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21話 討伐会議:ゴブリンジェネラル以上

 翌日の早朝のこと。俺はエミィの付き添いでギルドに訪れていた。


「家をゴブリンに襲われたわ。ジェネラル以上が発生してる可能性がある。調査して欲しいのだけれど」


「……えっと」


 受付嬢はエミィをみて、微妙な顔で首を傾げた。エミィはそれにむっとして「だから!」と強行しようとする。


 俺は見てられなくて、「俺のツレだ。個人依頼と言うより、注意喚起と報告って感じになる」と補足する。


「あ、エクス君! ……え、じゃあ今のって」


「本当のことだ。状況によっては領主に報告して村民全員避難対応とかもありうる話になってくる」


「……―――! あ、えっと、ギルドマスター連れてくるね!」


 慌てて受付嬢は奥へと引っ込んでいった。こんな支部でもギルマスが居るんだなぁと見守っていると、奥から爺様が出てきた。


 そう、俺たちに家を貸してくれたあの爺様だ。


「おぉ、エクスにお嬢さん。二人揃ってどうしたね。セプティが慌てていたが」


 セプティ、と言われて、俺はああ、受付嬢の名前だ、と思い出した。幼馴染の一人ではあったが、そこまで近しい間柄じゃなくて忘れてたのだ。


 というか、これアレか? 爺様、ギルマスも兼任してんのか? 村の権力者じゃん。


 と、おれのそんな呑気な考えをスルーして、エミィが強い口調で言った。


「ゴブリンジェネラル以上が発生してるわ。討伐帯の編成か、避難を要請したいのだけれど、ひとまず話を聞いてくれる?」






 俺たちは場所を移して、ソファに並んで座っていた。


 俺とエミィが並んで座り、向かいでは爺様と受付嬢のセプティが座っている。


「……で、ゴブリンジェネラル以上という話だったが」


 早速本題に入る爺様だが、その表情は厳しい。


「まず、儂はそれを信じたくない、と感じている。それが真実だったとき、下手をすれば早晩この村、リボーヴィレが壊滅しかねず、かつ対策を取るにも非常に労力がかかるからだ」


「爺様正直だなぁ~」


「誠実ね。気持ちはわかるわ。だから、ゴブリンの棍棒を持ってきた」


 エミィは机の上に、昨日回収したゴブリンの棍棒を取り出した。


「……一見普通のゴブリンの棍棒に見えるが」


「そうね。それが肝なのよ。でも、一度持ってみれば分かるわ」


 爺様は、疑わしい表情で棍棒を持つ。そして、目を剥いた。


「これは……! 中に、鉄が入っておるのか!」


「そうよ。しかも先端になるほど鉄の量が増える。つまりこれは、棍棒に見せかけたメイス。メイスを作れるゴブリン、というだけでも相当なのに、それを棍棒に見せかける知能もある」


 エミィの説明に、俺は補足する。


「ジェネラル、将軍相当のゴブリンリーダーなら、槍を持たせる。これよりも強いからな。でもこれは強化しておきながらそれを隠してる。先遣隊をフル活用できる知性がある訳だ」


