45 駆けるグルル
「魔族を奴隷に落とすのは簡単だとか、慰み者にしてやるとか、魔族を拷問して殺そうが、問題にならないとかな」
俺を見てギルバートは改めて頭を下げた。
「本当に助かった。あと十分遅れたら妻は無事ではすまなかった」
「そうか。間に合ってよかったよ」
俺は魔法の鞄から錬金薬と鎧、剣を取り出してギルバートに渡した。
「ギルバート。とりあえず鎧を着ておけ。俺はエイナさんを治療する」
「助かる」
そういいながら、エイナの治療を始める。
「エイナは薬で眠っているってことだったが、錬金薬か?」
「まだ、睡眠薬は売りに出してないよ。だから薬師の薬だな。起こしてもいいか? 恐慌状態になったりしないか?」
起きて恐慌状態に陥るならば、起こさない方が良い。
「もちろんだ。起こしてやってくれ」
「わかった。任せろ」
俺はキュアポーションを少し調合し直して、エイナに飲ませた。
「一分も経たずに目を覚ますはずだ」
「本当に助かったよ」
「それで、ギルバートはどうする? 俺はカタリナを助けにいくが、一人でエイナさんを連れて脱出できるか?」
もし脱出が難しいならば、地下の壁の中に避難部屋を作って隠れていてもらえばいい。
そう思ったのだが、
「いや、俺も戦おう」
鎧を身につけ終わったギルバートが言う。
「エイナさんを連れて脱出しないといけないだろう?」
「俺は一流の冒険者だが、エイナも一流の冒険者だ」
「そうなのか?」
「ああ、二人で色んな強敵を倒してきたんだ。足手まといにはならないさ」
そのとき、エイナが目を覚ました。
目を開いて、俺を見ると、横になった状態から、全身のバネを使って、後ろに二メトルほど跳んで構えた。
見事な動きだ。
「エイナ、急に動くな。足がふらつかないか?」
「ギル!」
そしてギルバートに気付いて、抱きついた。
「殺されたと思った……」
「心配かけたな……」
二人が再会を喜ぶ時間は短かった。
すぐに真剣な表情になる。
「エイナ。現状を説明する」
「うん。現在進行中の状況だけ教えて。ちなみに、私はギルについて相談があると呼び出されて薬をもられたわ。終わってから詳しく説明する」
「わかった。まず捕えられているのはカタリナ王女殿下で――」
ギルバートはテキパキと素早く状況を説明した。
まるで、ダンジョンの中で敵の大群に囲まれたときのように、要点だけを説明していく。
ギルバートもエイナも、戦場に慣れている冒険者らしい。
「それで、やばいところをルードヴィヒが助けてくれたってわけだ」
「ありがとう、ルード。ギルが怪我していないのは、ルードの薬のおかげね?」
「気にするな、鎧と剣ならあるぞ。使うといい」
「何から何まで、助かるわ」
エイナが鎧を身につけている間に俺とギルバートは作戦を相談する。
「このまま地下を進むか?」
「グルルがいるからな。一度地上に出て、カタリナの居る北東の地下牢に向かうつもりだ」
「そうか。じゃあ、俺たちは別行動で地下経由で北東に向かうよ」
「大丈夫か?」
「隠れながら進むからな。それに俺たち二人が揃ったら、そうそうやられはしないよ」
「いざというときは逃げるから心配しないでくれ」
エイナもそういって不敵に笑う。
「そうか。無理はするなよ。身体強化のポーションも渡しておこう」
「これこれ! 魔王軍との戦いで、これの効果は身に染みてわかっているからね」
エイナも魔王軍との戦いにおいて前線で戦っていたらしい。
「くれぐれも気をつけてくれ」
「わかってるさ」
「ああ、ルードさんも、気をつけて」
そして、ギルバートとエイナは地下の廊下を走って行った。
「グルル。地上に戻るぞ」
「ぐる!」
俺はリアを肩に乗せ、ドミニク付きの槍を掴むとグルルの背に乗った。
「坂を作ったら、一気に駆け上がってくれ」
「ぐるる!」
俺はグルルの近くにあった垂直の壁を【物質移動】と【形状変化】の術式を使って坂にする。
「ぐるるるる!」
グルルは一気に駆け上がる。
同時に俺は【物質変換】を使って、周囲に雷を落とす。
轟音が響き、雷の落ちた建物が燃え上がる。
「やっぱり撹乱するなら雷だな」
なにより音がでかい。火事にもなるうえ、突然落ちるので、予測ができない。
敵は轟音と、いつ落ちてくるかわからない雷に怯えながら消火をしなければならない。
俺たちに構っている余裕もなくなる。
ギルバートとエイナも動きやすくなるだろう。
「グルル! あっちだ」
「ぐる~~!」
周囲に雷をばらまきながら、広い王宮の外周部を走って行く。
「ぐる?」
しばらく走ると、俺たちの前方を塞ぐ建物があった。
「足は緩めなくて良い」
「ぐる!」
「吹き飛ばす!」
俺は前方に手をかざし、建物に狙いをつけて、【物質移動】の術式を使う。
轟音が鳴り、縦横五メトル四方範囲の壁や天井が吹き飛んだ。
中にいた兵士たちが巻き込まれて一緒に吹き飛んでいる。
「突っ込め」
「ぐる!」
建物を通過するときに雷を落とすのも忘れない。
これで消火するのに忙しくなるだろう。
建物を超えた後もグルルは高速で走って行く。
魔導騎士や宮廷魔導師が放ってきた魔法は、ドミニク付きの槍でたたき落とした。
そして、近場にある石壁をバラバラにして、魔導騎士や宮廷魔導師たちに高速で飛ばす。
「【物質変換】を使う雷より、【物質移動】で石を飛ばした方が魔力を使わないからな」
「りゃむ」
飛んでいく石をリアがじっと見つめていた。
「リア、本当は人に向かって石を投げたらダメなんだぞ」
「りゃ~?」
「やむを得ない時を除いて、ダメだぞ」
そんなことを行っている間に、王宮の北東部へとたどりついた。
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