48 謎の男との戦い
「一応言っておくが、俺を通さないと、再従弟閣下が死ぬことになるぞ?」
「そのゴミがどうした? 勝手に殺せばいいだろう?」
強がりで言っているわけでは無いようだ。
人質にならないのならば、ドミニクに価値はない。
俺はドミニク付きの槍を放り投げて地面に転がすと、魔法の鞄から剣を取り出す。
「再従弟閣下をゴミと呼ぶとは、お前は何者だ? どの立場でここにいる?」
「お前たちの味方じゃあない。そもそもお前は――」
会話の途中、気配を消し無言で後ろに回り込んでいたカタリナが剣を振るう。
剣聖という名にふさわしい鋭さで、剣速は目にもとまらぬほどだ。
「話の途中だが?」
だが、男は右手の親指と人差し指の二本でその剣を止めた。
「なに……」
唖然とするカタリナに、
「俺とルードヴィヒの会話の邪魔をするとは……身の程知らずにもほどがある」
そう呟くと男は拳を振り上げ――、振り下ろすことなく真横に飛んだ。
一瞬前まで、男がいたところを、俺の作った土の刃が乱舞する。
錬金術で土の刃を作ったのだ。
確実に食らわせられたタイミングだったのに避けられた。
「俺を前にして、よそ見するとは良い度胸だ」
「……相変わらずだな、ルードヴ――」
「りゃ!」
そして俺の襟元から顔を出したリアを見て、男は固まった。
「りゃ?」
リアも男をじっと見つめている。なにに驚いたのかわからないが、硬直し目を見開いている。
「お前ら魔人は、リアを見ると驚くな」
「俺が魔人だといつ言った?」
そう言いながら、男は俺の後方を指さした。
男から目をそらすわけにはいかないので視認できない。だが魔力が蠢いているのがわかる。
人ではない。ゴブリンやオークなどの妖魔である。
それが数十体。
「王宮にゴブリンとはな。見事に隠したものだ」
男の魔力が大きく周囲に気を配り切れなかったとは言え、ここにいたるまで妖魔の存在に気付くことができなかった。
「魔法ならば、俺はお前より上だ」
「だろうな。だが錬金術があれば、俺の方が強い」
「……」
男はにやりと笑う。
「……カタリナ。グルル。後方を頼む」
「わかりました!」「ぐる~」
「いいのか? 雑魚に任せて。それなりに強いぞ?」
にやつく男を無視して、カタリナとグルルが戦い始める。
「うおおおおおお!」
「グルルッルルル!」
カタリナはグルルの上に乗り、妖魔相手に剣を振るう。
グルルは尻尾を振り回し、オークを吹き飛ばしている。
「ご覧の通り、カタリナもグルルも雑魚ではない、お前こそもう少し強い奴を用意できなかったのか? 相手にならんぞ」
「……ぬかしよる」
次の瞬間、男の全身に魔力が集まり、同時に魔法が放たれる。
何もかもが速い。
魔力を集めるのも、それを練り上げるのも、それを魔法として発動するのも尋常ではない速さだ。
千年前でも、ここまで速い魔導師は滅多にいなかった。
「だが、魔王よりは遅い」
俺は錬金術を駆使して、男の魔法を防ぎ、攻撃を仕掛けていく。
「服を身につけなければ、錬金術相手に有利に立てると思ったのか?」
「ちぃ! 化け物が!」
錬金術は物質を変化させる術だ。
つまり、錬金術師を相手にするとき、服や鎧は枷となり、武器は逆用される。
だから、素手で、全裸で現われたのだろう。
「だが、世界は物質に満ちている」
「くそが! 何故勝てぬ!」
「魔王も周囲から物質をなくそうと考えたが、結局できなかった」
「この! 悪魔が!」
俺を罵りながらも、男は魔法を放つ。
カタリナやグルル目がけて魔法を放っても、俺が全て止める。
周囲には建物があり、地面がある。それに俺は鎧を身につけ手には剣を持っている。
錬金術の材料には事欠かない。
この状況で、錬金術師が魔導師に負けるわけが無いのだ。
俺は地面に敷詰められた石を【形状変化】でバラバラにして、【物質移動】で高速で飛ばす。
そして、壁や地面を【形状変化】で槍のように変形させて、男を襲う。
「ぐおおお!」
男は防御よりも攻撃を重視しているようだ。
槍を躱しきれずに体を貫かれながらも、俺を目駆けて魔法を飛ばす。
「身を捨てでも俺を殺そうとする、その意気やよし」
俺はその魔法を【物質移動】と【形状変化】で空気を固定し防いでいく。
戦いながら、俺は警戒していた。
男にはまだ何かある。違和感が拭えないのだ。
男の動きから、類い希なる身体強化の使い手だとわかる。
千年前でもこれほどの使い手は滅多にいなかった。
だが、その身体強化の魔力の流れは、体の中心に集中している。
体表は弱い。
それはまるで、身体強化の初心者のようにだ。
初心者には全身にくまなく魔力を流すのが難しい。
だが、動きは超一流。なにか秘密があるに違いない。
それに魔法の腕も素晴らしい。
千年前にもこれほどの使い手は滅多にいなかった。
魔王ほどではないとはいえ、そこらの魔人よりもずっと強い。
戦いながら、男の動きを見て、魔力流れを測り、心が沸き立つのを感じる。
だが、時間が無い。
尚書を救うために走っているメニルとガウがいつ窮地に陥るかわからない。
それに毒を盛られた王と尚書は弱り続けているのだ。
「ガウ!」
そのとき、建物の中、男の後方から、ガウの声が響いた。
ガウの横にはメニルがいる。
額に汗して、必死の形相で走っている。
王か尚書の容体が、俺の手を必要とするほど、良くないのかも知れない。
「ぬ?」
男はガウの吠え声に反応して、後ろのほうに視線を向けた。
逸すべからざる大きな隙だ。
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