02:とんでもない夢(1)
駅の西側にある『ひまわり公園』の近くの道を、ランドセルを背負った女の子二人が歩いている。
パステルピンクのランドセルを背負い、黒髪をポニーテイルにした女の子は去年私と同じ5年1組だった園田さんだ。
パステルブルーのランドセルを背負い、イチゴの髪飾りをつけて、園田さんと一緒に歩いているのは2年生の妹のここねちゃん。
園田さんたちの周りには中学生や黒いスーツを着たサラリーマンがいる。
多分、これは登校中の風景なのだろう。
園田さんたちは『ひまわり公園』を通り過ぎ、横断歩道の前で足を止めた。
信号待ちをしている間、園田さんたちは姉妹で楽しそうにお喋りしていた。
そこに、突然、白い軽自動車が突っ込んできた。
――危ない!
叫びたくても声は出ない。
これは夢だ。
だから、私にできることは、ただ見ているだけ。
姉妹のうち、迫り来る自動車に気づいたのは園田さんのほうが先だった。
お喋りに夢中のここねちゃんが音に気付いて振り返るよりも早く、園田さんはここねちゃんを思いっきり突き飛ばした。
そして、園田さんは突っ込んできた車にはね飛ばされて――
――そこで私は飛び起きた。
とんでもない夢を見てしまったせいで、心臓がものすごくうるさい。
花柄のパジャマは汗で濡れていて、身体はぶるぶる震えている。
どうしよう、どうすれば――そうだ、千聖くんに電話!!
嫌な夢を見たらとにかく電話しろって言われてるんだった!!
私は枕元で充電中のスマホを手に取った。
4年生になってクラブ活動が始まってから、お父さんが連絡用にと買ってくれたスマホ。
とっくに充電が終わっているスマホからケーブルを引っこ抜き、千聖くんに電話をかける。
千聖くん、起きてるかな。
まだ寝てたらどうしよう。
ハラハラしながら待っていると、千聖くんが電話に出てくれた。
『もしもし? どうしたんだよ、こんな朝から』
起きてはいたらしく、千聖くんの声はしっかりしていた。
『また予知夢でも見たのか?』
予知夢。千聖くんは私が見る未来の夢をそう呼ぶ。
『夢の中で見たことが本当に起きること』を予知夢っていうんだって。
「うん、『ひまわり公園』の近くの横断歩道で事故が起きるの!! 園田さんわかるよね!? 去年私たちと同じクラスだった園田さん!!」
『うん、わかる。わかるから落ち着け。耳が痛い』
私が叫んでいるせいで耳がキーンってなったのかもしれない。
反省して、私はちょっとだけ声を小さくした。
「園田さんと妹のここねちゃんが信号待ちしてて、そこに車が突っ込んでくるの! 園田さんがここねちゃんを庇って車に轢かれちゃう!」
『いつ?』
「朝! 今日かもしれない!」
私は半泣きで言った。
これまでの経験からして、私が見た予知夢は三日以内に必ず現実になる。
だから、さっきの夢がただの夢ではなく、予知夢だったのなら。
今日か明日か明後日の朝、園田さんは事故に遭う。
『なら急がないとまずいな。おれも急いで家を出るから、玄関前に集合な』
「うんっ!」
私は電話を切ってベッドから飛び下りた。
カーテンが閉め切られた薄暗い部屋の中で服を着替える。
脱いだパジャマをベッドの上に放り投げ、シャツを着て、その上にパーカーを羽織ってズボンを履いた。
机の横のフックに引っ掛けていたランドセルを背負い、ドタドタと足音を立ててリビングへ行く。
リビングの棚には亡くなったお母さんの写真が飾られている。
端っこに置かれたテレビからは明るい音楽が流れ、天気予報が表示されていた。
4月18日、今日の天気は晴れ。
でも、酷い夢を見てしまった私の心の中はちっとも晴れじゃない。
晴れどころか土砂降り、今年最大の台風が吹き荒れている。
「おとーさんごめん、予知夢を見たの! 朝ごはんは帰ってから食べるから冷蔵庫に入れといてっ!!」
エプロン姿でキッチンに立っているお父さんに叫ぶ。
それから、私は玄関に突撃した。
「えっ!? 待って愛理、朝ごはんを食べる暇くらい――」
「ないっ!!」
キッチンから出てきたお父さんにきっぱり言い返して、スニーカーに足を突っ込む。
急がないと友達が車にはねられちゃうかもしれないの、なんて言えない。
言ったら、そんな危険な場所に行かせるわけにはいかないって、お父さんは私を止めるに決まってる。




