要な役割を振られていたんで、それを阻止するために私を商会内から排除しようと考えたんでしょうね」
ジアトルがこう言葉を濁しているのは商会の恥になる後継者争いの話を明言出来ないからだろうな。
俺の考えが間違いないかの確認は取れなかったが、グリシャムはアリスを葬ろうとした訳だし最低限の注意喚起はしておこうか。
「それならここへ最初に手を出したのがグリシャムだというのを隠さないと失態の責任の全てをジアトルさんへは被せられないよな。穿ち過ぎかもしれないが、あなたやそこの技師の口を塞ごうとする可能性もあるんじゃないか?」
そんな俺の指摘に幼少からの知り合いが自分を殺そうとするとは考えていなかったのか、ジアトルはハッとして考え込んだ。
「・・・残念ですが十分ありえるでしょうね。グリシャム様は冷酷な性格ですし、敵とみなした者には容赦がありませんでしたから。ですので一つこちらからもお願いがあります。グリシャム様が次の手を打ってくる前にこの男を会頭の元へ連れて行って、知っている事を全部喋らせようと思います。この話が会頭の耳にまで入れば私が狙われる理由はなくなると思うので、それまでこの首輪はこのまま貸して頂けませんか?」
「別に構いませんよ。そっちの用事が終わった後でその首輪を返すか、相応の代金を払ってくれれば」
「ではここを出た後で相応の代金を払わせて頂きます。ですがその前にこの男が知っていることを全て聞き出すまで尋問をさせてください」
頷く俺から技師へ視線を戻したジアトルが今話していた予想が正しいか問い質してみたが、グリシャムの詳しい狙いは教えられていなかった。
ちょっと残念だが、考えてみれば現場の下っ端に対して裏で糸を引く黒幕が自分の詳しい思惑を話したりしないか。
その考えはジアトルも同じみたいで、特に落胆を見せたりせず技師への尋問を続けていった。
グリシャムとどういう取引をしたのか問い質して問いただすと、どうやらこの技師はかなりの借金を抱えていて、その清算を餌にこの話を引き受けたみたいだ。
加えて鉱脈の枯渇を見抜けなかった間抜けな技師という事で自分も仕事の評判が最低になるだろうから、新しい名前と経歴まで貰える契約だった。
至れり尽くせりな契約内容だが、邪魔になれば腹違いとはいえ妹の命さえ狙う奴が悪事をやらせる手先にこうも親切なわけがない。
恐らく契約は口先だけで用が済めばこの技師も口封じのために始末されていたんじゃないかと思う。
そんな感想を持ちながらジアトルが続いている技師への尋問の様子を見ていると坑道が明らかに揺れて出口の方から爆音が響いてきた。
お読みいただきありがとうございます。
今週の投稿はこの1本です。




