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18話 爆発式釣り

 俺はノエルに連れられて、山を登っていた。


「なぁノエル、『爆発させてもいい釣り場に連れてく』って言ってたけど、どんな場所なんだ?」


「ついてのお楽しみ。じゅるり」


 という事らしい。よだれを拭う様子から見るに、よほどうまいのか。何だか俺もワクワクしてくる。


 草木をかき分けながら、狭い獣道を進む。険しい道だ。しかし山を歩きなれているのか、ノエルはひょいひょいと登っていく。


 そうしてしばらく山を登ると、ノエルは「ここ」と言った。


「ほぉー、ここ……か……?」


 俺は到着の知らせに声を上げ、段々と言葉尻を落とした。


 ノエルに尋ねる。


「ここ、何?」


「底なし沼」


「沼じゃん」


 沼だった。底なし沼。傍から見ると浅い水たまりのように見えるが、近くにあったその辺の棒で突いてみると、驚くほど深い。


 引き抜こうとすると、枝が重い。俺は面倒になってそのまま手放すと、つぷつぷとその場に枝が飲み込まれていった。


 にしたって、生物の気配を感じない。うっすらとした水と、泥と、静寂ばかりがある。周囲の木々の静けさもあって、何だか世界に俺たち二人みたいな気がしてくる。


「……ここに魚が?」


 俺が疑わしいという顔で聞くと、ノエルは頷いた。


「いる。昔お父さんに教えてもらった。釣ってるのも見た」


「どうやって釣んの?」


「まず魔法で魚を殺す」


 初手バトルだった。


「……そんな危険な魚がいんの?」


「いる。お父さんも魔法を覚えるまではここに一人で来るのはダメって言ってた」


「えぇ……。でも好き勝手やったらここの魚全滅させちゃわないか?」


「大丈夫。ここに出る魚は全部危険種。殺していい。ってお父さん言ってた」


 危険種の魚、ねぇ。確かにモンスターなら、どうせどこからともなくから湧くし、いくらでも絶滅させていいとギルドの説明にあったが。


「だからエクスのドカーンが必要。早く。ドカーン早く」


「待て待て待て」


 俺の服を掴んでぴょんぴょんするノエルを抑えつつ、俺は底なし沼に近づく。しゃがみ込み、じっと見下ろす。


「なぁノエル。まず俺は、ここに魚が生息してるって言うことが信じられないんだが」


「危ない」


「は? ―――ッ」


 直後俺は殺気を感じて、咄嗟に身を引いた。すると俺のしゃがみ込んでいた場所から、強烈な放電が走った。ベテランでも直撃すれば死ぬような一撃だ。


 見れば、泥の水面から僅かに魚らしきヒレが覗く。だがすぐにとぷん……と沈み、見えなくなった。


 うわ、マジかよ。何だそれ。


「ということで、今回の狙いは、底なし沼のデンキナマズ」


「ハハ、なるほどね。まんまモンスターじゃんかよ」


 しかし、なるほど。確かに魚は生息しているらしい。ならば挑み甲斐もあるという訳だ。


 俺は腕を組み、さて、と思う。それから「そう言えばノエル、魔法って何だった?」と問いかける。


「? 風属性」


「ははぁ。ノエル、お前らしいのを引いたな。風属性は狩りに向いてる。弓矢は百発百中。獣の場所も瞬時に発見。風の刃で戦闘もこなせるオールラウンダーだぞ」


「! 狩りに向いてるの、嬉しい」


「良かったな。爆発魔法なんていう殺し合いにしか使えない魔法引くより、よほどいい。初魔法は何だ?」


「えっと、サーチウィンド」


「なら風で周囲の物の場所が分かる魔法か。仲間にも一時期そういう風魔法使いがいたが、やりやすかったなぁ」


 アイツにも追放されたんだよな。「エクス、お前の実力は分かっているが、お前は獲物をぐちゃぐちゃにしてしまう」って。本当に向いてないのだ、狩りは。


 だから、ちょっと不安だった。考えなしに爆破しても、先ほどの魚もろとも爆破してしまいかねない。いくらか考えて爆発させる必要がある。


 そう、爆発魔法には知性が要求されるのだ。


 俺はムムムと考え込む。ノエルは俺を見て「カッコつけて考えるの、おバカに見える」と言うがそんなことは気にしない。


