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#111 儲かった、海路 16

「やはりお嬢さんはそう考えていましすか。賢いやり方だとは正直思えませんが、仕方ありませんね。では、我々と賭け試合をしませんか?そちらは手に入れたという書類と花街の縄張りの全てを賭けてもらいましょう。こちらも花街の縄張りをすべて賭けますから、お互いの代表で一騎打ちをして勝った方が賭けた物を総取りにする。どうです、お互いにとって魅力的な話でしょう?」

 ベドールに言われてみると悔しいがこっちにも利がある話だ。

 襲撃を受ける可能性がなくなる訳じゃないが戦場を設定できるメリットがあるし、何よりメリルレスタ商会にとっては管理者が居なくなった花街の縄張りを制圧するより賭け試合でベドール商会から直に奪い取れば後始末がかなり楽なはずだ。

 俺達の腕前は見ているから勝算はあると思ってくれるだろうし、負けるリスクもゼロじゃないとも考えているだろうからナイレヤ女史もどう答えるか少し悩んでるみたいだ。

 そんな彼女がどう答えるかは分からないがその前に確認したいことがある。

 念話で後ろにいるベイト氏にもしこの賭け試合を受けた場合に後でマグガムに付け込まれる隙にならないか確認してみた。

 どうやら騎士の間でも名誉や物を賭けた決闘が認められているみたいで、庶民の場合でも両者が同意した賭け試合の一方だけを罰するのは無理みたいだ。

 しかもランバルトさんの配下で第三者のベイト氏が立ち会っていて賭けを持ちかけてきたのがベドール側だと予め報告しておけば、後でマグガムがこの賭け試合を問題化するのはほぼ不可能みたいだ。

 そう確認をしている間にナイレヤ女史も腹が決まったみたいだ。

「いいわ、その勝負乗ってあげる。勝ってお前達をこの町から追い出してあげるわ」

 妖艶な笑みを浮かべてナイレヤ女史がそう答えを返すと、自身の思惑が通ったベドールも笑みを深めた。

 そうやってしばらく笑顔でにらみ合っていたナイレヤ女史がこっちの意向を確認するように視線を向けてくるが、俺達の負けるリスクを取って勝負に出る覚悟を決めたんなら反対するつもりなんてない。

 ただ賭けているものがあの書類とお互いの縄張りだけだと俺としては物足りない。

 それでもメリルレスタ商会にこれ以上のリスクを負わせるのは筋が違う気がするし、ちょっと思いついた事もあるんでここは俺が掛け金を積み増してベドールから欲しいものを引き出してみよう。

 ナイレヤ女史とベドールがにらみ合いを続けて居るが、気にせず両者の間にあるテーブルに近づいて格納庫からその上に海賊達から回収した金貨の袋を3つほど並べて見せた。

「その話に俺も一枚噛ませてくれよ」

 横から話に割り込んだ俺をナイレヤ女史は様子見といった態度で見てきたが、ベドールの方は笑みを薄め俺をねめあげてきた。

「あなたは?見た事のない人のようですが」

「あんたが忌々しいと思ってる書類がこの商会に渡るよう仲介した傭兵だよ。ついでに物騒になるだろうからって書類の始末がつくまでの臨時の護衛として雇われたんだ。で、今この商会で一番腕が立つのは俺だろうから多分その賭け試合の代表になる筈だ。勿論勝たせてもらうつもりなんついでに手持ちの有り金全てを俺の勝ちへ賭けたいんだ。当然あんたも自分の勝ちに自信があるんだろうから同額で受けてくれないか、悪い話じゃないだろう?」

 そこまで話すとベドールの目の険が幾分薄れ薄気味の悪い笑みが戻ってきた。

「確かに面白そうな話ですね。楽をして稼がせていただけそうですが、素性の分からないあなたのような傭兵が約定を守るとどうやって信じればいいですかね?」

「そこを言われると耳が痛いな。じゃあ、こんなのはどうだ。賭け試合自体がなくなると儲からないんで会頭さんが試合の前に書類を代官様の所へ持ち込まないようにするし、そっちは出来るだけ早く事態を収拾したんだろうから試合の日時は明日でどうだ。後ここに出した金は俺の有り金の半分くらいなんだがこれをあんたに預けてもいいよ、但し預かり証はしっかり書いてもらうけどな。このくらいで俺達の信用の無さには目をつぶってくれないか?」

