表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/142

#109 儲かった、海路 14

 その声が聞こえてきた廊下の方をみると男を2人引き連れた声の主だろう女性がこの部屋に入ってきた。

 肉感があってメリハリのついた体のラインが際立つドレスに身を包み、顔つきやその表情と相まって妖艶って言葉そのままの容姿をした女性で、後ろに続く男達もなかなか腕が立ちそうで1本角のオーガくらいならサシでもやれそうだ。

 それにこの女性の一声で殺気立っていたここの連中が手を止めた訳で、かなり上位の立場にいるんだろう。

 それを確認しようと看破眼を使おうとしたら後ろからベイト氏が近づいてきて、この女性がメリルレスト商会の会頭でナイレヤ女史だと耳打ちしてくれた。

 ささやき声くらいの声量だったが部屋が静かだったせいかその会頭だという女性にも聞こえたようで、一瞬眉が動いたがすぐに表情は元に戻り優雅な動作で俺の前まで歩いてきた。

「後ろの方は私のことを知ってるみたいだけど一応自己紹介するわ。ここの頭取をしているナレイヤよ。で、あなた達は何者でここにどんな要件があるの?」

 さて、どう答えを返そうか?

 直に会って交渉したかった人物は目の前まで出てきてくれたし、俺達とこの商会の戦力差も十分見せつけられた筈だから、これ以上強引な手を使う必要はないな

 例の書類を見せて取引を持ち掛けるとして、問題になるのは今の時点でこっちの情報をどこまで明かすかだろう。

 ランバルト代官やギラン商会の事を伏せるのは当然だが、後で疑念を持たれないよう俺達の素性に関しては下手な嘘はつかい方がいいな。

 基本方針はこんな所で後は臨機応変に対応しようか。

「俺達は主に魔物討伐をしている傭兵団で、俺はリクっていう。この部屋へ来るまでに排除した連中は誰も殺してないから介抱してやるといい。ここには取引をしたくて来たんだが、門前払いされそうになったんで強引に入らせてもらった。まずそこは詫びさせ貰うよ。で、取引の話なんだが、その前に見てもらいたい物がある。ちょっと縁があってある商会の船の護衛をしたんだが、襲って来た海賊を返り討ちにしてそのアジトも制圧してみたら面白い書類が手に入ったんだよ。きっとあんた達も興味を持つ内容の書類だろうからまず目を通してみてくれ」

 ちょうど部屋の中に無傷で応接セットが残っていたんで、俺から先にソファーへ腰かけ格納庫から目の前のテーブルに件の書類の一部を出した。

 そんな俺の行動にナイレヤ女史や取り巻きの男達は戸惑いや疑念の視線を向けてきた。

 そのまましばらく様子をうかがっていたが埒が明かないと思ったようで表情を引き締めたナレイヤ女史が数人の配下に俺達がのしてきた連中の介抱へ行かせ、自身は優雅な動作で俺の向かいのソファーへ腰を下ろしてテーブルの書類を手に取った。

 一枚ずつ丁寧に目を通してくナレイヤ女史の顔はだんだん驚きに染まっていったが、最後の一枚を読み終わると表情を引き締め直して俺へ向き直った。

「これはベドール商会とドゥルガス海賊団の盗品取引の記録みたいね。確かに興味深い内容の書類だけど、あなた達はこれで私たちとどんな取引がしたいって言うの?」

「悪いが俺の話の前に人払いを頼めるか?どこにベドール商会の耳があるか分からないんでな」

 これは少しでも情報の洩れを防ぐための提案で拒絶されるかもと思ったが、苦々しい表情になったナレイヤ女史が後ろに控えていた護衛に目配せした。

 その護衛が顎をしゃくって出口を指すと詰めていた男達の大半が出て行き最初からナレイヤ女史についていた二人はこの部屋に残ったが、まあこれは許容範囲だな。

「これでいいかしら?」

「ああ、配慮に感謝するよ。じゃあ、早速本題に入るが俺達はこの書類を使ってベドール商会から有り金を搾り取ってやろうと考えてる。どうだろう、あんた達もこの話に一枚噛んでみないか?」

