#125 引き入れた、王都までの道 10
やっぱりまた頼みたい事があるんだろう、俺の前までやってきたザイオは一応殊勝な顔をしていた。
「リク殿。たびたびで済まんが、今度は儂らドワーフに力を貸してくれんかの。お願い出来るんならリク殿にも十分な利益を返せる話なんじゃがな」
「そう言われると断るのは勿体ないな。分かった。俺は何をすればいいんだ?」
「おお、感謝しますぞ。では早速本題なんじゃが、ドワーフの里には嵩張って運びせなかった工具類や製錬に鍛冶用の設備がそのまま残っておるみたいなんじゃ。これらをあの坑道へ運び出したいんじゃ。だからの楔を使った転移の力を儂らに貸してくれんか?」
そう殊勝な表情のままザイオは頭を下げてきた。
言われてみると新規に作れば手間と金に時間が掛かるだろう製錬や鍛冶用の設備を丸々移設できれば、廃坑周辺の開発を大分早められるだろうな。
合わせてドワーフ達も手馴れた道具を使った方が仕事がやりやすいはずだ。
ザイオの言う通りやって損のない話だが、それでも楔の秘密を守るためにも扱いについての取り決めは緩めるべきじゃないだろう。
「確かに俺にも利益のある話だな。けど仲間じゃない奴に楔は見せないって原則は譲れないぞ」
「そこは心配無用じゃ。ここにおるドワーフは全員移住に賛成で、反対する者や難癖をつけたり渋る者は居らんからの。現にもうほとんどの者が地下で移住の準備を始めておるから、この集落内でドワーフの姿をほとんど見かけんじゃろ」
そういえば地下への出入りを見張る者と車座で話し合いに参加していた者以外のドワーフを見てないな。
廃砦への見学者達の中にもドワーフはいなかったし、全員移住に賛成というのも嘘じゃなさそうだ。
「なら問題ないようだな。それにしてもドワーフ達の説得をもう済ませたんだな?」
「何、具体的な話の前に最近あの坑道で取れた鉱石をいくつか見せてやれば誰も文句は言わんかったよ」
「そういう訳か。じゃあ諸々の設備の移設や工具の回収は決まりだ。それで具体的な段取りももう考えてあるのか?」
と問いかけたけど内心ではこれからだろうと思ってたんだが、ザイオは自信をもって頷いてきた。
「実を言うとリク殿にこの話をする前からもう準備にはかかっておっての。移住の準備もしておる中で無理を言ったが、ドワーフの男衆3〜40人ほどへすでに声をかけ向こうへ移動する準備をさせておる。リク殿はただ儂らについて来てもらって、向こうで楔を刺した後は作業の様子を監督でもして貰えばそれで十分と思っとる。段取りとしてはこんな所でどうじゃろうかの」
そう一通り聞いてみたザイオの段取りは一応順当ではあると思う。
けどドワーフの3〜40人程が集団で今この盆地を歩いて移動すれば、間違いなく何度も魔物の群れに引っかかるだろう。
俺達も一緒に行くんだから魔物との戦闘には必ず勝つが、きっとドワーフの集落へ着くまでかなりの時間が掛かるな。
それは流石に面倒なんで転移門でも使って移動時間を短縮したい所だけど、俺はドワーフの集落へは行ったことがない。
いや、少し遠くても視線が通って大まかにでも地形を確かめられれば転移門は使えるはずだし、一度でドワーフの集落へ行こうとしなければやりようはあるな。
「そうだな、段取りの大枠は俺もそれでいいと思う。ただ移動についてはちょっと思いついた事があるんで今からそれを試してみる。上手く行けば移動時間を相当短縮出来るだろうから向こうへ行くドワーフ達は出入り口じゃなくてこの辺りに集めてくれ」
そんな俺の答えにザイオはちょっと訝しげだったが頷き返してくれて、他のドワーフ達へ今の話をしに行ってくれた。
ではザイオが戻ってくるまでに俺も今の考えが上手くいくか試しを終えておこう。
