05:とんでもない夢(4)
しばらくして、千聖くんが戻ってきた。
「お帰り」
「ただいま。やっぱり事故が起きたんだな」
千聖くんはちらっと事故現場を見た。
項垂れている運転手さんの周りには二人の大人がいて、大丈夫ですかと声をかけている。
「うん。でも、見た感じ、運転手さんは怪我はしてないみたいだよ。園田さんたちは?」
「コンビニの前で別れた。愛理が夢で見たルートとは違うルートで学校に向かったんだろ。みんな無事で良かったな」
千聖くんは微笑んだ。
「うん。千聖くんのおかげだよ。私じゃ道案内してもらって遠ざける、なんて思いつかないもん。やっぱり千聖くんは頭いいねえ。テストもいっつも満点だし」
「まあ、確かにおれは半分以下の点数なんて取ったことないな。どこかの誰かと違って」
千聖くんは意地悪そうに笑った。
「…………」
どこかの誰か。
それは私のことだ。
この前の算数のテスト、45点だったもんな。
「ところで、朝ごはんは食べた?」
「ううん、まだ」
「おれもパン食べてる途中だった。コンビニでおにぎりでも買って食べていく? あそこ、イートインスペースあるし」
「え、でも、登下校中にコンビニに寄ったらダメなんだよ?」
「馬鹿だなー、校則は破るためにあるんだよ」
「嘘だ! 破ったら先生に怒られるよ!?」
「人助けしたんだからいいじゃん、今日くらい」
「それも嘘だ! 下校中にコンビニでアイス買って食べてたって優夜くんが言ってたもん!」
「ちっ。あいつ、チクりやがったな」
「うわあ……学校じゃみんなの憧れ、素敵な爽やか王子様なのに……実はこんなに口が悪くて平気で校則を破るような人だって知ったら、みんなゲンメツするだろうなあ……」
「うるせーな、心配しなくてもおれの演技は完璧だ。おれが素を出すのは家族と愛理だけだよ」
「ふーん……」
なんだか特別みたいで嬉しくて、ついニヤニヤしてしまう。
幼馴染の特権ってやつだよね、これって。
「で、愛理はお腹減ってないのか? 昼まで我慢できるならこのまま学校行くけど、どうする?」
「…………。実はすごく減ってる」
全力疾走したせいで、きゅう、とお腹の虫が鳴いている。
「やっぱり減ってんじゃん」
千聖くんは小さく笑って、コンビニに向かって歩き出した。
朝の風に吹かれて、彼の茶色の髪がふわふわ揺れている。
羨ましいくらいに彼の髪はサラサラで、ツヤツヤ。
私の髪とは大違い。
私を生んですぐに亡くなったお母さん譲りの私の髪はひどい癖っ毛だ。
今日は寝起きそのままな上に、かなりの距離を走ったから、大爆発してる……。
すれ違った綺麗な女の人に、「まあ、すごい頭」みたいに笑われて、私は急に恥ずかしくなった。
少し遅れて歩いていると、千聖くんが立ち止まって振り返った。
「なんでそんな後ろにいるんだよ」
「だって……私の頭、今日は櫛も通してないから、爆発してるし……」
私は友達から「美人」とか「可愛い」とか言われたことないけど、千聖くんは人形みたいに綺麗な顔をしていて、いろんな人から褒められまくっている。
クラスの女子も、他のクラスの女子も、みんな千聖くんのファンだ。




