39 魔導騎士団
「そうだ、メニル、魔道具を使って隠れていると良い」
俺はドミニク達が使っていた魔道具を魔法の鞄から取り出してメニルに渡した。
「これは……、宮廷魔導師団に伝わる、国宝級の!?」
「使い方はわかるか?」
「はい。陛下に長官が帯同したときに、魔道具の使い方を教わりましたから。実際に使ったことはありませんが……」
襲撃されたときなどに、一時的に身を隠すのに使うのだろう。
「ですが、これはじっとしていることを前提とした魔道具なので……」
「ふむ? 動くとどうなるんだ?」
「空気が靄のように歪んで見えます」
「なるほど。万能というわけにはいかないか」
「そうですね。生物だけを隠すので、ルードヴィヒさまとグルルの胴体も隠します」
「ぐる?」
グルルの頭と尻尾だけが宙に浮いている姿を想像した。
それは逆に目立ちそうだ。
「じゃあ、後で好きなタイミングで使ってくれ」
「ありがとうございます! 靄が出るといっても、ただ走るよりはずっと目立ちにくいので、王宮に着いたらこの魔道具を作動させて走りますね」
「ああ、気をつけろよ……。長官に飲ませるべき薬も今のうちに渡しておこう。これは一本で充分効果がある」
念のために解毒剤を三本渡しておく。
割れたときの予備と国王の治療用だ。
「体力回復のポーションと、念のためにヒールポーションとキュアポーションも渡しておこう」
「ありがとうございます。何から何まで……」
「気にするな。俺はカタリナとギルバートの救出を優先する。メニルはメニルで助けたい奴を助けろ」
「はい!」
その後、俺はグルルを進ませる。
王宮からまっすぐ伸びる大通りへと向かい、大通りを王宮へと歩いて行く。
すぐに鎧を着た集団が駆けつけていた。
「……魔導騎士団です」
「ふむ? 魔導騎士団はどちら側だ?」
どちら側。つまりカタリナ王女側か、第一王子側かである。
錬金術推進派と、錬金術反対派とも言い換えることもできる
「宮廷魔導師団と魔導騎士団は宮廷魔導師長の配下です。魔導師の中でも武術に優れた者が選ばれる精鋭ですね」
「なるほど、つまり敵側だな」
魔導騎士団の隊長らしき男が、俺たちの前に立ち塞がる。
「と、止まれ!」
「誰が止まるか。グルル、止まらなくていいぞ」
「ぐる~」
「グルル、怖くないか?」
「ぐる!」
グルルは、いつものように怯えていない。
「きっと、ルードヴィヒさまがいるからでしょう」
「そうか、それならいいんだが……。グルル、お前のことは守るから安心しろ」
「ぐるる~」
そんなことを話ながら、グルルは着実に進んでいく。
「や、矢を射かけろ!」
そして魔導騎士団から矢を射かけられた。
「危ないなぁ」
俺はドミニクをくくりつけた槍を振るった。
ほとんどの矢はドミニクの鎧に当たって弾かれた。
だが鎧には隙間がある。二本ほどドミニクに突き刺さった。
「いでええ! 貴様らあああ。俺に当たるだろうが!」
「ど、ドミニクさま?」
魔導騎士団の隊長はやっとドミニクに気付いたらしい。
苦痛に顔を歪めすぎていたせいで、人相が変わっていたせいだろう。
「今後こういう機会があれば、痛み止めを飲ませるべきかな」
折角、顔だけ治療したのに、気付かれなければ意味がない。
「矢はやめろ! 魔法を放て」
優れた魔導師ならば、魔法を放った後もある程度操れる。
だから、ドミニクを避けて俺に魔法を当てられると思ったのだろうが、
「お、危ないなぁ」
俺は飛んできた魔法より早く槍を振るって、ドミニクに魔法を当てる。
「魔法より速く槍を振るうだと?」
隊長は驚き、
「ぐああああああ、あつういあつういいい」
ドミニクは悲鳴を上げた。
「よかったな。ドミニク。俺が強化した鎧がなかったら死んでたぞ」
「きさまあああ! 魔法が俺に当たっているだろうがぁぁぁぁ」
「も、申し訳ありません! 近接攻撃で止めろ!」
その後剣を抜いて掛かってこようとしたが、それもドミニク付きの槍を振るって倒した。
「やめろお! いい加減にしろ! 俺を殺す気――おごろろろ」
ドミニクは吐いた。
痛みと恐怖と、骨折による発熱のうえ、俺に振り回されたからだろう。
「さ、下がれ」
慌てて、魔導騎士団の隊長は部下を下がらせる。
「最初からそうしておけよ。グルルまっすぐ進んでくれ」
これで、魔導騎士団は手を出せなくなった。
「ぐる~」
グルルは初めて見る王都が興味深いのかきょろきょろしながら進んでいく。
城壁を破壊されたことは、この辺りにはまだ伝わっていないらしく、道を民が歩いている。
その民たちは大きなグルルに驚いて、慌てて、道を譲ってくれた。
魔導騎士団は俺たちに手を出さずに、遠巻きにしてついてくる。
王宮の正門が近づいてくると、別の騎士団が現われた。
「メニル、あれは?」
俺は小声で尋ねる。
「近衛騎士団です。カタリナ王女殿下の護衛を務めていた騎士たちが所属している団になります」
「ふむ。こちら側か?」
「心情的には。カタリナ王女殿下も彼ら相手に毎日剣術の稽古をつけておられましたし……。ですが」
メニルは言いよどんだ。
「まあ、心情はどうあれ、騎士は命令には逆らえないよな」
「はい。ですが、できれば……」
「わかっている。俺も痛めつけたりはしたくない」
そんなことを話している間に、近衛騎士団との距離が二十メトルを切った。
すると、立派な鎧を着た男が一歩前に出た。





