#131 後始末した、王都 3
中に入ってみたダンジー達が暮らしている部屋の間取りは多少大き目の一部屋のみで、天井から複数の布を吊り下げて奥側を幾つかに区切って使っていた。
そんな間仕切の向こうに合わせて十人近くの気配を感じるけど、当然いきなりやって俺達は警戒されているみたいで姿は見せずダンジーだけが俺達と車座を組んで向かい合った。
「ヴォ―ガイ。本当によく来てくれたが、流石に驚いてる。一緒にいるそこ人達の事を含めて、まずお前から諸々の事情を話してくれないか?」
「ああ、構わない。そうだな、順を追って話していこうか」
答えるのに合わせて頷いたヴォ―ガイは、大地竜山脈の南に最初の仮集落を構える前後から話を始めた。
そこから魔物の群れとの戦いへ話は続いて行き、勿論今の時点では俺達が魔人とその一味だという事は伏せ楔の機能は転移門へ置き換えたが後は概ね事実の通りを語っていく。
そして廃砦を確保した直後の暮らしぶりを続けて語り、俺も確認しておきたかった故郷からの新規の移住者を受け入れてからに話は移っていった。
新規移住後の廃砦の後始末は完全にザイオ達へ丸投げだったんでちょっと心配だったが、どうやら仕事や廃砦の部屋の割り振りもそう揉め事なく上手くいっているみたいだ。
まあエルフ達は砦周囲に生えている大き目の木に新しくツリーハウスを作って住みだしたり、ドワーフ達は中庭に穴を掘って地下で暮らし始めたみたいだが。
仕事の方もこれまで続けてきた魔物狩りだけじゃなく、野生の動物も大分戻ってきたみたいでそれらの狩りや俺が占有してから植生が豊かになったという森での薬草類の採取と十二分な量があるそうだ。
それでも揉め事が少ないのには他にも理由があって、何故かと言うと人の頭数が増えるのを予め予想し俺達に故郷へ向かうよう依頼した直後からギラン商会との取引量を増やして食料等の生活物資の備蓄を前倒しで始めていたみたいだ。
そんな物資の余裕が住人達の精神にも余裕をもたらし、多少住人の間でもめてもそれが大事にならなかったようだ。
「こんな感じで故郷に残っていた連中の移住先での生活も概ね上手く行っている。それに今暮らしている森の活力なら、まだまだ住人が増えても十分養っていけるだろう」
それに加えてもしもの場合はトロスでも物資を買いつけられるんで、廃砦の収容人員には十分すぎる余裕がある。
「だからダンジー達王都へ向かった面々も俺達の新しい移住先に十分受け入れられる。まあ、ここでの暮らしに満足しているというんなら無理強いはしないが、今度はお前たちの近況を教えてくれないか?」
ここまでの話を多少羨ましそうにヴォ―ガイの話を聞いていたダンジーは、その問い掛けに対してちょっと顔が歪んだように見えたんだが、表情を引き締め直して口を開いた。
「分かった。俺達の現状を話そう。この部屋を見てわかると思うが、正直に言って今の生活は苦しい」
そう前置きしてダンジーが話し始めた王都へ向かった面々のここまでの話は、言葉通りに中々過酷だったみたいだ。
まず魔物が溢れていた故郷のあの盆地を出るだけでも怪我人が続出し、その面々の手当てや通行手形の手配なんかの移動費用がかさんで、この王都に着くまでになけなしの貯えをほとんど使いきったそうだ。
そうしてやっとの思いで着いたこの王都でもすぐにはまともな仕事にありつけず、餓死寸前になる子供も出たみたいだ。
それでも最近やっとドワーフ達が見つけてきた鉱夫の仕事を働ける者全員で引き受け、多くの者が折角やってきたこの王都からまた鉱山へ出稼ぎに出ているそうだ。
「だからこの部屋では普段働けない者や女子供達だけが暮らしている。俺がここに居るのも偶々給金を持って帰って来ていたからで、お前に会えたのは本当に運が良かった」
「どうやらそうみたいだな。それに一時よりは多少はマシになったみたいだが、余りここでの生活は順調とは言えないようだな。どうだろう、今俺達が暮らしている所へ再度移住してみるのも悪い話じゃないと思うがな」
「ああ、ドワーフ達以外の鉱山仕事に慣れない者達にとっては有り難い話だと思う。だが今ここでその話を決めてしまう訳にはいかない。向こうで働いている面々にもきちんと相談をしないとな。丁度明日俺は鉱山に戻るためここを立つつもりだから、ついでに今の話を皆に伝えてこよう。そして俺がここに戻ってくるまでの間に残っている者達の意見も纏まると思う。でだ、話の結論を出すまでにどのくらいの猶予があるのかを知りたい、ヴォ―ガイ達はどれ位この王都に居られるんだ?」
まあ、この問いかけはダンジー達にとっては当然の疑問だし、となると俺達がどれくらい待てるかだな。
今のところ時間に多少の余裕はあるが、いつまでも待つという訳にはいかない。
幸い今の俺達に急いで取り組まないといけない用事はないし、王都観光もこの話にケリがついてからやればいい。
それに出稼ぎに先の鉱山周辺の状況次第だが、ダンジーについて行けば上手くすると王都へ行き来するための占有領域を確保出来る可能性もあるな。
後は帰りだけになるが目立たないように転移門を使えばずいぶんと移動時間を短縮できる筈だ。
「ちょっと、いいか?横から口は挟ませてもらうが、その出稼ぎ先の鉱山へ俺達がついて行っても大丈夫か?もし構わないならあんたからの伝聞より俺達が直接話せばより説得力があると思うし、王都への帰り限定になるが移動時間を短縮できる当てもあるしな」
「それは願ってもないが、お前たちの方こそ俺について来て大丈夫なのか?」
「ああ、他に急ぎの用事はないし、この話が早く進んでくれた方が俺達にとっても有り難い。ザイオ達も問題ないよな」
問いかけたヴォ―ガイにザイオも躊躇いなく頷き返してくれた。
「そちらの配慮に感謝する。では俺について来て今の話を向こうのみんなにも聞かせてやってくれ」
「決まりだな。俺達には他にも仲間がいるんだが、そいつらも合わせて全員でその鉱山へ向かおう」
となれば早いほうが良いが、それでも今日はもう日が暮れているんで明日の朝一で王都の城門前に集合してその鉱山へ向かう事になった。
まだ色々と話し足りないヴォ―ガイにザイオはこの部屋に泊まる事になり、俺とバスバスは一旦部屋を取った宿屋へ引き上げた。
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