 必要なのは、ダメージを魚の許容範囲内に収めることだ。気絶はするが死にはしない、という領域に収めること。爆発魔法は威力ばかりデカいので、逆にそれが難しい。


 となると、直撃させるのはなしだ。まず間違いなく全てが無に帰す。何ならこの沼ごと消滅する。


 となれば、上空爆破、と思ったが、ノエルが居るので自重する。師匠が弟子を殺すのはなしだ。というか、弟子を取ったのこれが初めてか、ともちょっと思う。初弟子。


「? 早くドカーンして?」


「小生意気な弟子め」


「?」


 俺がぐりぐり頭を撫でると、ノエルは抵抗もせずにされるがままだ。でもちょっとだけ嬉しそうに頬を緩めている。可愛いなこいつ。


 ならば、マンドラゴラの時のように内側から、底の方から爆発せていくのがいいか。恐らくこれ以外に手はない。


 俺は底なし沼に向けて親指を立てる。見えないボタンを押し込んだ。


「エクスプロード・ミニ」


 ボンッ、という音が、地上に立っていても聞こえた。地面が僅かに揺れる。ノエルが目を丸くして俺を見る。


「い、今、ドカーンした?」


「した。さて……どうなるか」


 俺は様子を見守る。かなり奥で爆発させたが。


 と思ったら、沼から思いっきり跳ねて出てきた魚がいた。先ほど放電してきた魚と同じ特徴。長いひげを持った、全長二メートルもありそうな巨大魚だ。


 それが、空中で一瞬、ピタと止まった。俺たちを睨みつけている。やる気だな?


「~~~~~~~~!」


 巨大デンキナマズは声にならない叫びを上げて、強力な放電を放った。うおおお強い。強いぞこれ。魔法覚えたての鉄等級では到底かなわないくらい強そうだ。


 だが俺の前では敵ではない。俺はボタンを押し込んで唱える。


「エクスプロード・ミニマム」


 放電中でも構わず、俺の小爆発がナマズに突き刺さった。ナマズは放電をやめて吹っ飛ぶ。しかし捕まえるぞ、と近づこうとすると、身を翻して沼に潜ってしまった。


「くっ、頭がいいな。何だアイツ、この辺りの主か?」


「この周辺の沼は魔境。あの程度では主を名乗れない」


「何だと……! ワクワクさせてくれるじゃねぇか」


 生け捕りと言うのがいい具合に俺にとって枷になっていて、考える余地があって面白い。


「どうする。もう一度仕掛けるか」


 俺はノエルに尋ねる。しかし、ノエルは首を振った。


「その必要はない。向こうもこっちを見た。そしてエクスがドカーンした。だから、向こうは是が非でもわたしたちを殺そうとしてくる」


「殺意の高さは流石モンスターだな」


「だから、さっそく使う。―――サーチウィンド」


 唱えたノエルの指先に、小さな風の渦が出来た。それは柔らかに広がっていき、見えなくなる。ノエルはしばらく無言で目を瞑り、そして背後に振り向き指をさした。


「あっち!」


 俺も振り返る。すると別の沼から飛び出してきたらしい先ほどのデンキナマズが、俺たちに飛び掛かってくるところだった。俺はニヤリ笑って言う。


「ノエル、お前冒険者の才能あるぜ。エクスプロード・ミニマム。シーケンシャル」


 ナマズは一撃で死なないことは分かっている。だから俺は飛び掛かりながら放電を始めようとするナマズに、連続で爆発を当てた。


 四方八方からナマズは爆撃を受けて、放電どころではなくなって空中で無力にお手玉にされる。俺はその手応えを確認して、「もういいだろ」と最後の一発をくれてやることにした。


 ドンッと爆発を受け、デンキナマズが俺の腕に納まる。ズシリと重かったが、俺も頑丈さには自信がある。しっかりと受け止めると、ナマズは完全に伸びていた。


「えーっと、殺さない方がいいんだよな? 綺麗な場所以外は泥抜きとか何とか言ってたし」


「! エクスすごい。よく覚えてた」


 ノエルは珍しく満面の笑みでナマズを見下ろす。俺はノエルと顔を見合わせて、手を掲げた。


 ハイタッチの音が、静かな山に響き渡る。

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