#121 引き入れた、王都までの道 6
上から見下ろすヘムレオン達の暮らしていたという盆地は、端が霞むくらいの中々の広さがあり地面が見通せないほどの濃い森に覆われていた。
そんな景色の中で斜面の地肌がむき出しになっている盆地の北側の一角がちょっと気になったんで、その理由をヘムレオンに聞いてみたらどうやらあそこ辺りにザイオたちドワーフの集落があるみたいだ。
ついでに獣人達やエルフの集落がどこにあるかも聞いてみたんだが、ヘムレオンが指差してくれてもそのあたりを覆う森の緑が濃くて集落があるかは分からなかった。
まあここで嘘をつく理由もないだろうしドグラとグリアの足なら半日とかからずヘムレオンが示してくれたあたりへ行けそうだ。
けどその前に廃砦への移住の交渉をスムーズに進めるため、必ず出てくるだろう移住を渋る連中へ事情を説明して説得してもらうザイオや獣人のヴォ―ガイ達といった面子を呼び寄せないとな。
となると転移で呼び寄せるのが一番手っ取り早いんで、新しい楔を作り出し目の前に広がる盆地内の手近な干渉地を探して峰から下り始めた。
斜面を少し下るまではここまでと同じく特に問題なく進めたんだが、平地が近くなってくるにつれて周囲の状況が変わってくる。
あの峰に出るまではドグラ達に乗った高速移動中でも1時間に4〜5回くらいしか魔物とはニアミスしなかったのに、今は気配探知を広げるとそれだけで10くらいは軽く魔物の群れの気配を捉えられる上に魔物の密度はさら上がっていきそうだ。
これは以前あの砦からトロスへの移動中にザイオ達から聞いた移住の理由に間違いはないみたいだな。
具体的な内容としては故郷で魔物が急激に増え始め各種族が協力して討伐してもその増加を食い止められなかったんで、ザイオ達が先発して移住先を探していたという話で残念だろうがこの盆地の状況に変化はようだ。
ザイオ達には悪いが俺にとっては人手やポイント源を追加して確保できるいい機会だし、なるべく早くアルトン伯爵の護衛にも戻らないといけないんで、さくさくと干渉地を確保しよう。
そのために新しく作った楔を使って目的の場所を探してみたら幸いにも盆地へ下りてすぐそう強くはないが瘴気泉を見つけられた。
まあ魔物の密度が高い場所だけあってそこには大蜥蜴の魔物が複数の蛇の魔物を引きて陣取っており、邪魔なんでティータ達にドグラ達を率いてさくっと排除する。
これで瘴気泉を確保できたんで楔を刺し、ティータ達にはここの警備や周辺の魔物の排除を頼んで俺はヘムレオンを連れて転移した。
砦の地下室にある楔へ二人で移動し、ヘムレオンには説得役として向こうへ行ってもらう面子を呼びに行ってもらい、俺は地下を出てすぐの空き部屋で待っていたらヴォ―ガイといった獣人連中だけじゃなく廃坑の方にいると思っていたザイオまで顔を出した。
「ヴォ―ガイ達はともかくザイオまですぐに顔を出してくれたって事は、あらかじめこっちに来てたんだな」
「まあヘムレオンが案内役としてリク殿に呼ばれたと聞いていたのでの。ならばもうすぐ儂らにも声がかかると思ったんで最後の準備を終わらせてここで待っておったのよ」
そう返してきたザイオの口ぶりはかなり自慢げだ。
「その様子だと頼んでおいた物も仕上がってるみたいだな」
「勿論じゃ。早速検分してもらおうかの」
俺にも異論はないんで頷き返し、顔を出してくれた他の面子には一旦断りを入れて悠々と先にこの部屋を出ていくザイオに続いた。
そのまま鍛冶工房の近くにある部屋に案内されると中には俺用と人化ゴーレム組用の新しい鎧とそれぞれの武器が整然と並べられていた。
どれも良さそう出来で順番に見ているとサイズ的に俺用の鎧と予備の刀にちょっと他の奴より凄みを感じたんで看破眼を起動してみたら自慢げなザイオが俺の横に並んできた。
「どうじゃ、リク殿。我らの作の出来栄えは?」
「ああ、どれもいい仕上がりみたいだな。それに俺用の奴はウーツ鋼じゃなくてアダマンタイト製なんだな?もう坑道で鉱石が取れ始めたのか?」
