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#113 儲かった、海路 18

 俺と向かい合った男は右手に中々の装飾が施された杖を持ち、左の手首にはシンプルだが引き付けられるような腕輪をはめ、仕立てのよさそうなローブを羽織った見た目だと完全に魔術師のスタイルをしている。

 となると一対一の戦いで必須の接近戦には本人のスキルで対応するのかと思って看破眼を起動し調べてみたんだが、格闘や回避といった接近戦に要りそうなスキルは身につけてないしローブにも特別な防護機能はなさそうだ。

 なら杖や腕輪に何か仕掛けがあるのか看破眼で調べようとしたんだが、その前に審判をしている顔役が試合開始を宣言してきた。

 

 その声へ瞬時に反応し向かい合っている魔術師が開始前から魔力を練り込み準備していた火球を杖から放って撃ち込んでくる。

 まあ魔力を練り込んでいたのは俺も同じで、それを刀に纏わせ居合抜きの要領で目の前に迫ってきた火球を切り捨てて爆散させ剣圧で爆風を押しのけた。

 向き合う魔術師が事前に練り込んでいた魔力の量と今の火球の威力を比べてもう2〜3個は火球を撃ち込んでくると予想して無理に間合いを詰めず、確実に迎撃しようと考えたんだが次弾は飛んでこない。

 そのまま爆煙が晴れて前方の視界が開けると向き合っていた魔術師は練っていた魔力のほとんどを左腕にはめている腕輪へ流し込んでいた。

 何をするつもりなのか判断がつかず俺が間合いを取ったまま様子を見たんで、その隙を逃さず魔術師は腕輪の力を解放する。

 次の瞬間には俺との間の空間が歪んでいき、真っ黒く渦をまくような球形をしていて空間の空いた穴のようなものが出来上がるとそこから背丈が2mを超える金属質で鎧姿の人形がはい出てきて俺に襲い掛かってきた。

 重量感のある棘のついたガントレットの拳を左右交互に打ち込んでくるが、拳速はそれほどでもないんで躱しながらすり抜けざま胴薙ぎに切りつけてみた。

 鎧と刀が激突して表面に多少の傷はつけられたが後は刃が滑ってしまい大したダメージは無く、人形は何事もなかったように再び殴り掛かってきた。

 それでもこの手ごたえなら刀に纏う魔力を増し精霊武装か霊気具装を重ね掛けして切れ味を増せば切断できそうなんで、この人形の脅威度はそう深刻なものじゃなさそうだ。

 そんな風に人形の力量を図っていたらその穴のような場所からはもう2体、金属質な鎧姿は同じだが剣と盾で武装したやつと槍を両手で構えた奴が続けてはい出してきて真っ黒く渦をまく球形は消滅した。

 その2体もすぐ戦列に参加しガントレットをはめた奴が休まず左右の拳をふるって俺を攻め立て、それと挟撃するように剣を持つ奴は立ち回り、槍を持つ奴は少し距離を取って俺の隙を狙いつき込んできた。

 中々の連携だが剣や槍をふるってくる速度は最初の個体の拳とそう大差なくこの程度なら問題なくさばける。

 そうなるとここへ魔術を撃ち込んでくるかと魔術師の方を見たんだが、余裕の表情で特に構えも取らず高みの見物といった様子だった。

 なるほどな、疲れを知らず防御の強固な人形たちに俺を追い立てさせ、いずれは疲れ動けなくなって袋叩きにあうまで足掻く俺の姿を間近で見物しようって考えか。

 いい性格をしているが、この人形やあの魔術師の装備を見極める時間を楽に作れそうなのは俺にとっても悪い話じゃないな。

 といっても無駄に体力を消耗する必要はないし、早速気配を感じて人形たちの攻撃を躱しながらまだ見極めていない魔術師の杖と腕輪を看破眼で見ていく。

 杖には一般的な魔力増幅と魔術強化の機能があるだけだったが、腕輪には転移ゲートを作り出す機能があった。

 格納庫の亜種くらいだと思ってたんでこの腕輪の機能はちょっと驚いたが、どうするか考える前に見極めを終えるのが先なんで人形の方へ看破眼を向ける対象を移す。

 どうやらこの鎧人形3体は装備が異なってるが基本は同型の独立した魔道具みたいだ。

 今実際に戦って実感しているがそこそこ高性能みたいで、その分起動には結構魔力を使うようでその状態だと格納庫に収めておけないみたいだから腕輪の転移機能でここに呼び出した訳だ。

