#100 儲かった、海路 5
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海上をかなりの速さでザシルトは進んでくれ、あっという間にボボス村に着いた。
念話でバルバス達へ無事を報告し、特段気にせずアリス嬢の船へ横付けするといきなり近づいたザシルトに夜番が慌てて警戒の声を上げた。
すぐに俺が声をかけたんで大騒ぎにはならなかったが、下ろして貰った縄梯子を上ると寝ている所を起こされたんだろう、メリエラ女史を従え寝間着にガウンを羽織っただけのアリス嬢がかなり不機嫌なのを隠しもせず待ち受けていた。
「リクさん。無事に戻られたのは良かったです。でもこの騒ぎは何ですか?」
「あ〜悪かった。原因は俺の配慮不足だ。言い訳もさせて欲しいがその前に討伐の報告だな。魔物はきっちり掃討してきた。巣になってた洞窟も潰してきたんで魔物の心配はもういらない。で、その魔物の掃討中にこの護衛で使えそうな魔物がいてな、上手く服従させられたんで連れてきたんだ。俺が乗ってれば近づいても問題ないと思ってたんだが、夜で視界が悪くて単に魔物が襲ってきたと見張りには見えたんだろうな。配慮に欠けて申し訳ない」
最後に一礼すると一つ息を吐いてアリス嬢は不機嫌な顔を引っ込めてくれた。
「分かりました。こちらの見張りの見落としもあったようですし、この騒ぎはこれで終わりにしましょう」
「そうしてくれると助かる。そうだ、ついでに教えてくれないか水の補給はどうなったんだ?」
「問題なく夕方までに終わりました。リクさん達も無事戻ってこられましたし、予定通り日が明けたらここを立ちます。朝までの警戒は引き続きこちらでやりますから、出発まで短いですがゆっくり休んでください」
「分かった。そうさせてもらう」
頷き返してくれたアリス嬢がメリエラ女史を連れて引き上げていくのを見送り、当直の見張り達にもきちんと詫びを入れて俺達も船室へ向かった。
ザシルトには念話を使い船の周りの海底で休むよう指示する。
奴隷の見張りの夜番をしていたアデルファへ朝になったら起こしてくれるよう頼んで俺も船室のベットで横になった。
頼んでいた通りアデルファに声をかけてもらい目を覚ますと幾つもの気配が慌ただしく船内を動いていて、出港の準備はもう始まっているみたいだ。
護衛として雇われている訳だし地形の記憶も続けたいんで甲板に出て出港を見届けよう。
それに昨日瘴気泉の確保から戻ってくる途中でボボス村の若者と揉めたんでまだ文句を言ってくるようなら俺が対応するべきだしな。
昨日は寝るのが遅かったティータとティーエはそのまま寝かせてやり、俺は身支度を整えて船室を出た。
甲板に上がると船長の指示で水夫達が出港の最終確認をしていて、メリエラ女史を連れたアリス嬢も準備を監督していた。
邪魔にならないようその様子を見ていたが問題なく準備は進んで行き、一応気に掛けていたボボス村からの苦情はなく、船長の指示で帆を拡げ船は動き出した。
続けて船長が声を飛ばして帆の開きを調整し速度を上げながら船はボボス村から離れていく。
ザシルトが無理せずあいつにとっては遅い船のスピードに合わせて1日中泳げるのかちょっと心配だったが、船の引き波に乗って楽々ついてきた。
あんまり楽なんで暇を持て余したザシルトが船に近づく魔物の排除を自主的にやってくれ、海底の地形はほとんど意識せずに覚えられるようになった俺が今度は暇になった。
そんな風に単発で襲ってくる魔物を返り討ちにする以外は特に問題なく2日ほど航海は進み、日が暮れ始めて船は帆をたたみ停泊の準備に入っている。
船から見える半島の地形から判断して、明日にはあの奴隷商や海賊を仕留めた入り江のすぐ沖を通りそうだ。
本来なら船の回収は何所の海岸でも良かったんだがすぐ傍に地脈への干渉地がないと不味いんで、船を楔の格納領域へしまえたあの入り江の砂浜をまた使うつもりだ。
という訳で適当な理由をつけて船を離れ、夜の内にあの砂浜へ仕舞ってある船を出しに行こう。
こっそり出ればバレない気もするが、念のためアリス嬢へ声をかけておくか。
丁度甲板で停泊の準備を監督するアリス嬢がいたんで声をかけた。
「アリスさん、今ちょっといいか?」
「はい、大丈夫ですが、何の御用でしょう」
「明日には出港前に話した船がうち上げられた砂浜のある入り江が見えてくるよな。それでこれから船を離れて先にその船の様子を見てこようと思う。勿論俺達全員で行くわけじゃない。俺が一人でザシルトに乗って行ってくるから、許可をくれないか?」
俺の話はアリス嬢にとっては突飛なものだったようで怪訝な表情になった。
「リクさんがあの海蛇に乗って行くなら危険はないんでしょうが、先行する理由は何ですか?」
「一番の理由は偵察だ。俺達が最後に船を見た時は砂浜にうち上がってたからな、変な奴らや魔物が住みついてないか調べて、もし居たら先に掃除もしておきたい。あと俺の目で見てもう船がダメそうなら戻ってきて報告するから、件の入り江を素通りしてくれて構わない。航海を少しでも短縮できるんならそっちにとっても都合がいいだろ?」
ここまで話すとアリス嬢も納得してくれたようで怪訝な表情を引っ込めてくれた。
「拒否する理由がありませね。許可しますが十分気をつけてください」
「ああ、分かってる」
アリス嬢へしっかり頷いて背を向けた。
仲間達には本当の所を念話で話して甲板から飛び降りる。
海上に出て待っていてくれたザシルトの頭の上に着地して、転げ落ちないよう頭の突起の一つを掴むとザシルトは全力で泳ぎ出してくれた。
この2日暇で貯まった鬱憤を晴らすようにザシルトは快速で飛ばしてくれ、完全に日が沈んだ頃にはもう目的の砂浜に到着した。
辺りはもう真っ暗だし船からこの砂浜は見えていないんで、さくさく用事を済ませていこう。
念のためザシルトには周囲を警戒してもらい、俺は新しい楔を作って干渉地に差し込んだ。
楔の格納領域から特大の物を取り出すにはポイントが必要なんで、先日の魔物掃討の時に体に貯まった分を使う。
もし横倒しになってもお互いを傷付けないよう少し距離を取って2隻の船を砂浜へ取り出し、これでやっておく用事は済んだ。
一応楔を回収する前にこの護衛へ連れてきていない仲間たちの所へ転移で様子を見に行ってみたが、特に問題は起こっていないみたいだった。
楔を回収して少し仮眠を取り、問題ないと思うが格納領域へ仕舞いっ放しだったんでおかしなものがないか船の中を確認しておく。
不味い物は特になかったが船2隻分の中を見て回るには結構時間が掛かって、そうしている内に夜が明けお昼前になる頃にはアリス嬢の船が入り江に入ってきた。
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