「それも興味深いお話だけど、この書類をお金に変えるつもりなら直接あの男の所へ乗り込んで行って言い値で買い取らせた方が早いし確実なんじゃないかしら?」

 そうは言ってるがこっちを探るようなナレイヤ女史の表情からして、恐らくベドール商会の裏事情を知ってるか確認する意味での質問だろうな。

「まあ他所の商会相手ならそうかもしれないけど、ベドール商会にはマグガムって役人が後ろ盾についてるんだろ。直接乗り込んで行って金を要求したらこっちが恐喝なんかの罪を着せられるだけだ。違ってるか?」

「いいえ、その通りでしょうね。ならどうこの書類を使うつもりなの?」

「この書類は撒き餌にするつもりだ。具体的にはあんた達メリルレスタ商会がこれを手に入れたってベドール商会の連中が知れば間違いなく奪い取ろうとするだろう。そこを返り討ちにして黒幕の名を吐かせ、それを名分にベドール商会へ乗り込む。きっとベドールはマグガムとやった犯罪の証拠を奴から身を守るために保管してるだろうから、それを押さえてここの代官様や第3以外の警備隊に持ち込めばまず間違いなく潰れるベドール商会の資産の半分か悪くても3分の1くらいは報奨金として貰えるよう交渉できるんじゃないか?」

「そうね、確かに無理のない策だと思うわ。でも一つ疑問がある。もしベドールが手を出してこなかったらどこを落し所と考えているの?」

「それについては質問に質問を返すようだが、ベドールって男は何もしなければ自分の権益が確実に削られる状況で、手をこまねいて成り行きを傍観するような奴なのか?」

 一応落し所は考えてあるし問い返したベドールついての人物像はエクトールさんの受け売りなんだが、ナイレヤ女史には十二分な実体験があるみたいで苦々しく表情を歪めた。

「ごめんなさい。愚問だったわね。今の質問は忘れて。・・・いいわ、私たちもこの話に乗っても構わないけど、先にお互いの取り分と役割をきちんと決めておきましょう。まず取り分だけどあなた達は報奨金として貰うベドール商会の資産を、私たちは潰れるベドール商会の縄張りを引き継ぐ。こんな所かしら」

「ああ、異存はない。後は役割分担だけど、書類の防備やベドール商会の刺客の撃退は俺達に任せてくれ。そっちはベドール商会へプレッシャーをかけるため書類の裏取りでも装って書類を手に入れたと暗に触れ回ってくれ。まあ、実を言うと伝手に頼んでここがこの書類を手に入れたって噂をもう流し始めてるんだがな」

 このセリフにナイレヤ女史の眉がピクッと反応したが、そこまで不愉快じゃなかったみたいで表情までは崩さなかった。

「手回しの良い事。まあ、いいわ。でも、この書類の裏取りね。もしベドールが手を出して来なかった時の保険として有効そうだから実際にやらせるわ。だからもう一度この書類を詳細に見せて貰うわよ」

「ああ、構わない。他にもあるからそれも見せよう。納得するまで見てくれ。そうだ、ベドール商会とケリが着くまでここにいないと不味いだろうから、俺達の部屋を用意してもらえるか?後ベドールはどれ位で動いてくるとみる?」

「そうね、早くて明日の夜、遅くても4日後位かしら。1週間かかることはないと思う。部屋の方もすぐに手配させるわ」

 短期決着は望む所なんで予想通りに行ってほしいものだ。

 ナイレヤ女史へ頷いてまだ見せていない書類も追加してテーブルの上に出した。

 全ての書類へナイレヤ女史が目を通すのを待って回収し用意してもらった部屋に入る。

 今夜は何もないだろうが一応順番に夜番へ立つことにして俺は先に眠らせてもらったんだが、深夜を過ぎた頃アグリスの警告で目が覚めた。


お読みいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