#120 引き入れた、王都までの道 5
流石にすぐ次の刺客が襲ってくるとは考えていなかったがこちらの動向を探るための斥候役くらいは間を置かずやってくると思っていたのに、それさえ現れず俺達が加わったアルトン伯爵一行は何事もなく順調に予定した道を進んで行けた。
加えて大きな侯爵領の主要街道だけあり魔物や盗賊の掃討をきっちりやってあるようで、不穏な気配を捉えることもなかった。
そんな風に襲撃を受けた野営地を立ってから4日が過ぎても平穏無事に移動出来たが多少不気味なんで、今の状況をどう見るべきか休憩時にグライエンさんへ相談してみたら恐らくと前置きをして自身の見立てを話してくれた。
その話を纏めると間違いなくガルゴ男爵はアルトン伯爵を狙っているんだろうが、そのための刺客たちは多分マグガムとベドールに命じてその財布とパルネイラでのコネで用立てたと考えられる。
そうしてあの連中が事前に手配していた連中を俺達が排除した訳だが、マグガムとベドールを潰したんで次が用意できないんだろう。
合わせて最初の襲撃が失敗したという報せが距離的にまだアルデスタのガルゴ男爵へ届いておらず、次の策を仕掛けて来ていないというのがグライエンさんの見立てだった。
確かに今の状況を説明できる納得の予想だった。
となると次に周囲がきな臭くなってくるのは侯爵領の領都でアルトン伯爵が社交を終えてからとなる可能性が高い。
聞いてしてみるとグライエンさんもそう予想をしているみたいで、どうやらそのあたりまではこの状況が続きそうだ。
まあそれでも警戒は疎かにせず街道を進んで行くと5日目の昼過ぎ頃バーアフ領の領都が見えてきた。
もうはっきりと見えかなりの威容を誇る城壁の正面にある城門が開き迎えの兵が並んでいるのは、今日の早朝グライエンさんが先発させていた先触れの騎士がきちんとアルトン伯爵来訪の話を通したからだろう。
そんな向かえの兵の前まで今朝からまた先頭に立っていたグライエンさんが進み出て名乗りを上げると敬礼で迎え入れられる。
続いてアルトン伯爵が街へ入っていく所まで見届けたんで俺の護衛の義務は一旦ここまでだ。
アルトン伯爵がこの領都で社交をしている間に、配下に入ったドワーフやエルフに獣人達の同族達を勧誘しに行って来よう。
そんな俺の補佐には少しでも警戒されないようダークエルフであるティータとティーエについて来てもらう事にした。
聞いた通りになら彼らの集落はどれも森に只中やその外縁にあるみたいなんで、二人の乗ってきた馬は護衛として残るバルバス達人化ゴーレム組に預けてティータとティーエも俺と一緒にグリアの背に乗って順次街へ入って行くアルトン伯爵一行から離れた。
そのまま街道も外れ一番近くに見える山の方へ向かうが、畑を突っ切る方角なんで侯爵家から後で文句を言われないようなるべくその境界を縫うように進んで行く。
近くの山を目指すのはそっちに集落があるからじゃなく、楔を使って案内役を呼び寄せるためだ。
出来るだけ気を使って畑を抜け山を覆う森に入った時点で新しい楔を作り干渉地を探してみると、結構山を登った谷底近くで植生が濃くて隠れやすそうな場所に小さな霊気泉があった。
ここに刺しておく楔はドワーフやエルフ達との話し合いが終わった後の帰りに使いたいんで、隠しておけるようティータ達にも手伝ってもらって地下室を作って楔を刺す。
多分ここが襲われることはないだろうがティータ達には楔の警備に残ってもらい、俺は一人で廃砦へ転移した。
問題なく廃砦の地下室へ着き警備をしてくれていたロックガーディアン達へ礼を言って地上へ上がり、近くを通りかかった住人へ声をかけて砦の顔役達を集めてもらう。
すぐに俺の所へやってきてくれたここの顔役達にここへ来るまで暮らしていた集落への案内役を一人頼むとエルフの代表であるヘムレオンが立候補してくれ即出立の準備を整えてくれた。
これで集落へ向かう一行は俺を含めて4名になるんだが、流石のグリアでもこの人数を背に乗せて移動するのは少し荷が勝ちすぎるだろうから、ヘムレオンには先にティータ達の所へ転移してもらい俺は冥炎山へ転移した。
普段はここで魔物狩りをしているドグラを念話で呼び出し楔の警備をしてくれていたロックガーディアンの1体も一緒にティーエ達の所へ戻る。
連れてきたロックガーディアンにはこの谷底の地下室へ残しておく楔の警備を頼み、俺とティーエがドグラにティータとヘムレオンがグリアに騎乗してヘムレオンたちが以前暮らしていた集落へ向けて出発した。
ヘムレオンは迷いなく進行方向を指示してくれるんだが、行く手の緑は深くいくつも谷や峰を超えていくんで馬を置いてきて正解だった。
ニアミスする魔物共を無視して森を苦にしないグリアたちの巡航速度でも2日以上かかってやっと目的の集落があるという盆地を見渡せる峰の上に出ることが出来た。
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