「まあ、いいでしょう。明日の夜あなたから有り金を全ていただくとしましょう」

 そう言ったベドールが懐から紙を取り出しさらっと預かり証を書いてサインもして俺の方へ差し出してきた。

 目的のものがあっさり手に入りニヤけそうになるがポーカーフェイスを通して、預かり証を格納庫にしまい金貨の袋をベドールの前に押し出した。

「じゃあ賭け試合の日時は明日の夜で決まりね、最後にどこでやるかを決めましょう」

 ナイレヤ女史の提案にベドールも鷹揚に頷いてお互いの意見をすり合わせていく。

 2~3歩下がった俺は口出しをしないで双方3〜4か所候補を上げるが、最後は両者の縄張りの境目付近にある広場で試合会場は落ち着いた。

 試合開始時間も深夜の12時と決まり、お互いに後で賭け試合を無効にできないよう花街の他の顔役の立ち合いも決まる。

 最後に俺の差し出した金を懐にしまい気味悪げな笑みを深めて、では、明日の夜と言い置いてベドールは応接室を出て行った。


 念のためベドールとその配下達の気配がこの建物から出て行くのを確かめているとナイレヤ女史は深く長い溜息をついて俺の方へ顔を向けてきた。

「予想とはだいぶ違う話の流れになったけど、約束通り判断を任せてくれて感謝するわ。途中あなたがあの男と交わした書類の扱いや試合の日時についても不満はない。でも一つ教えて、どうしてお金をあの男に預けたの?」

「ああ、それはこの預かり証が欲しかったからだ。多分もしもに備えて偽造だって言い逃れるための細工がしてあるんだろうけど、それでもこれがあれば賭け試合に勝った瞬間に預けた金の回収って名目で有無を言わせずベドール商会へ乗り込める。あとはマグガムが介入してくる前にあいつらの犯罪の証拠を押さえて代官様の所にでも持ち込めれば、もしあの金が戻ってこなくてもそれ以上の報奨金を多分出してもらえるさ」

 まあ、金についてはベドール商会を潰した後でその全財産をもらえると口頭だがランバルトさんに約束を取り付けてあるんで少なくと赤字にはならないと思う。

「なるほど、そういう事ね。よく分かったわ。じゃあ、明日の夜までどうするつもりか、もう考えているなら教えてくれない?わたしたちは予定通りに書類の裏付けを多少でも進めておくつもりよ」

「俺達は用意してくれた部屋で英気を養わせてもらうよ。ただ食事や飲み物は俺達が外に出て調達してくる。ナレイヤさんを信頼してない訳じゃないんだが、変な薬や毒を盛られる可能性を排除したいんでな」

「それは当然の対応だと思うから気にしなくていいわ。じゃあ、お互いの予定も確認できたし今日はこれで解散しましょう。明日は日が沈んでしばらくしたら試合会場へ案内するからそれまでに準備を済ませておいてね」

 立ち上がりながらそういうナイレア女史へ頷き返し、そろって俺達も応接室を後にした。


 俺達にあてがわれた部屋に戻り、念の為交代で夜番に立ってくれるアグリスやアデルファに礼を言ってもう一度休む前にベイト氏にも頼みごとをする。

 さっきの会談の内容をランバルトさんやエクトールさんへ報告し、何か連絡や指示があるか確認に行ってきてほしいと依頼すると二つ返事で快諾してくれた。

 ただ今この商会は恐らくベドール商会の手の者に見張られているだろうから、朝昼夕の食事の買い出しを装って伝令に行ってもらうことになった。

 さて、今俺に出来る事は終わったしゆっくり寝て体調を整えさせてもらおうか。


お読みいただきありがとうございます。


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