#122 引き入れた、王都までの道 7
盆地の楔に戻ってくるとティータとティーエはすぐ傍で周囲を警戒してくれていたが、ドグラにグリアの姿が近くには見えない。
何かあったのか二人に聞いてみたら、魔物密度がかなり濃かったんでより楔の警備の万全にするためこの周囲に展開し魔物の掃討をやってくれているそうだ。
そういう事なら状況に合わせた臨機応変な対応だと思うし、上手く立ち回ってくれたティータ達へ警備の礼を言う。
同じように働いてくれたドグラやグリアにも念話をつないで礼を伝えて帰還を指示し、地面に指してある楔を引き抜いた。
そこから1分ほどで戻ってきてくれた2名には引き続きで悪いが、移動中は先頭に立って魔物を排除するよう頼む。
こっちの撤収が済むまで待ってくれていたヘムレオンやヴォ―ガイ達にはドグラ達に続いて彼らが暮らしていた集落のいずれかへ案内をしてもらう。
まずどこに行くか尋ねたらヘムレオン達のエルフの集落へ向かうそうなんで、その方角をドグラ達へ指示してもらい俺達は歩き出した。
俺とティータ達が殿を務めて10分ほど森の中を進んでみると、相変わらず魔物の密度が濃くこの短時間でもう2回も5匹ほどの蜥蜴や蛇の姿をした魔物の群れに襲われた。
グリアたちが軽く返り討ちにしてくれたんだが、この遭遇率だと多分出くわすと思う大きな魔物の群れとの戦闘中に別の群れから奇襲を受けることも考えておかないと不味いな。
ザイオにヘムレオンやヴォ―ガイ達も自衛は出来るしティーエ達もいるけど、数に集られたら手が足りなくなる可能性もあるだろうからもう少し戦力があった方がいいな。
それに俺はさっき新しく身についたアビリティをこの移動中に確認をしたいんでしばらくは即応できないかもしれないし、ちょうどいい機会だから性能の確認を兼ねてあの鎧人形を使ってみよう。
考えが纏まったんで先を行く皆に声をかけて一旦立ち止まり、3体の鎧人形達を格納領域から取り出し魔力を注ぎ込んで起動すると1分ほどで動き出して俺に一礼してくる。
この内剣タイプをティータに槍タイプをティーエの護衛につけて左右の警戒に当たってもらい、格闘タイプは俺の後ろで殿とし改めて歩き出した。
こっちの戦力は増やしたけれど魔物の密度は濃いままなんで、近づく魔物の群れを無理に避けようとすれば間違いなく余計に他の群れを引っ掛ける。
そうなれば無駄に時間を使いそうなんで、エルフの集落へ向けてまっすぐ進み進路上の群れはドグラ達に先行して排除するよう頼んだ。
こうすることである程度は順調に進めていたんだが、幾つかの群れを潰したところでやっぱり30匹を超える大きな魔物の群れとぶつかった。
元々この群れは余り密集しておらず、その上この数だったんで流石にグリア達も瞬殺とは行かなくて横へ広がり2名の脇を抜けた3分の1ほどが俺達の方へも流れてくる。
加えて迎撃のために足を止めた俺達の側面から案の定別の魔物の群れが近づいてきた。
まあ戦闘が始まった時点で俺も気配探知を広げていたんで、奇襲を受けるような間抜けな事はならず鎧人形達へ迎撃を指示した。
クライフはこれまでと変わらずいい仕事をしてくれたみたいで、以前より滑らかに動き出した鎧人形達は素早く俺達の前に出て魔物の群れを迎え撃つ。
動きだけじゃなく技の切れも増した鎧人形達は別の魔物の群れごと回り込んできた魔物達も纏めて仕留めてくれた。
そんな風に魔物の群れの排除は手間だがそれ以外は特に問題なくこの盆地を覆う森の中を進んで行け、何とか日が沈む前に集落らしきものが見えてきた。
かなり大きな木々の樹冠や幹に沿って作られている幾つものツリーハウスはエルフらしいんだが、その根元にはかなりの数のテントが張られていてちょっと違和感を覚える。
その上ここはエルフの集落の筈なのにかなりの数の獣人達がそれらのテントの周りで動いているのが見て取れるんで、これは明らかに何かあったんだろうな。
どういう事情かは気になるが、その辺りの確認は移住の説得をするザイオやヘムレオン達に任せよう。
集落の様子はザイオ達も気になっているようなんで、間違いなく向こうにも質問をして事情を聞き出すだろうから俺達はそれを後で聞かせてもらえばいいな。
俺達のほうは予定していた通り集落にはあまり近づかず、一旦離れてザイオ達が一通り話を済ませるのを外で待とう。
そう考えている間に集落のエルフや獣人達もこちらに気が付いたみたいなんで、このまま集落へ向かうザイオ達とは別れて俺達は今来た方へ引き返した。
さて、ただ待っているだけだと時間が無駄だろうから俺達はこの間に魔物狩りでもしよう。
俺の傍ならポイントが余分に手に入るし、何より狩った魔物から回収した魔石を集落の連中へ見せれば俺が普通の魔人とは違うという説明を補強する証拠になるはずだ。
加えて移住するまでの間だがあの集落の安全を確保する事にもつながる。
さらに話をし易くなるだろうから出来るだけ多くの魔物を仕留めたい。
けど鎧人形達を加えても俺達は8名しかいないんで、これだとちょっと頭数が物足りないか。
となると近くの干渉地に楔を刺して転移で他の眷属たちを呼び寄せてもいいんだが、移動する間に確認した新しいアビリティの片方が数を補うのにかなり向いてるんで試しを兼ねてここで使ってみよう。
ただ集落に近いと逆に迷惑をかけるだろうから少し距離を取ったところで立ち止まり、アビリティゴーレム工操に意識を集中して地面に手をつき魔力を流し込んでいく。
このゴーレム工操は土や石に鉱石といった物を素材にして、それらへ魔力を帯びさせてゴーレムを作り出し自律制御や遠隔操作で自由に操れるというアビリティだ。
それに加えて製作者のスキルもある程度はゴーレムに反映される。
けどどのくらいの大きさでどんな体形にすれば、パワーとスピードのバランスが取れるのかは全くの手探りなんでこれは実際に試して行くしかなさそうだ。
今回は最初なんで体格別の適性を見極めるため、ポイントで作るゴーレムと同サイズにそれより大きめと小さめの3タイプをそれぞれ5体ずつ作ってみた。
それらのゴーレム達をタイプ別に一組の囮兼壁役として森の中を歩かせ、寄ってきた魔物の群れの側面から仕掛けたり後方から魔術を使って魔物を狩る。。
地面を響かせるゴーレムたちの足音が周囲の魔物達を誘引し、断続的に襲って来た蛇型や蜥蜴型にゴブリンとオークにオーガといった魔物の群れを3時間ほどの戦闘で合計400匹ほど返り討ちにしてやった。
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今週の投稿はこの1本です。




