49 メニルと姉
放置すれば、ガウたちが人質に取られる可能性もある。
「おい! よそ見とは良い度胸だ!」
大声で叫んで、男の意識を俺に向けてから、
「楽しみたいが、残念ながら遊んでいる時間は無い」
魔法の鞄から剣を追加で十本取り出した。
「錬金術師は剣をこう使う」
【形状変化】で、剣を一振りあたり五百の細かい刃に分割し、【物質移動】で宙を舞わせる。
十振りの剣から産み出される五千の細かい刃が男を斬り刻む。
剣術や体術では、まるで舞う塵が如き刃を防ぐ術はない。
「くそが!」
男は火炎魔法で焼き尽くそうとするが、金属は燃えない。融けるだけだ。
だが、細かい刃が融けることは、物質の三態を操作する【形態変化】を使って俺が許さない。
たまらず男は風魔法で剣を吹き飛ばそうとするが、俺の【物質移動】による物体掌握能力の方が強い。
「うがああああぁ!」
男の全身が斬り刻まれていく。血が吹き出て、肉片が飛び散る。
「りゃああああ」
それをみて悲しそうにリアが鳴く。
「恨みはないが、時間もない。そのまま死ね」
生きたまま捕えて尋問して情報を得たい。
だが、王や尚書は、今も毒で弱り続けている。
もしかしたら、救出に向かったメニルとガウが窮地に陥っているかもしれない。
尋問する時間が無いのだ。
俺が男にとどめを刺すため、細かい刃をまとめて首を落とそうとした、まさにそのとき、
「りゃあああ!」
俺の襟元から顔だけ出していたリアが叫んだ。
同時に、全身が熱くなるほど、リアの魔力が活性化したと思うと、リアは口から魔力弾を吐き出した。
「なに?」
その魔力弾は血だらけで転がる男を目がけて高速で飛んでいく。
いや、魔力弾ではない。
ドミニクと戦ったときに、リアが吐いたものと同じだ。
姿隠しの魔道具の効果を打ち消した、あの謎の弾である。
そのリアの吐いた弾は男の心臓あたりに直撃する。
「グウァァァァァ……あああぁぁぁぁぁ」
男は叫ぶ。だが、その声が徐々に高く変わっていく。
叫び声が響く中。
――ダン――――ダン
と二回にわたって、大きな破裂音が轟いた。
同時に男を覆っていた本当に透明な硝子の膜が割れたかのように見えた。
「いや、これは空気中に展開した魔法陣が割れたのか?」
大量の破片のようなものが、暴風と共に周囲に飛び散って消える。
「な、なぜ……、術が消えた?」
暴風が収まると、そこには血だらけで困惑する全裸の女がいた。
「お前、魔族か」
「くっ殺せ!」
「りゃあ~」
心配そうに鳴いたリアがパタパタ飛んで女に向かっていこうとする。
「リア、待て!」「来るなっ!」
俺の声と焦った女の声が重なり、リアがびくりとして止まる。
止まったリアを見て、女はほっと息を吐き、同時に血を吐いた。
その直後に
「あ、姉上?」
ガウと一緒にこちらに向かって走ってきたメニルが叫んだ。
「姉上?」「りゃあ?」
俺とリアが困惑する中、メニルは倒れている女に駆け寄った。
「姉上、どうしてここに? ひどい怪我、すぐに治します!」
「メニルか? 夢か? 走馬灯か?」
そして口から血をごぼっと吐いた。
「姉上、話さなくていい。すぐ血を止めるからね」
「…………死神も粋なことをする」
口を開く度、傷口から血があふれる。
「話さないで」
「夢でも…………メニルの顔を見られて良かった…………」
女は意識が朦朧としているようだ。
「メニル、もっと顔を見せておくれ、……もう見えぬのだ」
「姉上、すぐに治るからね」
「せっかく、会えたのに……」
メニルは周囲が目に入っていない様子で、俺が与えたヒールポーションを使って傷を治していく。
「死なないで、お願い。死なないで……姉上、姉上」
「手伝おう」
必死なメニルを見て、見逃せなかった。
メニルの姉を殺そうとしたのは紛れもなく俺だ。
ヒールポーションを使い、同時に体力回復ポーションとマナポーションを投与する。
「身体強化ポーションも使うぞ」
「はい」
ヒールポーションで傷を癒やした後は、体力と魔力次第だ。
「メニル。安心しろ。助けられるぞ」
「はい」
メニルは傷を塞ぎ、包帯を巻く。
「りゃあ~」
リアはそんなメニルの姉の顔の横に降り立つと、優しく頬を撫でていた。
「できることは全部やった。内臓の傷も塞いだし、外傷も塞いだ」
「はい、はい」
「そして、体力も魔力も回復させた。きっと大丈夫だ」
「はい、はい、はい、ありがとうございます」
メニルは泣いている
既にメニルの姉の意識は無い。
治療中に、完全に意識を失ったのだ。
気絶した姉を抱きしめてメニルが言う。
「ルードヴィヒさま、姉を助けてくださってありがとうございます。そしてどうか姉を許してください。なにがあってここに居るのかわかりませんしどうして宰相に与しているのかもわかりません。でも私にとってはたった一人の姉なのです。お願いします」
メニルは俺が言葉を挟む間もないほど、早口で懇願する。
「りゃあ~~」
メニルの姉の頬を撫でていたリアも、メニルと一緒になって命乞いをしはじめた。
【読者の皆様へ 作者からのお願い!】
1巻は発売中! 2巻は3月に発売になります!
よろしくおねがいいたします!
ついでに、ブックマーク、並びに、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!





