#116 引き入れた、王都までの道
ベドールやその取り巻き連中に一応商会の従業員たちも引き渡し、手元に残しておいた海賊達から回収した書類も引き取りに来てくれたランバルト代官配下の騎士達に渡しておいた。
その代わりじゃないだろうがベドール商会の不動産や資産を自由にしていいというランバルト代官の許可証をもらい、ベドールやマグガムの後始末も全て引き受けてくれると言うんでお任せしておいた。
となるとこちらもお役御免となるベイト氏にも礼を言って引き上げる騎士達に同行してもらう。
すぐに話は広まるだろうが知らせる義理はあるんで、マグガムの始末までついたとアグリスとアデルファにメリルレスタ商会へ知らせに行ってもらった。
こうしてパルネイラでまず片付けておくべき面倒ごとは処理できたんで、護衛をすることになっているアルトン伯爵がこの町に着くまでパルネイラを見て回る事にした。
どこかの宿を取っても良かったんだが、ベドール商会の客間も中々豪華でみんなが寝泊まりするのに十分な数があり生活に必要な設備もかなりのものがそろっていたんでここを宿代わりに決めた。
そうしてまだ足を運んでいない港の一部や外壁付近を見に行ってみたんだが、なぜかアルデスタのような街を覆う魔物を排除する結界が張られていなかった。
街の規模を考えると件の結界がないのはちょっと腑に落ちないが、占有領域を展開するにはちょうど良い。
出来るだけ力の強い干渉地を探すため新しい楔を作って腰にさし、もう一度街の色んな所を回ってみた。
すると花街の外れにある一番寂れた区画で無人の廃屋の地下にパルネイラを十分占有領域に治められるくらいの力がある瘴気泉を見つけた。
人が住んでいないのは丁度いいが、持ち主も分からないんでそれを探すため中に入ってみても大した手掛かりはなかった。
俺達が独自で探そうとすれば無駄に時間だけがかかりそうなんでギラン商会へ顔を出してエクトールさんへこの廃屋の買取や修繕を依頼した。
あわせてベドール商会の不動産を換金してドックの維持や預けた船の管理する資金の足しにするようにも頼む。
ついでにパルネイラから王都までの道順や周辺情報を教えてもらったり、廃屋に新しく作った地下室に刺した楔を使って回収した鎧人形をトロス持ち帰ったり廃坑の様子を確かめに戻ったりもした。
そんな風にして過ごしているとマグガムが排除されて5日後が経ち、アルトン伯爵がパルネイラに到着した。
その2日後には明後日アルトン伯爵がパルネイラを出発する事に決まったとエクトールさんが伝えてきたんで俺達も最後の準備を始める。
とはいっても食料なんかの補充は終わっているし、瘴気泉のあるあの廃屋も頼んだその日にエクトールさんが手に入れ次の日には修理と清掃を終わらせ引き渡してくれている。
勿論俺達の手で地下室を作り楔を打ち込んで占有領域を展開して、警備のロックガーディアンや罠代わりのロックカノンモスにバーストロックなんかも配置済みだ。
あと残っているのは街を出る挨拶くらいで、それに合わせて1つ頼み事をしにメリルレスタ商会へ向かった。
ティータとティーエを連れていき出入り口を守っていた奴らに話しかけると今回は丁重に応接室へ通される。
そうするとすぐにちょっと痩せたが妖艶さが増した感じのするナレイヤさんが入ってきて俺の前に腰を下ろした。
「いらっしゃい。マグガムまで片付いたって連絡は貰ったけど直接顔を合わせるのはあの試合以来ね。今日はどうしたの?」
「実は新しい仕事が決まったから街を離れることになったんだ。で、別れの挨拶と一つ頼みたいことがあったんで顔を出させてもらった」
「そう、あなた達が出て行くはちょっと残念だけど、この町を離れるなら私たちに何を頼むって言うの?」
「それは俺達がこの花町の外れに仮住まいを確保したのはナレイヤさんも知ってるだろ?すぐに手放すのは勿体ないし、今後の移動が楽になるよう地下に転移陣とそれを守る致死のモノを含んだ色んな罠を仕掛けたから、その罠にかかって無駄死が出ないよう街の連中やチンピラが近づかないよう周知と見回りを頼みたいんだ」
俺の話に最初は疑問気だったが最後はナイレヤさんも納得して頷いてくれた。
まあ転移陣っていうのは楔の事なんだが、もし何か疑念に思われても実物を見せずあの魔術師から手に入れた腕輪を独自の魔術で強化改造したとすれば誤魔化せると思ってる。
「それなら納得ね。引き受けてもいいけどこちらからも一つ頼みを聞いてほしいの」
「分かった。取りあえず言ってみてくれ」
「じゃあ、もしまた何かあってあなた達の手を借りたくなったら力を貸してくれないかしら?」
「それなら問題ない。もしもの時はギラン商会を通じて連絡をくれ。あそこの会長とは面識があるから多少報酬を払ってくれれば伝言を頼めるだろうし、そうすれば今言った転移陣も使って出来るだけ早くここの顔を出すよ」
「ありがとう。その話が聞ければ十分よ。うちの者達に目を光らせてあなた達の家に忍び込んで死ぬような馬鹿が出ないようにするわ」
「よろしく頼む。これで要件は済んだし、そっちもベドール関係の後始末で忙しいだろうからこれで失礼するよ」
「新しい仕事の準備もあるんだろうし引き留めるのは無粋ね。その仕事っていうものきっと荒事なんだろうから武運を祈らせてもらうわ」
最後にナイレヤ女史と握手を交わしてメリルレスタ商会を後にした。
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