34 メニルの情報
「だが、カタリナとギルバート、冒険者ギルドのマスターも助け出したい」
「はい!」
「それに尚書が盛られた毒が気になるな」
「それならば、私の血を調べてください」
「む?」
「尚書が盛られた毒を、私の体内に入れました」
「……詳しく聞かせてくれ」
「はい」
どうやら、騒ぎに気付いたメニルが室内に入ったとき、尚書の首筋に注射針が刺さっていたのだという。
全力で駆け寄り、注射を抜いたところで、尚書の首筋に刃物を当てられてしまった。
「そこで、私は残っていたわずかな薬を自分に打ち込みました」
「なぜ、そのようなことを?」
「毒を外に持ち出すにはそれしかなかったのです。すぐに注射は回収されるでしょう?」
「それはそうだが……」
「外に持ち出すことさえできれば、ルードヴィヒさまに解毒剤の製造を頼めると考えました」
「たしかに俺ならば、毒を盛られた者の血液があれば解毒剤を作ることはできる」
俺は刃物と綺麗な皿を取り出して、メニルの前に置く。
「血は数滴でいいぞ」
「ありがとうございます」
メニルは躊躇いなく親指をナイフで切った。
かなり深く切ったらしく、血がだらだらと流れる。
「もう充分だ。かけて飲め。アンチドーテも飲んでおけ」
「ありがとうございます」
俺はメニルの毒に侵された血を魔法で調べていく。
調べながら、尋ねる。
「……なぜそこまで?」
「毒には強いので」
「それでも、自分に打ち込もうとは思わんぞ」
「……私にもわかりません。でも……尚書は魔族に優しいのです。でも、人族が魔族を嫌うのも事実で……」
「りゃ?」
困惑した様子のメニルは、むにむにとリアを優しく揉んでいた。
「よくわからんが、そうなのか」
人族は自分でもわからないことをするものだ。
特に恋する者はそうなりがちだ。
魔族であるメニルも、人族と同じなのだろう。
恋しているかもしれないと思っても、その可能性を指摘する野暮はしない。
俺は黙々と解毒薬を作り上げていく。
「毒はかなり強力だ」
「そうだったのですね」
少量とは言え、投与されたメニルが生きて、動けていたことが不思議である。
本人が言うとおり、よほど毒に強いのだろう。
「なるべく早く解毒剤を投与する必要があるな」
じわじわと内臓を痛めていく毒だ。
放置したら一週間程度しか持たないだろう。
病気がちだったらしい国王は、若い尚書よりも持たないだろう。
そして、尚書と国王が毒を盛られたのは三日前。
「あと四日」
「王女殿下の処刑までですか?」
カタリナの処刑も四日後だという。
「そうだ。だが、尚書を助け出すのはそれよりも早いほうがいい」
そんなことを話している間に解毒薬を作り終わる。
「これでよしっと。解毒剤ができたぞ」
汎用解毒剤でも効果はあるが、専用の解毒剤の方が効果は高い。
元気なメニルならば、汎用解毒剤でも充分だが、衰弱している尚書や国王は専用解毒剤の方が良いだろう。
「もう、できたのですか? 魔法で液体を操ってなにをしているんだろうと思っていましたが……」
「そう難しくない。メニルが飲んだ解毒薬の成分を一部だけ変えただけだからな」
「そうなのですね。カタリナ王女殿下からお噂は聞いていましたが……これほどまでとは」
「一応、メニルも飲んでおけ。体力回復の効果も付与しておいたからな」
「ありがとうございます」
そういって、メニルは解毒薬を飲んだ。
「すごい、力がわいてくるようです」
「ならよかった。後は……」
俺はメニルの髪と衣服に【物質移動】を発動させる。
一瞬で返り血と汚れを落とした。
「メニルは血の臭いがしすぎる。強い臭いは隠密行動には不適だからな」
これから隠密行動するとは限らないが、臭いが薄いに越したことはない。
「これも……錬金術」
「そうだ。錬金術ならば、色んなことができる。メニル、食欲が戻ったのなら、食べておきなさい。これから動くなら空腹はまずい」
「あ、はい、ありがとうございます」
メニルは俺が先ほど用意したご飯を食べ始めた。
食べる姿は上品なのに、食べるのが速い。あっというまにご飯が消えていく。
とっくにご飯を食べ終わっているガウもグルル、リアがメニルが食べる姿をじっと見ていた。
「あの、ルードヴィヒさま。錬金術は戦闘でも色んなことができるでしょうか?」
「もちろんだ。カタリナが、魔王軍に対抗するためには錬金術が必須だと考えた理由もわかるだろう?」
俺は錬金術について宣伝しておく。
メニルには錬金術の有用性を理解してほしい。
理解してくれれば、宰相を倒した後、復権した尚書たちとともに錬金術の普及に力を貸してくれるはずだ。
「ところで、メニル。尚書やカタリナ、それに王とギルバートが捕えられている場所はわかるか?」
「尚書と王は寝室に監禁されています」
あっというまに食べ終わったメニルが言う。
王と尚書は、宰相たちにとっても毒を盛られた被害者なのだ。
牢には入れるわけにはいかないのだろう。
「王女殿下は地下牢です。ギルバートとは?」
「冒険者ギルドのマスターだ」
「ギルドマスターならば、捕えられたとお聞きしましたので、恐らく」
「地下牢か?」
「はい。ですが、地下牢はかつて迷宮だと噂されるほど広く……そのどこにおられるかはわかりません」
「なるほどな。だが、王宮の地下にあるんだろう?」
「はい、それはそうです」
「なら問題ない」
大体の場所がわかれば、魔法で探れる。
とりあえず、王と尚書、そしてカタリナとギルバートを助け出してから考えればいい。
「さて、王都に向かうぞ、メニルはどうする?」
「私も行きます。足手まといになったら、捨て置いて構いません。ですが、地下牢から脱出した道を教えられます」
「ん。わかった、ついてこい」
「グルルは……」
「ぐる!」
力強く鳴いて、家の入り口に向かう。
グルルも同行したいらしい。
「グルルもカタリナとギルバートを助けたいか」
「ぐる!」
「よし、ならば付いてこい」
悠長に根回しや情報収集している時間は無い。
つまり隠密活動をする必要がなくなった。
グルルを連れて行っても構わないだろう。





