#127 引き入れた、王都までの道 12
俺が考えを纏めている間にも魔人のカウントは続いており、もう出て行って姿をみせないといけないんだがその瞬間を向こうが狙っている可能性も十分ある。
それをさせないよう狙いを分散させ、もしいきなり戦闘になったら壁役もやってもらうため地下に待機させているゴーレム達の半数へ俺達が姿を見せるより先に地上へ出るよう指示を出す。
ただし居場所が大まかに察知されていようと下からの奇襲は有効だろうから、もう半分のゴーレム達はそのまま地中で待機させておいた。
グリアとドグラにもいざという時に不意を打てるようそのまま待機しておいてもらい、精霊達も全て切り札として温存しておく。
ティータとティーエには俺が姿をみせてから鎧人形達を壁として使い後に続くよう念話で伝えておいた。
その間にも最初に囮と壁役を指示したゴーレム達はすぐに動き出してくれ、地中から腕を突き出し体を引き上げて地上へ出てくる音を確かめ俺も木の影を出る。
十分に狙い撃ちを警戒して魔物の群れとお互いの視線が通る場所まで出てみても向こうからは仕掛けてこなかったんで、まずボスだろう気配の方へ視線を向けてみると声の質感でそうだろうと思っていた通り女の魔人がそこにいた。
その姿は首から下が爬虫類系の鱗で出来たボディースーツを着ているようで、背中には蝙蝠のような皮膜の翼があり手先や足先に首から上の肌は青黒い感じだ。
そんな女魔人が様子を覗う俺に向けて少し好奇を含んだ視線を見返してくると続けて話しかけても来た。
「へぇ、人間がいるとは思わなかったわ。少しだけど地面から変な魔力を感じるから、この辺りで暮らしている目障りなエルフかドワーフが待ち伏せでもしていると思ったのに。でも変ね、人間の縄張りはもっと南のはず。どうしてあなた達はこんなところにいるの?」
俺としても情報収集のためコミュニケーションを取りたかったんで、会話をするのは望むところだ。
まあ、いずれどこかで話が決裂して戦闘になるんだろうが、少しでも話を続けられるよう隠しておきたい事以外は下手な嘘を言ったりはしないでおこう。
ただし向こうの疑問への回答は小出しにして、出来るなら答えを返す代わりにこちらの疑問にも答えるよう話を持って行こう。
「ドワーフ達に雇われたんだよ。俺達は傭兵なんでな。で、こっちは素直に答えたんだ。あんたも俺の質問に答えてくれよ。あんた達はここまでの進路からして俺達を雇ったドワーフの集落へ向かってたみたいだが、話し合いがしたいって訳じゃあないんだろ。なんであそこを襲おうとしてる?」
まあこの盆地で暮らす住人の勧誘が主目的ここに来たんだが、ザイオやヘムレオンの依頼にも答えているんでこの答えでも全くの間違いって訳じゃない。
こんな風に俺から返事や答えが変えてくると思っていなかったのか、女魔人はちょっと驚いて視線だけじゃなく表情にまで好奇が見て取れるようになった。
「へぇ、答えが返って来たのにも驚きだけど魔人を相手に要求を突き付けてくるなんて大した胆力ね。いいわ、その図太さに免じて答えてあげる。ただし、先にお前がもう一つ私の問いに答えなさい。ドワーフ達はどんな目的でお前達を雇ったの?」
やっぱりさっきの答えじゃ満足できなかっただろうから女魔人としては当然の質問だな。
普通の依頼だと守秘義務なんかで答えはぐらかすか黙秘する所なんだが、ドワーフ達はもうあの集落から退避し終えているんでここである程度情報を流しても実害はない。
ここはこの女魔人がまだ避難を終えていないエルフの集落に対してどう動くか参考にするため、問題ない範囲で情報を流しその反応を見よう。
「主な所は護衛だよ。ドワーフ達は魔物が増え過ぎたこの盆地から移住したいみたいでな。集落の防衛も頼まれてるが、その移動中の安全確保が雇われた主な理由だ。で、こっちは正直に答えたんだ。今度はあんたも俺がさっきした質問に答えてくれるんだよな?」
「ええ、いいわ。でも私の理由は簡単よ。あの集落が私にとって邪魔だから排除しようとしてるだけ。あのドワーフやエルフ達が暮らしている一部を除いてこの辺りの一帯もう私の支配下なの。そこに配下を増やしていこうとしてるのにせっかく生まれてくる魔物をドワーフやエルフに獣人達が倒してしまうから目障りで、この際纏めて一掃しようと思って出て来ただけよ」
そう答えてくる女魔人の表情や声色に注意していたんだが、こっちをからかっていたり嘘をついているようには感じはしない。
それにこの盆地があの女魔人の占有領域になっているのなら魔物の密度が急増し倒してもすぐまた湧いてくる理由に説明がつく。
話の筋は通っているし、こういう事情ならダメ元で交渉を持ち掛けてみるのもありだな。
「なるほどな。だったら1つ提案がある。襲撃は数日待ってくれないか、その間にドワーフ達をここから退去させるしエルフ達にもここから出ていくように俺達から警告するよ。もしも数日たっても居残ってるようなら問答無用で仕掛けてきても文句はない。少しの間待つだけで手間なく、最低でも片方の目障りな連中が居なくなるんだ。無駄な戦いをしなくて済むんだからそっちにも損はないと思うがな?」
「・・・そうねぇ、悪くはない話よ。でも逃げようとしてる獲物をみすみす見逃すのも魔人としてちょっと癪なのよね」
「まあ、そっちが無駄な戦いをしたいっていうんなら、まずここで俺達が相手になる。あの集落を襲おうって気がなくなる程度には痛い目にあってもらおうかな」
俺としてはまだ交渉を続けたい所だけど引いてばかりだと足元を見られるんでこう返し、ハッタリではないと示すため抑えていた魔力を少し開放して身に纏った。
女魔人もここまでは好奇が見て取れる表情をしていたんだが、俺が戦闘態勢に入ると同時にそれを引っ込めて獰猛な笑みを浮かべてきた。
「本当に肝が据わってるわね。この私をお前達が倒すっていうの?」
「いや。あんたを仕留めるのは多分無理だろうな。最後は俺達が逃げ足すことになるんだろうけど、あの集落が防備を固める時間を稼いであんたの取り巻きの大半を仕留めるくらいはやって見せるさ」
「そう、だったらその言葉が虚言じゃないと証明してみなさい。わたしの配下と一対一で戦って、もしお前達が勝てたらドワーフ達への襲撃を少し待ってあげてもいいわ。どう?受けて立つ気があるかしら」
「受けて立つのは構わないが、こっちからも一つ条件がある。この護衛の仕事はエルフ達からの紹介でな、その義理があるんでもし俺が勝ったらエルフの集落への襲撃も同じように待ってもらおう。この条件を飲んでくれるなら喜んで相手になるさ」
「いいわ、その条件も認めてあげる。お前の力を見せてみなさい」
獰猛な笑みを深める女魔人へ俺も身に纏う魔力を上げながら頷き返した。
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