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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
二巻 3月15日発売!

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32 トマソンの報告

 驚いたが、何をおいても聞かねばならぬ事がある。


「処刑の期日は?」

「四日後だ」


 四日後ならばまだ情報を集める時間はわずかながらある。

 今日や明日殺されるという話ならば、今すぐに王宮に走って行って、助け出さなければならなかった。


「とはいえ、四日後とは早いな」


 千年前は貴人の処刑は判決から数か月の猶予を与えられたものだ。

 もちろん、敗戦国の王族は別だ。

 王族が残っているというだけで、敗残兵に希望を与える。

 どうにかして、奪還し、旗頭として再起を図ろうとするだろう。


「知っている情報を教えてくれ」

「わかった。とはいえ、王宮内で起こったことだ。ヨハネス商会が手に入れた情報もさほど多くないんだ」


 そういって、トマソンは説明を始める。


「カタリナ王女殿下の錬金術普及作戦は非常に上手くいっていた。高位貴族や王族、そして国王陛下も錬金術には好意的だったんだ」


 聞きたいことはあるが、俺は黙って続きを待った。


「陛下が尚書に命じて錬金薬を堂々と売るための法改正に動き出していたんだが……」


 尚書は、俺がカタリナを通じて発毛剤剣育毛剤を届けた人物だ。


「三日前。尚書が発毛剤兼育毛剤を塗布した直後、血を吐いて倒れたそうだ」

「なんだと?」

「そして、ほとんど同時刻、国王陛下も吐血して意識不明になったらしい」

 同時刻というのは偶然ではないだろう。


 発毛剤兼育毛剤を尚書に渡したことは皆が知っている。

 錬金術普及のために効果を喧伝していたからだ。

 そして、カタリナは国王に錬金薬を処方したいと常々言っていた。


「それだけではなくてだな――」


 トマソンはカタリナの罪とされていることを語っていく。

 敵への内通。これは精鋭冒険者たちと魔導騎士団からの調査により判明したという。

 そして、毒である錬金薬を広めて、王都に混乱をもたらし、民を害そうとした罪。


「錬金薬は毒とされたのか。そうなると、ヨハネス商会もまずくないか?」

「そうだ。石鹸だけでなく、発毛剤兼育毛剤も販売していたからな」


 口コミで買いたいと言ってきた客には売っていたのだ。

 敵が錬金薬を目の敵にしているならば、当然ヨハネス商会もただでは済むまい。


「ヨハネス商会は営業停止処分だ。正式な決定はまだだが、恐らく……廃業処分になるだろう」

「そうなるか。巻き込んでしまった。すまない」

「ルードが悪いんじゃないさ。俺たちは正しいことをした。人族と王国と王都のために最善を尽くした。ただ政治に負けたんだ」

「りゃぁ……」


 不安そうにリアが鳴くので、頭を撫でた。

 錬金術を広めるしか、人族の勝ちの目は無かったのだ。


「……ヨナは無事か?」

「もちろんだ。だが、いつ拘束されてもおかしくはない。王都に戻ったらみんなで姿を隠すさ」

「すまない」

「気にするな。どっちにしろルードに助けてもらった命だからな。あのときルードに遭わなかったら全滅してた」


 そういってトマソンは笑う。


「それに、ルードはこのままじゃ終わらないだろう?」

「当然だ」

「その時は、大もうけさせてもらいますって、ヨハネスの旦那は言っていたよ」

「そうか。期待して待っていてくれ。だから、死ぬなよと伝えてくれ」

「わかった」

「それで、冒険者ギルドはどうなっている?」


 冒険者ギルドが機能しているならば、情報収集を手伝って貰える。


「ギルドは動いているが……ギルバートさんが事情聴取の名目で連れて行かれた」

「なるほど、牢獄に入っている可能性も高いか」

「ああ。そうなる」


 そうなると、やるべきことは決まってくる。

 カタリナを助けだし、ギルバートを助けだすことだ。


「トマソン、ヨナが姿を隠すのはいつ頃だ?」

「そうだな、帰ってすぐ、五時間もあれば」

「わかった。ならば、その後に俺は動きだそう」


 俺は作っておいた身体強化のポーション、ヒールポーション、そしてキュアポーション、マナポーションと体力回復ポーションを魔法の鞄に入れてトマソンに手渡した。


「これは? 魔法の鞄じゃないか、いいのか?」

「ああ、念のために一つ作っておいたんだ。逃げるなら便利だろう。有効に活用してくれ」

「助かる」


 お礼をいって、トマソンは王都に戻っていった。

 忙しいなか、俺に情報を伝えに来てくれたのだ。


「グルル、ガウ、少し待っていてくれ」

「ぐる?」「がぁう」

「すこしだけ集落に行ってくる。すぐ戻る」


 俺はリアだけ連れて、集落に走った。

 そして村長に、王都で異変が起こったことを伝える。


「錬金術に対する風当たりが強くなったようです。俺のことは無関係だと言ってください」

「そんな……」

「皆を守るためです。子供たちに教えていたのは、魔法です。錬金術ではありません」


 嘘ではない。タルホたちは魔力操作ができるようになったばかりだ。

 まだ錬金術を習得するレベルには達していなかったのだ。


「…………わかりました」

「お願いします」

「先生! どっかいくの?」


 村長の家の入り口からこちらを覗いて聞き耳を立てていたタルホが言う。

 子供たちが村長の家の入り口に集まっているようだ。


「ああ。だけど、安心しろ。このままでは終わらん」

「うん、待ってるね、先生!」

「魔力操作の練習だけ続けなさい。それは魔導師になるにしても錬金術師になるにしても、役に立つ」

「わかった!」


 集落に挨拶を済ませた後、俺は家へと戻ったのだった。

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