29 宰相と宮廷魔導師長
◇◇◇
錬金術の普及が進む中、宰相室にて、宰相は宮廷魔導師長と密談していた。
「まずい、まずいですぞ」
「そう、慌てるでない」
狼狽している宮廷魔導師と比べて宰相は落ち着いていた。
宰相としては錬金術がどうなろうとどちらでもよかった。
だが、カタリナに爵位と領地が与えられなかったことに危機感を覚えた。
「殿下には爵位を与えるように奏上していたはずだな?」
「はい。ウドー勲章と爵位と領地その予定でございました」
王族は、臣籍に降る前に爵位と領地を与えられる。
宰相としては、王位継承の争いからカタリナを遠ざけたかったのだ。
王太子に与えられるウドー勲章の授与だけでは、まるでカタリナが王太子に擬せられているように見えてしまう。
だからこそ、爵位と領地を与えることが必須だったのだ。
「陛下が爵位と領地を授けぬと明言したということは……」
宰相はその先を口にしなかった。
領地と爵位を与えないことで、カタリナが王位を継承する可能性があると表明したのだ。
「宰相閣下、まずいですぞ」
王位継承争いの最有力者である第一王子は宮廷魔導師長の甥なのだ。
そして、宰相は第一王子派の実質的なリーダーでもある。
カタリナが王位に就けば、宰相の地位を追われるのは免れないと思われた。
「…………まあ、やりようはいくらでもある」
「宰相閣下、例の錬金術禁止令ですね」
「そうだ」
「ですが、尚書を抱き込まなければ難しいのでは?」
錬金術禁止令を勅令として発布するにしても、法令として発布するにしても、尚書が味方にならなければ始まらない。
実際、宰相たちは王が寝ている間、そしてカタリナが王宮に帰る前に錬金術禁止令を発布しようとしていた。
だが、尚書に止められたのだ。
尚書は笑顔で「錬金術禁止令それを発布するには改正が必要な法律が三つあります」と言い、その法律の改正手続きを為ている間に、王が目覚め、カタリナが帰ってきたのだ。
「尚書には法律を作る権限はありませんが……」
勅令に限らず、法律を作るためには国王の裁可が必要だ。
尚書には内覧の権限がある。
そのため、その裁可すべき書類を事前にチェックされて却下されてしまうのだ。
「それも……やりようはいくらでもある。魔導師長、耳を貸せ」
「……はい」
防諜対策をしっかり施された部屋で、二人しか居ないにもかかわらず、二人は顔を寄せ合い密談した。





