#10 強者と出会った、山頂溶岩湖 4
改めて眷属たちの様子を一体ずつ確認してみると、皆大きな傷は無いようでガディの切り飛ばさせた両腕も元に戻っている。
精霊たちの姿が無いので心配したが、魔力切れで分体が消滅しただけで本体はきちんと体の中に感じられた。
眷属たちも安堵の感情を伝えて来て、
(お体に異常はありませんかな、主よ)
そう頭に響いた抑揚のある話声に多少驚いたが、不思議と誰がその声を送って来たかは分かった。
「おまえ、か?」
それでも確認のためフレイムファントムに問いかけると、頭部をゆっくり動かして頷いてくれ礼を取ってくれる。
(この身が再び朽ちるまで、主の手足となって働かせて頂きますぞ。なにとぞよろしくお願いしますぞ。)
「ああ、頼りにさせて貰う。早速だけど一つ聞きたい。この念話みたいなの、他の眷属たちにも教えてやれるか?」
(恐らく可能でしょうな、この念話は人であった頃、余人に悟られずパーティー内での意思疎通を可能にするため覚えたものでしてな。修練を重ねれば誰でも覚えられたので、眷属の皆でも習得は出来ましょう。)
「今の話、一つ聞き捨てに出来ない部分があった。・・・人間、だったのか?」
(はい、わたしはそう記憶しておりますな。)
どんな事を記憶しているか、聞き取りをした方が良さそうだ。
長い話になるだろうから、フレイムファントムに正対して座り直した。
「覚えている事を、話してくれるか?」
(御意)
所々曖昧だったり覚えていないのか若いころの事は話してくれなかったが、どうしてこの山を訪れ竜種の遺体の前で死ぬ事になったのか、順を追って話してくれる。
こいつは晩年になってこの世界にも在る教会から、卓越した槍術を認められて勇者に指名されたそうだ。
そして教会から命じられた最初の任務が、ここにすくう邪竜の討伐任務らしい。
教会傘下の聖騎士団から有志を募って討伐部隊を組織し、この火山まで遠征したそうだ。
何とか邪竜の巣を火口湖の畔に見付け、どうしてか分からないそうだが既に深手を負っていた邪竜を味方に犠牲は出たがどうにか仕留めた所で、予想外の事態にあったそうだ。
後方で退路を確保していた筈の騎士の一人が突然襲い掛かって来て、竜から受けた深手のせいで後れを取り致命傷を受けてその場に倒れた。
だが暫く意識はあったようで、裏切った騎士は竜の遺体から鱗や爪を剥がそうと苦心するが結局無駄に終わり、こいつが戦闘中に斬り飛ばした鱗を数枚持って忌々しげに去って行き、そこで記憶が途切れるようだ。
後は自身に流れ込んでくる瘴気によって目覚めて衝動のまま俺達に襲い掛かり、俺の眷属になって正気を取り戻したと話してくれた。
邪竜の遺体を隠すように張られていた結界の事を聞いてみたが、意識がなかったそうで分からないと答えてくれた。
「そうか、自ら指名した勇者を裏切って殺すのか、この世界の教会にも闇はあるって事だな。それにしても元は槍の勇者だったのか、どうりで普通のフレイムファントムの体であれほどの槍撃を放てる訳だ。」
(主よ、戦っていた時の記憶は曖昧ですが、それでもあんなものを槍撃と呼ばれるのは、心外ですぞ。少し時間をくだされ。この体を鍛え上げ、本当の槍術というものを必ずお見せしましょう。)
「あの槍捌きをあんなもの呼ばわりなのか。お前の本気の槍術、どんだけすごいんだよ。」
決意を新たにするフレイムファントムに、俺は多少呆気にとられるが同時に今更な事に気付いた。
「そう言えば、名前、まだ聞いてないよな。人だった頃の名前を憶えているか?」
(バルバス、と名乗っておりました。)
「その名前これからも使いたいか?」
(出来れば。)
「なら決まりだ、これからお前の事は、バルバスって呼ぶ事にする。みんなもいいな。」
