43 地下へ
「そうだなぁ……」
適当に防いで、そのまま走り続けるのが一番楽だ。
だが、敵を倒して騒ぎを大きくした方が、メニルとガウは助かるだろう。
「倒しておくか」
「りゃ!」
リアが口から何かを出そうとするので止める。
「ん。リアは手を出さなくていいよ。こういうのは大人の仕事だ」
「りゃぁ~」
リアは不満げだ。
俺はリアが我慢できなくなる前に、素早く周囲の敵を倒す。
俺たち目がけて魔法を放った奴、放とうとしている奴の服を燃やしたのだ。
俺にとっては簡単でも、一般的に錬金術で火をつけるのは意外と難しい。
術式は【物質変換】である。
分子構造や分子組成、電子の動きなどを操るのが【物質変換】だ。
分子の動きを一気に加速させ熱を発生させることで、火をつける。
「うわああああ!」「けせけせ!」
「水! 早く水を!」
一斉に二十人の服を燃やしたので、大騒ぎだ。
「ついでに、建物にも火をかけておくか」
壁にもすこしだけ火をつける
大騒ぎになり、人がどんどん集まってくる。
そして、俺たちに対する敵の攻撃はほとんど無くなった。
「リアは、まだ子供だから身を守るときだけにしたほうがいいぞ」
「りゃむ」
「善悪の区別が付くようになって……そうだな、自分で判断できるようになるまでは守られていなさい」
「りゃ……?」
将来、リアがどういう判断をするのか。
気になるが、それは俺も受け入れようと思う。
「よし、グルル、止まってくれ」
「ぐる~」
俺はまだ止まっていないグルルの背から飛び降りる。
「この辺りの筈だな」
「りゃむ!」
この下あたりに南東地下牢があるはずだ。
リアもくんくんと鼻をしきりに動かしている。
「地下だから、ギルバートの匂いはしないと思うよ」
「りゃむ?」
「まあ、俺に任せなさい。場所がわかれば、何とでもなる」
もっともメニルも地下牢の構造に精通しているわけではないし口頭で聞いただけだ。
正確ではないだろう。
「だが、大体の場所がわかれば、俺には充分だ」
俺は、錬金術ではなく魔法を使う。
錬金術は魔力を使って物体に作用する。だが魔法は魔力そのものを使うのだ。
その特性を利用して、地下の広範囲に魔力を放射する。
いわゆる探索魔法、もしくは調査魔法と呼ばれるものだ。
錬金術の前段階において、素材を調べたりするのに使うのと同種の魔法を広範囲に行使した。
技術的には難しくはない。
きっと現代の魔導師でも探索魔法自体はできるだろう。
だが、これほど一気に広範囲を探ることは、千年前の錬金術師や魔導師でも難しかったはずだ。
「ふむ。地面から五メトル下に、結構広い空間があるな」
「りゃむ?」
リアがまるで尋ねるかのように、首をかしげるので、説明する。
「そうだね。恐らく廊下と独房があるな。独房のどこかにギルバートがいるんだろう」
独房は十五室あった。そのうちのどこに居るかはわからない。
「ぐる~」
ギルバートが下にいると聞いたグルルが前足で地面を掘り始めた。
「グルル。ありがとう、でも大丈夫だよ」
「ぐるるぅ?」
五メトルを掘るのはいくら大きなグルルでも大変だ。
それに、地下の天井は頑丈な石なので、前足で掘るのは難しい。
「見ていなさい」
「りゃ~」「ぐるー」
俺は【物質移動】の術式を、下に向かって一気に発動させる。
五メトルに及ぶ土と、天井を構成する岩を、一気に移動させる。
移動させた土は近くにある王宮の屋根にかぶせておく。
大量の土砂により、一瞬で建物が埋まる。
広く撒いたので、潰れることはないだろうが、これで近くの建物から外に出ることは難しいに違いない。
「ぐる!」
土と天井を除去したおかげで、七メトル下に廊下の床が見えた。
廊下の幅は意外と広い。だが、グルルの胴体がギリギリ収まるかどうかの幅しかない。
「グルルは入れないかな。ここで待っていなさい。すぐ戻る」
そういって、俺はリアを肩に乗せ、ドミニク付きの槍を持って七メトル下を目がけて飛び込んだ。
地面にぶつかる瞬間、【物質移動】で空気を打ちだし、速度を緩めて着地する。
浮遊感に怯えているのかドミニクが、
「ふんんーぅ」
と叫びながら涙を流していた。
「さて、ギルバートはどこかな」
地下は大騒ぎだった。いきなり天井が吹き飛んだのだから当たり前である。
「曲者!」
看守らしき男が降りてきた俺に槍を向ける。
「ふむ、お前ギルバートがどこにいるかしらないか?」
「教えるわけ――」
「ぎゅるるる~~」
そこに上からグルルが降ってきた。
「ぐはぁ」
看守がグルルに吹き飛ばされて、床を転がる。
「グルル、来ちゃったか」
「ぐる!」
胴体が廊下にぎりぎり収まっているが、グルルはすばやく動けなさそうだ。
「素早くギルバートを見つけ出して、地上に戻ろう」
「ぐる~」
「りゃ!」
リアが俺の方から飛びたった。
「どうしたリア?」
「りゃむ!」
一瞬こちらを見るが、リアは止まらない。迷いなくリアは飛んでいく。
その後を俺とグルルは付いていった。





