#130 後始末した、王都 2
トラブルなく王都を出られても城門付近では旅人や商人達が常に退出の審査待ちの列を作っていて、出来るだけ秘匿しておきたい転移門を使う場所としてここは人目につき過ぎる。
どこか良い場所がないか周囲を見回してみたら、林に覆われた小高い丘がそう遠くない所に見えた。
丁度良い目隠しになりそうなんであそこを使わせてもらうとしよう。
もう昼を過ぎているし城門をもう一度潜るための審査待ちを考えると、今日中に王都の中へ戻るためにはそう時間に余裕はないだろう。
急いだほうが良さそうなんで全員の審査が終わるとすぐに城門を離れた。
街道を行き交う旅人や商人達には迷惑をかけるが馬達には全速を出してもらって街道を進み、目的の丘近くで街道を外れ、もし見られていたら持ち主から苦情や損害賠償がくるのを覚悟の上で丘の周りに広がる畑を突っ切っていく。
幸い王都の方からは見えない死角になっていた斜面も林で覆われていたんでそこへ入り込み、周囲に俺達以外の誰もいないのを確かめて転移門を開いた。
顔を突っ込んで廃砦の中庭につながっているのを確かめ、周囲にいた獣人達に俺達が目的地に着いた事を報せに行ってもらう。
そのまま転移門をつないで待っていると、予め決めておいた擬装用の旅装に身を包んだザイオとヴォ―ガイが転移門を潜ってこちらにやってきた。
さて、手間をかけてどうしてザイオとヴォ―ガイを呼んだのかというと、発端はあの盆地でザイオ達が集落に残った面々を説得した時に遡る。
その時ザイオ達が出て行った後の集落の様子を聞いていると、どうやら盆地の状況に耐えかね移住先を探しに行ったザイオ達からの連絡を待たずに出て行った獣人やドワーフ達が居たみたいだ。
ちなみにエルフの中にそういう者はいなかったらしい。
それでこの面々は王都の方へ行ってみると言っていたみたいで、その数はそう多くはないがザイオ達は出来ればこの面々も廃砦へ呼びたいそうだ。
だから前もって同じ王都へ行くと話していた俺達がその者達を探す手伝いを頼まれた。
王都に着いたら自由に動ける時間ができると分かっていたんでこの頼みは快諾したんだが、正直大都市での人探しには自信がなかった。
ただそれについてはヴォ―ガイに当てがあるみたいなんでその辺りは任せることにして、移住後の後始末に手が必要だろうから俺達とは一緒に移動せずこうやって転移門で呼び寄せたという訳だ。
そう言う事情で呼び寄せたヴォ―ガイとザイオには今の廃砦の様子なんかを聞きたい所だが、今は早く王都に戻らないといけないんで後回しにして俺と一緒にグリアの背に乗ってもらい今来た道を全速で引き返していった。
横切る畑や街道を行く旅人と商人達にはまた迷惑をかけるが、急いで王都の城門まで戻り審査待ちの列の最後尾に並ぶ。
何とか日が沈む前に俺達の順番となり、グリアがいたんで城門の衛士達が俺達の事を覚えていた。
さっき出て行ったのにすぐに戻ってきたのを多少訝しがられたが、ヴォ―ガイとザイオを紹介して外で待ち合わせていた者を呼びに行ったと説明すると納得してくれ王都の中に通してもらえた。
再び城門を潜り目の前の大通りに目を向けると夕暮れの仕事帰りの人出で昼間よりさらに混雑していた。
これだけの人がひしめく街での人探しは本当に骨が折れそうだし、ヴォ―ガイとザイオも今日はもう俺達の宿へ一緒に引き上げるだろう。
それでも一応その考えを確かめるため後ろに振り返った。
「何とか今日中に王都に入れたけど、これからどうする。夜が更けてくるまで多分このままの人出だろうし、人探しは明日からにして今日は俺達が取った宿に一緒に泊まるか?」
「いや、宿については世話になるが、人探しは今日中に最低限の当たりをつけておきたい。しばらく俺に付き合ってくれないか」
「まあいいが、この人出の中でどう当りをつけるんだ?」
「それはこの人出を逆に利用するんだ。獣人がこんな人族の都市で暮らして行こうと思ったら、まず間違いなく同じ獣人同士で助け合うために近くに集まって住んでいる筈だ。そこの獣人達も今は仕事終わりで町中を移動している筈だから、その匂いを見つけて辿っていけば獣人達が暮らしている一角を見つけられると思う。後はそこで重点的にここへ向かった連中の行方の聞き込めば、最低でも手掛かりくらいは掴めるはずだ」
それにもしそこで全く情報が出てこなければ、その面々は王都には来ていないと考えても良さそうだ。
「なるほど。それならこの町全体を手当たり次第に探し回るよりずっと効率が良いな。で、今日中にその獣人達が集まって暮らしているはず一角を見つけておきたいって事だ」
話をしている間に横に並んだヴォ―ガイしっかり頷き返してきたんで、俺が下がって先頭に出す。
街中では全員で動くと大所帯になりすぎるんでザイオと俺にバルバスだけがついて行き、残りの皆にはここで別れ馬を連れて宿へ引き上げてもらった。
年齢も様々な男女が雑多に行き交っている大通りを街の中心へ向けて歩いて行くと、ちゃんと獣人もこの中にいたみたいでその匂いを嗅ぎ取ったヴォ―ガイがその行く先を追いかけ始める。
大通りから脇道へ逸れて町中を進んで行き、下町とスラムの境くらいにある十字路に出ると不意にヴォ―ガイが足を止めた。
「これは、あいつの匂いだ」
「何か見つけたのか?」
「ああ、ここに王都へ向かったと聞いた面々の1人の匂いが匂いがするんだ。しかもついさっきここを通ったばかりだ。」
「それはツイてるな。後を追えそうか?」
「勿論。こっちだ、ついて来てくれ」
しっかり頷き返してきたヴォ―ガイを先頭に十字路をスラムの方へ曲がって歩き出した。
それからしばらく足早に入り組んだ路地を進んで行き、寂れた感じのする石作りで3階建ての建物にヴォ―ガイが入っていくんで俺達も続く。
そのまま迷わず2階に上がり4〜5部屋ある内の一室の扉をヴォ―ガイが叩いた。
5秒ほど待ってもう一度叩こうとすると一瞬早く扉が開き、ヴォ―ガイとよく似た犬獣人が中から出てきた。
「この部屋に一体何の用だ」
「やっぱり、お前がいたか。ダンジー」
「もしかしてヴォ―ガイ?ヴォ―ガイなのか!」
そのダンジーと呼ばれた獣人は扉を開けた直後こそ警戒心むき出しだったが、お互いの確認を終えるとヴォ―ガイと共に破顔してガッチリ握手を交わした。
「どうしてお前がここにいる?」
「何とか移住先を確保出来たんでな。一旦故郷に戻ったらお前達が王都に向かったと聞いたんで探しに来たんだよ。色々話したい事や聞きたいことがある。何人か連れもいるんだが入って話をしてもいいか」
しっかりと頷き返してきたダンジーに促され、ヴォ―ガイに続いて後ろにいた俺達もその部屋に入っていった。
お読みいただきありがとうございます。
今週の投稿はこの1本です。
年末年始はお休みさせてもらいます。
次回の投稿は1月13日の予定です。




