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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
二巻 3月15日発売!

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42 ギルバートの元へ

 俺は近くに刺しておいたドミニク付きの槍を手に取った。


「は、はなせ!」

「うるさいな、少し黙っていろ」


 俺はドミニクの着ている服を【形状変化】で形を変え、【物質移動】で移動させて、ドミニクの口を塞いだ。

 ついで目も塞いでおく。

 布を使ったせいで、ドミニクは上半身裸になった。


「んーーんーーー」

「だから、黙れ。肺まで布を詰め込むぞ」

「…………」


 睨み付けると、ドミニクは大人しくなった。


「やっぱり面倒だな」


 俺は布を使って耳も塞いでおいた。これで音もほとんど聞こえまい。

 ドミニクは視覚と聴覚、体の動きと発話の自由を奪われて、プルプルと震え始める。


「さて、グルル。王宮に向かって進んでくれ」

「ぐる~」


 グルルはゆっくり歩き出す。

 去り際に、俺は近衛騎士たちを拘束する岩の手に少し細工をした。

 脆くしたのだ。本気で五分ぐらい頑張れば、拘束を解けるだろう。

 外からハンマー持った仲間が駆けつけたらすぐに壊せる程度には脆い。


 もちろん、魔導騎士の方はハンマーを持った仲間が来ても、壊すのに三日ぐらいかかるだろう。


「メニル」

「はい」


 念のために槍の先に付いたドミニクを少し遠ざけて、声を潜める。


「カタリナが北東の第三地下牢でギルバートが南東の第十二地下牢らしいんだが、どこかわかるか?」

「は、はい。その情報は一体?」

「ヘルマンからだ」

「……そうなのですね」

「どっちが近い?」

「はい、南東十二地下牢です。ここは王宮の南門ですから」

「位置を詳しく聞かせてくれないか?」

「はい。ええっと……」


 メニルは地下構造を一生懸命教えてくれた。

 大体どのような順番で地下牢が配置されているのか。

 看守室はどこにあるのか。そこに通じる道はどこにあるのか。


「ふむふむ」


 俺は飛んできた矢を手で掴んで投げ返す。

 南門から中に入った俺目がけて、矢と魔法が射かけられる。


 魔法は掴んで握りつぶし、術者を魔法で攻撃する。

 矢も掴んでそのまま投げ返して、射手を仕留める。


「か、会話しながら……。よくそのようなことができますね」

「ああ。遅いからな」

「遅い?」

「矢も魔法も遅い。まるで止まっているようだ」


 矢は単に速度が遅い。

 魔法は発動までが遅く、発動する過程も遅く、飛んでくる速度も遅い。


「魔法は特に遅いから、今はもうカウンターをやめている」


 撃ってきた奴を倒していたのだが、準備が遅すぎて中々飛んでこないのだ。

 だから、準備を開始したら、錬金術で倒している。



「あの、ルードヴィヒさま」

「ん?」

「そろそろ、私は別行動を取りたいのですが」


 メニルの目的は尚書を助けることだ。


「長官の部屋は北西にありますから……」


 俺たちと同行したら、長官の部屋に向かうのはギルバートのいる南東地下牢とカタリナの北東地下牢に行ったあとになる。


「大丈夫か?」

「はい。姿隠しの魔道具があれば」

「ふむ。ガウ、メニルを頼めるか?」

「がう」

「隠密行動だぞ。吠えたら駄目だぞ」

「……」

「敵を見つけても襲わずにやり過ごせ。戦うのはバレて襲われたときだ」

「……」


 ガウは無言で尻尾をピンと立てている。


「メニル。ガウを連れていくといい」

「いいのですか?」

「ああ、ガウは鼻が良いからな。敵を避けるのも得意だ」

「…………」


 ガウは自信満々に尻尾を揺らす。


「ガウ。姿隠しの魔道具の効果範囲から出たらだめだぞ」

「……」

「メニル。ガウ。今から俺は暴れる。いいぞと言うまで目をつぶっておけ」

「は、はい」「…………」


 メニルとガウは目をつぶった。


「いいぞといったら、目を開けて、姿隠しの魔道具を発動させて、走れ」

「わかりました」「……」

「俺は攻撃を続ける。だが、絶対にメニルとガウには当たらない。まっすぐに目的地に向かって走ればいい」

「はい」「…………」


 そして俺は魔法の鞄から、火薬とマグネシウムとアルミニウムを取り出しだした。

 それを使って、一瞬で閃光を発する、閃光爆弾と言うべき物を二十個ほど作り出す。


「さて、グルルとリアも目をつぶっておけ」

「ぐる~」「りゃ」


 閃光爆弾を俺たちの四方八方に計十個ばらまいた。

 次の瞬間、ばぁんという轟音と共に、強烈な閃光が放たれる。


 俺たちを注視していたものたちは、視力をやられたはずだ。


「いまだ!」

「はい!」「……」


 メニルは素早く姿隠しの魔道具を作動させて、グルルの背から飛び降りて走り出す。

 ガウはその後ろを走ってついていく。


「援護射撃は続けないとな」


 俺は周囲に雷を連続で落とす。

 王宮全体を雷の柱で覆うぐらいの気持ちで乱発する。

 同時に石畳をバラバラにして、周囲にばらまくように高速で飛ばす。


 王宮の至る所に岩があたって、壁が壊れる。

 隠れていた魔導騎士らしき者たちが、岩にあたって吹き飛び、雷に当たって倒れていく。


 俺が錬金術で周囲に攻撃を加えている間に、メニルとガウは王宮の建物中に入り込んだ。


「気をつけろよ」


 俺は小声でメニルたちのいなくなった扉に向けて語りかける。


「グルル。俺たちも急いで仕事をするぞ」

「ぐる」

「走っていいぞ」

「ぐる!」


 グルルは元気に走り出す。

 目的地はギルバートのいる南東地下牢の方角だ。


「ぐる?」


 そこを曲がれば南東地下牢の入り口のほうに行けるという場所で、グルルが速度を緩めて尋ねてくる。


「ああ、大丈夫。まっすぐでいい」

「ぐる~」

「ちゃんと話聞いていたんだな。偉いぞ」

「ぐるぐる」


 走るグルルを褒めて、首筋を撫でてやる。

 そんな俺たちに向かって魔法が飛んできた。


 王宮の中から窓越しに外を走る俺たちを目がけて魔法を撃ってきているのだ。

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