#117 引き入れた、王都までの道 2
さて、パルネイラで済ませておく用事はこれで終わりだな。
ここからはグライエンさんに頼まれた護衛の仕事に入る訳だが、今回俺達は追加の護衛だと気づかれないよう先にパルネイラを出て待ち伏せ、街を出たアルトン伯爵一行の後をつけてアルデスタ領を出たところで合流する予定だ。
なので少し早い気もするがアルトン伯爵と俺達との関係を勘ぐられないよう、今日中にパルネイラを出るつもりでいる。
そのために用意を頼んだものと最後の情報交換をしにギラン商会へ向かった。
花街を抜け商会の建物に近づくと入り口の掃除をしていた従業員まで俺の顔を覚えてくれていたようで心よく中に案内してくれ、通された執務室でエクトールさんが歓迎してくれた。
「ようこそ、リクさん」
「どうも、エクトールさん。早速ですが、この後から例の仕事にかかろうと思うんで情報交換とお願いしていたものを引き取りに来ました」
「承りました。それでしたらご要望のあった多少乱暴に扱っても潰れない馬6頭、ご用意できておりますよ。アルトン様の外遊予定も本決まりになりましたし、数日前に決まった内容から変更もありません。もしも変更になる時はリクさん達の待機場所へ私の方から使いを出させてもらいます。そのために一応いつ頃パルネイラを出られるのか伺ってもよろしいですか?」
「今日中にはこの町を出るつもりです。だからこの後すぐ用意してもらった馬を引き渡してくれますか?」
「分かりました。すぐに担当の者へ支持を出しましょう。けどリクさん達は7人いらっしゃいますよね。本当に6頭でよろしかったんですか?」
「まあ確かにエクトールさんの言う通りなんですが、もう1頭にはちょっと別に当てがあるんですよ」
「そうですか。リクさん達にも明かせぬ手の内があるのでしょうからこれ以上尋ねるのは無粋ですね。そういえばグライエンの奴の同行も決まったので私の方から連絡を入れておきましょう」
「お願いします。じゃあお互いこの後もやることが詰まってますし、これで失礼しますよ。船やドックの事については王都から戻ったらまた俺の方から連絡させてもらいますよ」
「楽しみに連絡をお待ちしています。ご武運をリクさん」
しっかりとエクトールさんへ頷き返して彼の執務室を辞させてもらった。
ティータにはギラン商会に残って用意してもらった馬を受け取るための準備の見届けてもらい、俺はティーエと他の皆を連れてくるため一旦花街に確保した屋敷へ引き上げた。
戻ってみるとバルバス達もきちんと護衛に出る準備を終えてくれていて、パルネイラからの出発を告げると各々気合の入った返事を返してくれる。
となるとこの屋敷には誰もいなくなるわけで俺達のいない間に上物へ侵入されても大した事はないんだが念の為内側から窓や勝手口を土魔術で封鎖し、楔を警備してくれるロックガーディアン達に声をかけ地下への出入り口も閉じておく。
最後に正面玄関も土魔術で厳重に封鎖して花街の屋敷を後にした。
そうして屋敷の防犯対策をしてからギラン商会まで引き返してくると商会の担当者がきちんと馬の準備を終えてくれていて各々が騎乗していく。
ただ1人足りない分は馬に過剰な負荷をかけないよう鎧を脱いだ俺とティーエが一番頑丈そうなのに二人乗りをした。
最後に馬具の微調整をしてもらっているとエクトールさんが顔を出してくれ、もう一度軽く別れの挨拶を交わしてギラン商会を離れた。
かなりの人が行きかうパルネイラの大通りを俺達は一列で通り抜け、アルトン伯爵も通る予定になっている城門を潜って街の外へ出た。
その後は道なりにしばらく進みエクトールさんから教えてもらったあたりで道を外れ、牧草地か休耕地のようなところを行くと聞いた通り城門を見渡せる丘があったんでここに陣取ることにした。
目立たないよう城門から死角になる丘の反対側にテントを張り一応交代で城門を見張ることにする。
勿論俺も見張りに参加したんだがそれ以外の時間を使い近場の干渉地を探して臨時で楔を打ち込み俺の騎乗用にグリアを呼び寄せておく。
他にはバルバス達と久しぶりに訓練をして街を出た日やその翌日は何事もなく過ぎた。
そうやってアルトン伯爵が出発する日が来ると見張っていた城門は朝からパルネイラへの出入りが規制され、聞いていた時刻に全員で見ていると時間通りに開かれた城門からぞろぞろと人が列を作って出てきた。
先頭を行く馬に騎乗している人物へ目を凝らせば間違いなくグライエンさんなんで、この行列がアルトン伯爵一行で間違いなさそうだ。
テントといった野営道具の撤収はもう済ませてあるんで、各自グリアや馬に騎乗し合流を希望されているアルデスタ領外までは距離を置いてついて行けばいいんだが、ただ後ろをついて行くだけだともしも待ち伏せされた時に後手に回る可能性がある。
そうならないようバルバス達人化ゴーレム組には距離を置いてアルトン伯爵一行の先を行ってもらうと全員で相談して決めてある。
その考えにそって先に丘を降りていくバルバスを見送り、俺達もアルトン伯爵一行が丘の下を通り過ぎるのを待って街道へ向かった。
前を行くアルトン伯爵一行と歩調を合わせ俺の気配探知に最後尾がギリギリかかるくらいの距離を保って後をついて行く。
パルネイラの近郊では気になる事は何もなかったんだが、エクトールさんと話し合った予想の通り日が陰り始め野営をする予定の領境が近づいてくるにつれて嫌な気配を拾うようになってきた。
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