 さて一通りは見極められたし次はこの鎧人形達をどういうふうに排除して、あのいい性格をした魔術師に一泡吹かせて勝つかだな。

 そうだ、この人形達やあの転移機能のある腕輪を合法的に奪い取った上で勝ってやろう。

 一度この鎧人形達は破壊しないといけないが後でその残骸が手に入れば魔道具を作れる錬金術師であるクライフへの良いお土産になるし、クライフなら直してくれ再利用もできそうだ。

 修理が無理でも切りつけた手応えからして人形の装甲は最低でもアダマンタイト製だろうから鋳なおせばいい武具の材料になる。

 後はどうやるかだがそういえばあの魔術師、腰に魔力回復薬は下げてるが普通のポーションの類は持ってなさそうだし、あの腕輪以外に格納庫系の魔道具も身につけてない。

 これならやりようはありそうだし、間を置かず実行だ。

 

 気配探知と反射で対応していた鎧人形達の攻撃に集中して回避のスピードを上げ、鎧人形達の間をすり抜けて広場の端へ向かって間合いを取った。

 すぐに鎧人形達も追いかけてくるが開いた間合いを利用して火の精霊であるケルブを召喚し精霊武装のスキルも発動して炎の刃として刀に纏わせ俺からも反撃に出た。

 先頭で向かってくるガントレット装備の鎧人形が拳を繰り出してくるが躱しざまに胴を薙ぎ腰の関節を両断する。

 間髪を入れず剣装備の鎧人形が切りかかってくるが、これも躱しざまに片方の股関節を切り飛ばし背後に回り込んで両肩にもう片方の股関節も両断した。

 その瞬間を狙って槍装備の鎧人形が突き込んできたが飛び上がって躱し、着地した槍を蹴って鎧人形の間合いに飛び込んで首をはねた。

 こいつらは人形なんで首を取ったくらいじゃ仕留められないと思ってそのまま背中に回り込んだんだが、槍の奴を含めすべての鎧人形はその場に崩れ落ちた。

 その様子を呆然と見ていた魔術師は俺と視線がぶつかり慌てて魔術を使おうとしたが、その前に俺から一気に間合いを詰めて左腕の手首とひじの中間あたりを一閃して切り飛ばした。

 一瞬何が起きたのか分からないという表情を魔術師はしていたが、すぐに苦悶の表情を浮かべ左手の傷を押さえて後退りをする。

 そんな魔術師へ向けて視線でプレッシャーをかけながら切り飛ばした左手を拾い上げ腕輪は外して手首は魔術師の方へ放り投げてやった。

「油断大敵だな、魔術師さん。このまま止めを刺してもいいんだが取引しないか?この腕輪とあの人形達を俺に譲ってくれて素直にこの試合の負けを認めれば代わりにこのポーションをあんたに譲ろう」

 この魔術師に見えるように格納庫からミシェリさんのポーションを取り出してみせる。

「これは中々のもんだから最低でもその傷は塞がるだろうし、上手くすればその手もつながるかもな。まあベドールに義理立てするならこのまま止めを刺してやるよ。あんたはどっちがいい?」

 ここで多少は悩むかと思ったんだが、即座に魔術師は答えを返してきた。

「分かった。俺の負けを認めてやるし、その腕輪にあの役立たずな人形共もくれてやる。さっさとそのポーションをよこせ」

「取引成立だな」

 1つ頷いて魔術師へポーションを放ってやると右手で受け取り口で封を開けて早速傷にかけていた。

 その様子を審判役も呆気に取られて見ていたが俺が視線を向けると慌ててメリルレスト商会の勝ちを宣言した。


お読みいただきありがとうございます。


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