47 謎の男
「知らないか? まあ、たしか宮廷魔導師団長ダジンスキー伯の息子にして、宮廷魔導師団第一部隊長のドミニク・ダジンスキーで、第一王子の再従弟だぞ」
「あっ、あの、ドミニクですか?」
「あのって、どのだ?」
「えっと、能力は無いのに、親の力で重用されて、威張り散らしていると評判のドミニクです」
「……なるほど。まあ、多分、そのドミニクだ」
カタリナは目と耳と口を塞がれて「うーうー」唸っているドミニクを見る。
「それで、なぜドミニクが?」
「俺の家に襲撃をかけたから返り討ちにした。第一王子の再従弟なら人質にもなるだろう?」
「たしかに」
「実際、結構効果があったぞ。魔導騎士団とかドミニクで矢と魔法を受けたら、攻撃しなくなったしな」
「ああ、それで矢が刺さっているのですね」
そして、俺とカタリナはグルルの背に乗った。
「らっりゃっりゃっりゃ!」
カタリナもグルルの背に乗ったから楽しくなったのだろう。
リアは、嬉しそうに俺の肩の上で羽をバタバタさせると、ふわふわと飛んで前方に飛ぼうとする。
どうやら、リアはグルルの頭の上に乗ろうとしているようだ。
「リア、一気に走るから、大人しくしてなさい」
「りゃ~~……りゃ」
俺はリアを掴んで、服の中に入れた。
不満そうな声を上げるが、俺のお腹の温かさが心地よかったらしくすぐに大人しくなった。
「カタリナ、王と従兄殿の部屋はわかるな?」
「わかります。案内しますね」
「頼む。グルル、少し待て」
「ぐる!」
俺は【物質移動】と【形態変化】を使って、壁に傾斜をつける。
「傾斜はかなりきついが、いけるか? グルル」
「グル!」
グルルは床に尻尾を叩きつけると、走り出す。
「ぐるるるるる!」
グルルは急坂を一気に登る。登り切った後、少し宙に飛び出るぐらいの勢いだ。
地上に飛び出ると、そこには囲むように魔導騎士たちがいた。
その数は数百人。
「グル!」
グルルは飛び出た勢いで、前方に頭から突っ込んだ。
「ぐああぁ」「ぐはぁ」
馬より何倍も重いグルルが高速でぶつかったのだ。
人などひとたまりも無い。
十数人の騎士が数メトル吹っ飛ばされていく。
ある者は壁まで飛んでぶつかって、ある者は地面を鞠のように弾んでいった。
「ま、待て! 止まれ!」
指揮官が慌てたように叫んでいる。
「止まるわけないだろ。カタリナ!」
「はい、グルル! このまま進んで、その角で右!」
カタリナがグルルに進路を指示してくれる。
「ぐる~」
グルルは容易く包囲を突破して、駆けていく。
「そこです!」
「ぐる!?」
グルルが角を曲がると、そこは王宮の広い中庭だった。
そして、中庭を囲む建物の屋根や窓には、宮廷魔導師たちがいた。
魔導師たちのほとんどは魔法を発動する寸前だ。
魔力を溜め、詠唱を終わらせ、いつでも撃ち込めるようにしていたらしい。
つまり、こちらの動きを読んでいたと言うことだ。
「放てえええええ!」
指揮官の大声が響き、魔導師たちが魔法を放とうとし、
「うるさいぞ」
俺の雷が周囲の建物に落ちた。
雷によって、建物は壊れ、燃え、魔導師たちは気絶する。
放たれる直前の魔法は暴発し、放たれた直後の魔法は明後日の方向へと飛んでいく。
「す、すごい。一瞬で……」
「いくら詠唱を済ませていても、合図があるのなら、どうにでもなる」
「普通は合図があっても対処できませんよ……」
「そうかもな。それでカタリナ」
「わかっています。中庭をまっすぐ進んで……」
カタリナがグルルに行き先を指示して、
「ぐるぐるるる!」
グルルが勢いよく走り始める。
「あの建物です。中に入って、しばらく走れば――王の寝所があります!」
「ぐる!」
勢いを保ったまま、グルルは建物に突っ込んでいく。
建物の開いた大きな入り口に、グルルが飛び込もうとしたとき、中から人影が現われる。
「ググゥウルウ!」
そして、正面からグルルを受け止めた。
二メトルほど後ずさったが、グルルが止まる。
「ここは通さぬ」
グルルを止めきって、その男はにやりと笑った。
止めきると、男は拳をグルルの脳天目がけて振り下ろす。
「ぐぅる!?」
グルルが目をつぶった。
グルルの背から飛び降りながら、【物質移動】と【形状変化】を使って、石の壁を作り出し拳を止める。
壁を半分破壊し、拳は止まる。
異常な威力だ。グルルを止めたことといい人族の膂力とは思えない。
「グルル、下がってろ
「ぐる」
「お前、魔人か?」
俺の問いには答えず、
「さすがのキレだな、ルードヴィヒ」
そういって、男は不敵に笑う。
「いや、千年前よりキレが良くなっていないか?」
「…………お前、何者だ?」
そういいながら、俺はドミニク付きの槍の穂先を男に向ける。
「言ってもわかるまい。というか、何だそれは?」
「摂政たる第一王子殿下の再従弟閣下だ」
「そうか」
全く興味がなさそうだ。
【読者の皆様へ 作者からのお願い!】
1巻は発売中! 2巻は3月に発売になります!
よろしくおねがいいたします!
ついでに、ブックマーク、並びに、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!