ここだと周囲の木々で視線が通らないんで、呼び出したままだった樹巨人の掌に乗って上へ持ち上げてもらう。
周りの木々より頭一つ以上大きい樹巨人は問題なく俺を樹冠の上まで押し上げてくれた。
運よく霧などは出ておらず、夜の澄んだ空気越しにドワーフの集落があると聞いた場所周辺の山肌をしっかりと目に焼き付けられた。
一応これで転移先の地形は把握できたんで地面に下ろしてもらい、礼を言って樹巨人を送還し続けて転移門を開いて向こうの様子を確かめるため頭を突っ込んでみた。
ここまでは思惑通りだったんだが遠方からの視認だけだと地形の把握が甘かったみたいで、転移門は山肌から5m以上上空に開いていた。
この結果はちょっと残念だが、改めてしっかりこの辺りの地形を把握しようと思って首を振り周囲を見回していく。
そうしていたら不用意に下を向き過ぎ、つんのめって転移門を潜り山肌へ落ちそうになったんで慌てて頭を引っ込めた。
これには内心かなり恥ずかしかったんだが何とかポーカーフェイスを維持し、地形の把握はちゃんと出来ているんで一旦転移門を閉じ、もう一度開いて今度は山肌ギリギリに設置できるのを確かめて門を閉じた。
こうして移動方法の確認を終え内心の動揺も収まった頃にザイオがドワーフ男衆を連れて戻ってきた。
念の為小さく息を吐いてもう一度気持ちを切り替え、周りに集まった面々へどういうふうにドワーフの集落へ行くか説明していった。
転移門を直に見ていない面々は半信半疑だったが異論もないみたいなんでこの方法を取らせてもらう。
ドワーフ男衆には悪いがしばらくここで待ってもらい、案内をしてもらうザイオだけを連れて俺はティータ達にグリア達と新しく開いた転移門を潜った。
大丈夫だと思うが一応俺が先頭を行ってきちんと地面近くに転移門が開いているのを確かめて皆に続いてもらう。
最後にこっちへやって来たザイオは周囲を見て少し懐かし気な表情を浮かべるけど、すぐ先頭に立ってドワーフの集落への案内を始めてくれた。
幸い魔物とはかち合わず山の斜面を小走り位の速さで10分程駆け下りていくと下の方に大きな洞窟の入り口が見えてきた。
これが幾つかあるドワーフの集落に続く出入り口の中で一番大きなものだそうだ。
そう言われてもピンとこなかったんだが、実際に中へ入って2〜30m進んでみると所々に柱は立っているが天井が3〜4mほどあり直径で30m位はありそうな広場があった。
その広場を囲む壁には幾つもドアがあり、同じ数ある窓からは家具や台所といった中の様子も少しは見て取れ中が部屋になっているのが分かる。
移動中にザイオから聞いた説明の通りに坑道の入り口近くを広げて集落にしているという話に間違いはなかったな。
こうして無事ドワーフの集落へ到着したんで、改めて転移門をエルフの集落へ開いて待ってくれていたドワーフ男衆をこちらへ呼び込んでいく。
全員がこっちに来たところで廃砦へ送った見学者達を呼び戻す時間が来たんで、俺は一旦エルフの集落へ転移門で戻った。
続けて廃砦へ転移門を繋ぎ、取り決め通りに集まっていた見学者達を全員こっちへ戻す。
帰ってきた連中は早速仲間たちへ向こうの様子を話し始めるのがすぐに結論は出そうにないんで、俺はドワーフ達の作業の監督に戻った。
丁度あの広場に干渉地があったんで約束通り楔を刺し、力仕事を円滑に進めるためゴーレム達も作って貸し出す。
工具の運び出しや設備の分解移送は順調に進んでいったんだが、夜明けが近くなってきた頃念の為広げておいた気配探知の範囲に幾つもの強力は気配が侵入してきた。
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今週の投稿はこの1本です。




