36 ドミニクの悪行
二十人の内訳は、グルルを虐めた奴十人と、知らない奴が十人だ。
逃亡しようとしたところを拘束した一人を含めて、二十人とも大なり小なり怪我をしている。
先ほど俺が飛ばした石つぶてを食らったのだろう。
「りゃむっりゃむ!」
「ああ、リア凄いな。魔道具の効果を打ち消せるのか?」
「りゃむ?」
高度な魔法だ。魔力の流れを計算し逆位相の魔力をぶつけたのか?
いや、そんなこと赤ちゃんのリアができるのだろうか。
「りゃ~」
自慢げにリアは胸を張って、尻尾を振っている。
「うん、リア。凄く助かったよ、ありがとう」
「りゃむ!」
リアが魔王の転生体ならば、そのぐらい出来てもおかしくない。
リアについてはあとで考えれば良い。
今は、目の前の男たちの始末が先だ。
「それで、お前ら……仕返しってだけではないんだろう?」
「ひいいいい」
十九人の男たちは一斉に逃げようとする。
「だから、逃がすわけないだろうが」
先ほど捕えた男と同様に、地面から土の手を生やして拘束する。
巨大な土の手で、足をがっちりと掴む。
そして、土の手の指から枝分かれした小さめ土の手が、腕を拘束した。
「これで岩を飛ばしたのか。あきれ果てるな」
攻城兵器と岩が置かれている。
これで、俺を建物ごと押しつぶして暗殺しようとしたのだろう。
グルルを虐めたとき、グルルの家は強化されていなかったので破壊され燃えてしまった。
だから、通用すると思ったのだろう。
「残念だったな。もう家は錬金術で強化済みだ」
「お、俺にこんなことをしてただで済むと思ってるのか!」
グルルを虐めてたとき、リーダー格だった男が叫ぶ。
その男だけは、他の者と違いあまり怯えていない。
「ああ、思ってるよ。そもそもお前は誰だよ」
「てめえ、隊長を馬鹿にして――」
怯えながら、いや、怯えているからこそ虚勢をはって、子分たちが叫ぶ。
叫ぶことで恐怖を紛らわせようとしているかのようだ。
「お前らは黙れ」
リーダー以外の男たちの口を塞ぐ。
土の手から、さらに枝分かれさせて、小さな手で口を塞いだのだ。
「ふん、知ったら、お前は俺に許してくれと懇願することになるぞ」
「いいから話せよ。面倒な奴だな」
「その態度、いつまで持つかな」
にやりと笑うと、男は大きな声で言う。
「俺は宮廷魔導師団長ダジンスキー伯の息子にして、宮廷魔導師団第一部隊長のドミニク・ダジンスキーだ! そして第一王子殿下、いや新王陛下の再従弟でもある!」
「そうか、それは良いことを聞いた」
そう言いながら俺は男たちの中心あたりにある魔道具を拾い上げる。
「なるほど、これか。見事な仕組みだ」
やはり千年前より、現代の方が魔道具技術は優れている。
「ふーむ。これを量産できれば、人族でも魔王軍に対抗できるかもしれないな」
「おい! 俺は新王陛下の再従弟の、ドミニク・ダジンスキーだぞ!」
「知ってるよ。さっきも聞いた」
「早く拘束を解いて、頭を地面にこすりつけて命乞いをしろ!」
「馬鹿か? 命乞いするぐらいなら、この場で殺した方が早いだろ。どうせ魔物に襲われたことになる」
そういうと、ドミニクは顔を引きつらせて、狼狽し始める。
「なっ? 俺は新王陛下の再従弟だぞ?」
再従弟、つまり親がいとこと言うことだ。
「まあ、王と再従弟なら、今後出世できるかもな、お前のような無能でも……」
「黙れ! なにが勲功一位だ! 調子に乗りやがって。早くこの拘束を……」
そう叫びながら【形態変化】の術式で作った土の手を拳で殴る。
その程度では、俺の作った土の手はびくともしない。
「とりあえず、お前が本当のことを言っているか、聞いてみるか」
尚書の副官であるメニルなら本物かどうかわかるだろう。
本当に第一王子の再従弟ならば、人質として使えるかも知れない。
俺は姿隠しの魔道具を確認する。
「ふむ。壊れてはいないな?」
「りゃむ」
「後で使おう」
俺はその魔道具を魔法の鞄に収納する。
これだけ便利な魔道具なら、あとで使い途があるだろう。
そこにメニルとグルルとガウが走ってくる。
「ぐる~~」
グルルはプルプル震えながら俺の後ろに隠れると、男たちに向かって威嚇した。
「メニル、こいつは第一王子の再従弟なのか?」
俺の言葉はメニルの耳には届いていない。
「やはり、貴様か! ドミニク! このゴミ虫が!」
メニルが、今までの上品な態度とは打って変わって、ドミニクを口汚く罵った。
怒りの形相に顔を歪ませ、目を見開いて、拳を硬く握り、殴りかかろうとまっすぐにドミニクに向かっていく。
ドミニクは、メニルを見て嫌らしい笑みを浮かべた。
「やっぱり俺に可愛がられたいのか? 拘束を解いて俺に奉仕すれば、妾の一人として――」
メニルはドミニクの顔面を強かに殴った。
「ぶべえぇ」
鼻が折れて鼻血が勢いよく流れ出した。
「な、俺は新王陛下の――」
「黙れ!」
メニルはドミニクの顔を殴り続ける。
鼻と歯が折れ、眼球が腫れ、血が飛び散った。
「この! この!」
「落ち着け」
俺は激昂するメニルを止めた。
そしてヒールポーションをメニルの右手にかけていく。
メニルの手は血だらけだ。
ドミニクの歯が手の甲に刺さったからだ。
ヒールポーションには消毒効果もあるので、膿むことは無いだろう。
「こいつとの間に何があった?」
「そ、それは……」
メニルは一瞬口ごもったが、ドミニクを睨み付けてから語り始めた。
「こいつは地下牢に入れられた私を慰み者にしようとしたのです。……その、あれを、口にいれられたので、噛みきって、その騒ぎのなか逃げ出しました」
「うむ。よくやった」
戦闘力が低そうなメニルがどうやって脱出したのだろうかと思ったが、そういう事情があったのならわかる。
ドミニクは馬鹿っぽいので、牢の鍵を開けたままことに及ぼうとしたのだろう。
看守を人払いしていた可能性すらある。
「ぐる……」
最初、グルルがメニルに怯えたのは、ドミニクの血の臭いがしたからかもしれない。
「ぼ、ぼれにじだごどば、ゆづしでだるがら……ごぶぞぐを……」
「何言ってんだ? はっきりしゃべれ」
恐らく「俺にしたことは許してやるから、拘束を解け」みたいなことを言っているのだろう。
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