「いや、残念じゃがそれはまだでの。これの材料はこの前リク殿が持ち込んでくれた奴を使わせてもらったのよ」
そういえばドゥルガス海賊団がパルネイラに構えていたアジトを制圧した時に、撃破したゴーレムがアダマンタイトの鉱石製で回収したその素材をザイオ達に渡しておいたな。
アダマンタイトを加工する難度がどれ位かは分からないが、パルネイラで楔を確保してからの時間を考えると突貫作業だったのは間違いないと思うんでザイオ達には感謝だな。
「なるほど、そういう事か。気を利かせてくれて感謝するよ。」
「ふん、良い物を作ると約束したんじゃから、礼は要らんの。まあ後はこれらを引き渡す前に実際に身につけてもらって微調整をしたいんじゃが、リク殿以外の面子はいつここに来られるのかの?」
「あ〜実を言うと装備を頼んだ内でザイオ達の暮らしていた集落へ行くのは俺にティータとティーエだけでな、同行もしてないからすぐここへ来られないんだ。悪いな。」
「それば残念じゃの。まあ仕方がないしリク殿の分の調整だけでも早速始めようかの」
俺もそれに異論はないんで頷き俺用の新しい鎧を身につけてみた。
実際に鎧を着こんだ事で調整の必要な個所が分かったみたいなんで、ザイオは他のドワーフも呼んでそのための作業に掛かってくれる。
すぐに終わらせるとザイオは意気込んでいたんが、それでもちょっとは時間が出来たんで様子を確かめにトロスの借家へ転移で飛んでみた。
地下にある楔の傍に出てすぐ横にあるクライフの研究室へ入ってみれば、いつもと変わらず10個近くの工具を念動魔術で操作しているクライフが何かの作業に没頭していたんで一段落するのを待って声をかけた。
「変わりは無さそうだな、クライフ」
「これはリク様。よくお出でくださいました」
「ちょっと様子を見に来たんだが、クライフは問題なさそうだな。けどミシェリさんの気配を感じないが何かあったのか?」
「ああ、ミシェリなら懇意している娼婦達へ薬を売りに行きましたが、呼び戻しましょうか?」
「いや、問題がないんならわざわざ呼ばなくていい。それで邪魔して悪いが、この前渡した鎧人形や転移とゴーレムの腕輪についての解析がどうなってるのか教えてくれるか」
「それでしたら鎧人形は解析に修復と強化を終えています。ただ素材がアダマンタイトなので複製は今の時点では無理ですね。けれど転移やゴーレムの腕輪は解析と強化だけではなく素体がミスリルで出来ていたので強化品の複製も出来上がっていますよ」
「流石にクライフは仕事が早いな。感謝するよ。それじゃあ実物も見せてくれるか?」
自信をもって頷くクライフが、自分の格納庫から三体の鎧人形と4本の腕輪を取り出して見せてくれる。
合わせてどういう構造でどんな強化をしたのかも説明してくれ、鎧人形は動きをさらに滑らかにして自立行動の精度を高め、腕輪は双方ともより少ない魔力でさらに効果が強くなるよう強化してくれたそうだ。
腕輪を手に取ってみると2種類とも最初に手に入れた時よりさらに強く惹かれる感じがしたんで、クライフに断りを入れて強化複製品を一つずつ溶融同化してみた。
アビリティ 転移門を取得した
アビリティ ゴーレム工操を取得した
感じた通りに新しいアビリティが身についたが、クライフの話を聞いている間に結構時間がたったし鎧の調整も終わってる頃だろうから確認は後にして砦に戻ろう。
三体の鎧人形と取り込まなかった腕輪も俺の格納庫に収めて、最後にもう一度クライフに礼を言って研究室を後にした。
楔で砦に転移すると鎧の微調整も丁度終わったみたいで今着ている鎧からその新しい鎧に着替える。
その間にザイオも移動する準備を終わらせてくれたようで待っていた他の交渉役と一緒に盆地の楔へ転移した。
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今週の投稿はこの1本です。