「……ジェネラルでも相当に頭がいいか。あるいはキングやエンペラーの可能性がある、ということだな」


「何ならロードでも不思議じゃないぜ」


「エクス、お前人があえて言わなかったことを……」


 爺様に睨まれ、俺は半笑いで肩を竦める。爺様はため息を吐き、言った。


「分かった、信じよう。だが、対策を打つのも一筋縄ではいかぬのは分かってくれるな?」


「ええ、分かるわ。避難するにもこの村はそこそこ人口がある。ゴブリンジェネラルの討伐には銀等級の冒険者が五人、キングなら十人、エンペラーなら十五人必要だもの」


「ロードなら、銀等級では通じなくなってくるしな……。だが、金等級を雇うほどの金を、村から捻出するのは難しい」


 エミィと爺様が唸っている。受付嬢のセプティは丸い目で俺を見ている。いや、俺が動いてもいいんだけど、あんまり金等級も持ってるの知られたくないんだよ。最終手段だ。


「領主さまに報告して、領兵を遣わしてもらうのはどうだ?」


 なので俺は対案を出して、どうにかならないかなぁと画策してみる。


 エミィは「良いじゃないそれ! そもそもこのレベルのゴブリンって災害みたいなものだし、領主の管轄よね」と好感触だ。


 しかし爺様は、渋面を保つ。


「エクス、それは悪い案じゃない」


「にしては苦い顔だが」


「悪い案じゃないから、唸ってるんだ。時間があればそれで良かった」


 それは、逆説的に俺たちに時間がないことを現している。俺は納得して口を開いた。


「ああ、そうか。領主様を口説き落とすのにも、ゴブリン掃討するための派兵にも、時間がかかるってことか」


「そうだ。ひとまず村長にも領主様にも伝えるべき事柄ではあるだろう。村から基本金を絞り出して、その上で住民から金を集め、冒険者を雇えばいい。が、それも時間がかかる」


「一日では終わらないわね、それは。しかも金等級の冒険者なんて、近くの都市でもいるかどうかだし」


 そんなものなのだ、金等級の冒険者というのは。俺だって以前まで居たのは王都である。王都や、外国に対抗する辺境伯領。そういう金と力が渦巻く場所にしか、金等級はいない。


 となると、困った話になってくる。領主の力を頼るにも、強い冒険者の力を頼るにも、時間がかかる。そして俺たちには、何よりも時間がない。


 最悪時間を稼げればいいというのなら、村を要塞化して敵襲の一波、二波を防げば領兵も到着しようというものだが、それだと恐らく人死にが出る。


 ならば選択肢はない。俺が出るべきだろう。なのだが、やはり嫌だなぁというのが正直な気持ちだ。


 というのも、金等級というのは、しがらみの多い等級なのだ。


 実際、俺は白金等級の冒険者だが、持っていない以上金等級として扱われる。だが金等級の冒険者が、こんな片田舎でゆっくりしているなんて、基本的に許されることではない。


 まずギルドの国ごとにある大きい支部から「王都か辺境伯領か、どっちかに移動しろ」と通達が来る。今回のような非常事態に対応させやすいからだ。


 拒否ったら? ギルドとの信頼関係の疑義を問われる。具体的には、金等級の冒険者が三人以上揃い踏みで俺に「ギルドの言うこと聞けや」と言いに来るのだ。


 そこで断ったら? もちろん戦闘である。あまりにも殺伐としている。


 まぁ今更金等級の冒険者なんていくらでもボコれるのだが、余波で村がよろしくないことになるのは確定的だ。そうなれば自然と俺は、この村を離れることになりかねない。


 なので、結構問題なのだ。


 ……爺様とか、エミィにも、受付嬢のセプティよろしく「秘密にしておいてね♡」と言うのは簡単だ。実際秘密にもしてくれるだろう。


 だが、ゴブリンジェネラル以上の討伐は記録を免れない。ギルドで隠蔽しても、領主側で記録される。領主に知られないようにしようにも、俺の戦いぶりはどこかから漏れる。


 そこから間違いなく、俺の存在が露呈することになるだろう。俺は重いため息を吐く。


「マジでろくなことしねぇなバニッシュ……。次会ったらもっかい爆破してやる」


「エクス、どうかしたか」


 爺様は「こんな事があって、お前も心労を抱えていることだろう。だが、頑張って乗り越えるぞ」と励ましてくれる。


 こんな状況になっても、セプティは黙したまま、俺の秘密を言わないでくれている。


 最後に。


「エクス。安心して、とは言えないけど、防衛戦をするなら私も頑張るわ。私も、多少は魔法使えるし、ね」


 はにかんで、エミィが俺にそう語りかけた。俺は重く重くため息を吐いて、頭を掻く。


 そう。最初から選択肢なんてないのだ。ここは、俺の故郷なのだから。


 俺は胸元から冒険者証を取り出して、机の上に落とす。


 すなわち、銅の弓の冒険者証と、金の剣の冒険者証を。


「「「―――――っ」」」


 俺以外の三人が、同時に息をのんだ。俺は渋い顔をしながら言う。


「今の生活、気に入ってるからさ。なるべく力を隠しておきたかったんだけどな。故郷には、代えられねぇよ」


「エクス、あなた、やっぱり」


「エクス、お前……」


「……エクス君なら、そうするだろうなって、思ったよ」


 三人が俺を見る。いつまでこの生活を続けられるか。白金の冒険者証、再発行できればよかったんだがな、と俺は肩を竦め、三人に告げた。


「ま、ゴブリンに関しては安心してくれよ。俺が適当に、どうにかしておく」

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