#129 後始末した、王都
楔を守ってくれていたロックガーディアンを冥炎山に返し、バーアフ領都近郊の仮拠点を放棄してアルトン伯爵一行に再合流してから3週間やっと王都が見えてきた。
俺達が戻ってくるまでの間アルトン伯爵の社交は上手くいったようで、バーアフ侯爵との面会や会談ではお互い好印象だったみたいだ。
そのバーアフ領都を出発してから1週間かけて次に訪れたルボン伯爵とも上手く面識が持てたそうで、魔物やどうゆう訳かガルゴ男爵の刺客の襲撃もなくここまで来られた。
ただ全く問題がないという訳でもない。
バーアフ領都を出発したすぐ後から情報収集役の斥候だと思う数名の集団がここまでずっと俺達の後をついて来ている。
間違いなくガルゴ男爵の手の者だろうし、最初はこいつらの動きで次の襲撃を予想できると思い気付かぬふりをして放っておいた。
けれどこの連中は2〜3日一度情報を後送するための交代要員が接触する以外こっちを監視するだけで、それはルボン伯爵領都を経由してここに来るまで続いている。
ちょっと不気味だったんで、この連中がどうゆう思惑なのかルボン伯爵領都を出て2〜3日経った後の野営時にグライエンさんと相談してみた。
色々な可能性を話し合い恐らくだが王都への行きではこれ以上仕掛けるのを諦めて情報収集に努め、帰りに全力を傾けて襲撃してくるのではという予想で一致した。
なのでこの斥候達については仕掛けてこないなら引き続き放っておく事にしている。
そうして監視はされているが、その他には何事もないまま王都の城門前まで俺達を含むアルトン伯爵一行はやってきた。
王都の城壁や城門はアルデスタやパルネイラのものよりさらに大きく堅牢そうに見え、魔物を排除する結界もより強力そうなものが展開されている。
そんな門の前には旅人や商人が列を作って王都へ入るための検問を受けているが、今朝宿場町を立つ時に先行した先触れの騎士がきちんと仕事を果たしたようで待つことなく城門を潜れた。
この時俺達に魔物除けの結界が反応するかもしれないとちょっと心配だったが、これも問題なく無事に通れた。
ここまではスムーズ王都入りで来たんだが、流石に伯爵一行でもいきなり王城へは入れないようで王城近くにあるという最高級の宿屋へ向かう。
こちらも先触れの騎士がきちんと話を通したようで、宿の主人と従業員達が宿の前で整列してこちらを待っていた。
その宿の前まで行くと一行の中団にいたアルトン伯爵が先頭に立ってから最初に下馬して、待っていた人達に歓待されて宿屋の中へ入っていくのを見送っているとグライエンさんが俺達の前にやってきた。
「ここまでの護衛ご苦労だった、リク殿」
「別に礼は要りませんよ、グライエンさん。護衛は依頼された仕事なんですし無事にアルデスタに帰った後でちゃんと約束の報酬も貰いますから。それで、俺達はここで約束通り一旦お役御免でいいんですよね?」
「その通りだが、リク殿が王城へついてきたいと言うんならこちらは特段拒否するつもりはないぞ」
グライエンさんはニヤリと笑みを浮かべてきたんでこちらをからかっているんだろう。
それに合わせて俺も肩をすくめておどけてみせた。
「お断りします。そんな堅苦しそうな場所へわざわざ自分から行きたいとは思いませんよ。それにもし討伐時の事情を知られていて魔人結晶を見せろや寄越せなんて言われたらそれこそ堪りませんから」
「確かにそれはリク殿達にとって避けたい事態だな。ではこちらの予定が終わるまでこの王都で自由にしていてくれ。ただし連絡はつけられるようにしていて欲しい」
「分かってますよ。さっき紹介してもらった宿に部屋を取るんで、そっちの予定が全部終わったらそこへ連絡をください。じゃあ、俺達ももう行きますけど最後に一つ準備の必要があるんで教えてください、帰りは陸路と海路のどっちになりますか?」
「今の所は海路でと考えている。ただし今の時点では絶対と言えんので、もしも変更になった場合はすぐにこちらから連絡を入れよう」
了解とグライエンさんへ頷き返して俺達は高級宿の前を立ち去った。
そのまま今来た道を少し引き返して王都内の移動中グライエンに教えてもらった大通りに面していて厩舎も併設されている中級の宿屋へ入ってみた。
中は身なりの良い商人や貴族風の者達で中々繁盛していて、王都に入る前に貰ったアルトン伯爵とグライエンさんの連名での紹介状がなかったら門前払いされていたかもしれないな。
まあ、その紹介状を見せても流石に全員分の個室は押さえられなかったが、代わりに全員で寝泊り出来る大部屋が取れた。
今の時点ではいつまで王都にいるか分からないんで取りあえず1週間分の宿代を先払いして、グリアには悪いが馬達の見張りとして一緒に厩舎へ入ってもらった。
俺達の方もしばらく寝泊まりするだろう部屋を確かめ、一応近くの従業員にチップを払いグライエンさんへ予定していた宿の部屋を押さえられた事を連絡しに行ってもらった。
さて、護衛も一旦お役御免になったし宿も押さえたんで王都見物にでも行きたい所だが先に済ませておかないといけない頼まれ事がある。
そのためにはまず転移門を使って人を呼ばないといけないんだが、この王都にはアルデスタのものより強力に見えた教会の結界が展開している。
もしそれが転移門と干渉して結界の管理者から目を連れられるのは、俺が魔人とばれる原因になりかねないんでこれは避けたい。
となると転移門は王都を出て使えば問題ないだろうから、入ったばかりだが宿の部屋をみんなと一緒に出た。
やっと落ち着いてき筈の馬達には悪いがグリアと共に厩舎から引き出して騎乗し、中々の人出が行き交っている宿の前の大通りを縫うようにして外へ向かう。
そう時間が掛からず城門に着き多少出入り検査の列に並び手荷物を確かめられたが、最初に王都へ入る前にグライエンさんから貰った身分証のおかげで問題なく王都を出られた。
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