俺やバルバスの周りを囲んで話を聞いていた眷属が同意の感情を送ってくれ、バルバスも深く一礼してくれる。
(ありがとうございます、主よ。そこで僭越なのですが、主のお名前もお教え願えませんかな。)
「ああ、そういえば、みんな喋れないから名乗った事無かったな。俺の事は、・・・リク、リクって呼んでくれ。」
(リク様ですな。承りました。)
そう言ってバルバスはもう一度一礼してくれ、他の眷属たちも礼を取ってくれたり、了解の感情を送ってくれた。
「バルバス、これは一緒に暮らしていく上で必要だと思うから確認するんだが、教会に復讐したいか?」
(その感情は余りありませんな。ただどうしてわたしにあのような仕打ちをしたのかは、知りたいですな。)
「そっか、実は暫くはこの辺りに引き籠って力を蓄える事に専念するつもりなんだ。バルバスが知りたい事を調べるのは、ずっと後になると思う、すまないな。」
(なに、気にする事はありませんぞ。リク様。先程も申し上げたように、まずこの体を鍛え上げねばなりませんからな。)
バルバスはこう言ってるが今の体はフレイムファントムなんだから、融合昇華を試してみるのもいいと思う。
フレイムジェルマジシャンだと槍の扱いには向かないから、マジックマグマアーマーの方がいいと思うが、今ポイントがあるだろうか。
確認するため地脈炉を起動し楔と接続してみると、1000ポイント以上楔に溜まっていた。
流石に1日で貯まる量ではないので、何かあったのだろうか。
「バルバス、俺が倒れてる間に、何かあったか?」
(特にこれといったものは、無いですな。ただ1日を過ぎたあたりから周りの魔物の数が増えてきましてな、リク様のお休みの邪魔をさせない為に昨日と今日、皆で交替しながら魔物掃除はしましたな。)
気を失ってから3日たっていたのは驚きだが、それなら楔に1000以上ポイントが溜まっていてもおかしくはなさそうだ。
「分かった。それでこれはバルバスに提案なんだが、今の体をガディのような体に変化出来るとしたら、やってみたいか?」
俺の問いかけにバルバスは一瞬動きが止まり、ガディの方を見るような仕草をした後また俺の方へ向き直った。
(本当に可能なら、お願い出来ますかな。)
「よし、早速やってみよう。」
楔との接続は構築してあるので地脈炉と眷属創操に意識を集め、作り出せる眷属のリストを呼び出す。
フレイムファントムのバルバスをマジックマグマアーマーにするため、足りない魔物のマグマゴーレムとマグマスライムを一緒に選択すると、リスト内で融合昇華が起こりマグマアーマーという選択肢が増えた。
思いがけず未知の能力を発見したので有り難く利用させて貰い、300ポイント程を消費してマグマアーマーを創造する。
背後に作った2m強のマグマで出来た全身鎧とバルバスの融合を始め、ごっそり魔力を持って行かれるとバルバスが全身鎧へ吸い込まれるように消えて変化が始まる。
外見にそれほど変化は起こらなかったが全長はガディより頭一つ高くなり、変化が終わると手や足を動かして体の具合を確かめ始めた。
一通り全身を動かし確認が終わるとバルバスは徐にかしずいてくれた。
(リク様。これほど体を頂き感謝しますぞ。)
「そんなにかしこまらなくていいよ。バルバスが強くなればその分俺の得になるんだから。」
(そう仰って頂けるなら、実はさらにお役に立つためお許し頂きたい事があるのです。ついてきて頂けますかな?)
俺が頷くとバルバスは立ち上がり、先導をするように俺に背中を向けて歩き始めた。
お読み頂き有難う御座います。
これ以降は毎週土曜の夜の投稿になります。
お付き合い頂ければ幸いです。




