37 ドミニクの尋問
「ふむ?」
「ひぅ!」
俺はドミニクの局部を掴んだ。しっかりと付いている。
「お前。錬金薬を使ったな?」
「……」
切断されたものをくっつけるとなると、現代の薬師の薬では無理だ。
俺の作ったヒールポーションを使わなければ、出血多量で死んでいたかもしれない。
死ななくとも、局部を失ったのは確実だ。
「お前なあ。命の恩人を殺そうとするとは、礼儀も何もあったもんじゃないな?」
「……ごべんなだい」
「謝っても遅いからな。グルルを虐めたことも許してないぞ?」
「ごべんだざい」
ドミニク以外の男たちは、俺の怒りを向けられないように、目をそらしてじっとしている。
「あの、この馬鹿はグルルになにをしたのですか?」
「何日前だったか。二十日ぐらい前かな。こいつらが俺の家に火を放って、グルルを虐めたんだよ。魔法と剣で殺そうとしてた」
「…………なるほど。そうだったのですね。あっ」
「なにかわかるのか?」
「はい。二十日ぐらい前というと……ダジンスキー伯が改めてルードヴィヒさまを勲功一位にすることに抗議をして却下されたころです」
ダジンスキー伯は宮廷魔導師長で、ドミニクの父親だ。
つまり第一王子の従兄弟叔父である。
「それで、陛下から宮廷魔導師団は戦闘時に何をしていたと叱責されて……。手柄を立てようとしたのかもしれません」
「ふむ。竜を殺して名声を上げようと?」
「恐らく。おい、クズ。どうなんだ?」
「……」
「話す気は無いか?」
メニルはまた殴ろうとする。
「まて。メニル」
「止めないでください!」
「手で殴ったら、手が痛む。武器を使え。木の棒か鞭がいいぞ」
「あ、はい」「ひぃいい」
まさか武器を勧められると思わなかったのか、一瞬、メニルは固まった。
そして、ドミニクは止めなかった俺を見て怯え始めた。
「だがまあ、手頃な棒もないし。拷問は任せろ」
そういうと、ドミニクは震え始める。
「ま、待ってぐれ、ばなず!」
「なら、話せ。待たせるな。言っておくが、お前の言葉が正しいかどうか、部下を拷問して裏取りするからな? 嘘はつくなよ?」
「わ、わがっでる!」
そういうと、ドミニクの部下たちは、手足を拘束されて、口も塞がれたまま、ブルブルと震え始めた。
「というわけで、お前らの耳も塞いでおこう」
口裏を合わせられないように、土の腕から更に枝分かれさせた小さな土の手で部下たちの耳を塞ぐ。
「錬金術って便利ですね」
「ああ、使い方次第だ」
そうしておいてから、俺はドミニクに問いかける。
「で、どうして、俺の家を燃やして、竜を殺そうとしたんだ?」
「ああ、ぞれば――」
ドミニクは口から血を流しながら語っていく。
お前らは何もしていないと王に面罵され。宮廷魔導師長たちは面子を失った。
近衛騎士団からも嘲りの目を向けられる始末。
それが我慢できなかったドミニクは魔物を倒すために部下をつれて王都の外に出た。
何らかの功績をあげて、近衛騎士たちに目に物を見せるためだ。
だが、手頃な魔物はおらず、腹立ちまぎれに集落を襲おうとしたところ、グルルをみつけたのだ。
竜ということで逃げようとしたが、どうやら竜の方が怯えており抵抗する素振りがない。
「だがら、おとなしいし、ぎがいをくわえるげばいもないし、ごろしやずいどおぼっで」
「なにが、大人しくて危害を加える気配がないから、殺しやすいと思ってだ。恥を知れ!」
「そうだぞ。冒険者も騎士たちもこちらに危害を加えてくるのが確実な危険で倒しにくい魔物を倒しているから尊敬されるんだ」
本当に愚かで恥知らずなことだ。
「さて、カタリナとギルバートはどこにいる?」
「ぢがどう……」
「地下牢なのは知ってるよ。地下牢のどこだ?」
問い詰めると、ドミニクは意外なほど素直に語っていく。
カタリナは北側、ギルバートは南側でつかまっているらしい。
「離しているのか」
「万が一にも会話をされたり、手を組まれたくないのでしょう」
その後、ドミニクの耳を塞いだあと、子分にも一人ずつ話を聞いた。
みな同じことを言ったので、嘘はついていないようだ。
話を聞いた後、忘れずに口と耳を塞いでおく。
「まあ、これだけ聞ければ充分だ。助けに行くぞ」
「はい。こやつらはどうしますか?」
「そうだな……。このまま放置してもいいんだが……」
どうせ逃げられない。
だが、俺が離れた後何者かが助け出しにくるかも知れない。
「うーむ。そうだな。おや?」
俺は改めて連中を眺めていて、連中が綺麗な鎧を身につけていることに気がついた。
「お前ら、これは俺が強化した鎧じゃないか」
「ふえ?」
唯一耳を塞いでいないドミニクが変な声を上げた。
「最初の石つぶての被害が少ないと思ったんだよな」
俺が先ほど飛ばしたつぶては、男の鎧に当たったようだ。
並の鎧なら、鎧ごとへこむところだが、俺が強化した鎧ならば、体をしっかり守るだろう。





