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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
二巻 3月15日発売!

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28 カタリナと尚書長官

 自身の鎧を見せながら、カタリナは力説する。

 錬金術なしに、人族が魔人に勝つことは不可能であること。


「ただし、錬金術があれば勝てることは、最強の錬金術師にして賢者ルードヴィヒが昨日証明いたしました」


 カタリナの演説は十分間続いた。

 演説が終わると、国王が静かに言った。


「錬金術の有用性を理解したぞ。尚書」

「はっ」

「変える必要のある法律はいくつある?」

「三本でございます」

「ほう? 意外と少ないな」

「薬事法と魔術法、そして二百二十年に発布されたハインリヒ二世の勅令にございます」

「そうか、そなたに任せる」

「御意」


 反論が来ると思っていたカタリナは驚いた。


「ち、……国王陛下」

「父上でよい」

「父上。それは錬金術を広めてもよいと……」

「朕は亡国の王にはなりたくはない。民も死なせたくはない。それだけのこと」

「ありがとうございます」


 思っていたよりあっさりとことが進み、カタリナは驚いた。

 そんなカタリナに父王は微笑みかける。

 父の笑みをみて、父も魔王軍に対抗する術を心の底から欲していたのだと理解した。

 父は王として国と民を思っていたのだ。


 そのとき、慌てた様子で、宮廷魔導師長が叫ぶ。


「お待ちください、陛下。錬金術は詐欺師の技術であり――」

「そなたがそれをいうのか?」


 王がそういうだけで、宮廷魔導師長は黙らざるを得なかった。

 宰相と尚書との会話の中で、王に牽制されていたからだ。


 宮廷魔導師長などいないかのように、王は続ける。


「カタリナ。そなたの振る舞いは騎士の手本となるべきもの。よってそなたにはウドー勲章を授けよう」

「ありがたき、しあわせ」


 カタリナのいるこの国の名前がウドー王国だ。

 国名を冠した騎士団、ウドー騎士団のメンバーに与えられるのがウドー勲章である。

 最高位の勲章であり、最高の栄誉でもある。

 授与されるのは、王太子と同盟国の王、それに長年の忠勤を認められた公侯爵と辺境伯、大臣などだ。


「カタリナよ。そなたの功績は領地と爵位を与えるにふさわしいものだが、やめておこう。許せよ」

「もう充分頂きました。父上。ありがとうございます」


 丁寧にお礼を言って、カタリナは退室したのだった。




 その数時間後、カタリナは尚書室を訪れていた。


「これは殿下。このたびはウドー勲章の授与、おめでとうございます」

「ありがとう。だが、最高位の勲章はルードヴィヒさまにこそふさわしいのだがな」

「残念ながら、それは難しいでしょう。ルードヴィヒどのには爵位がありませんし」

「平民に授与された先例があったはずだが」

「さすがお詳しいですね。たしかに百十二年前のレルトル卿の例がありますが……あれは追贈ですから」


 追贈とはつまり死後に与えられたということ。

 レルトル卿は王一家を、自らの命を犠牲に守り切った騎士見習いである。



 そこに尚書の副官がお茶を持ってくる。

 その副官は魔族だった。


「ありがとう。そなたは……新入りか?」


 いくら法的に魔族差別がなくなったとは言え、王宮で魔族を見ることは珍しい。


「殿下。彼女はレイナ・メニルという私の副官です。二年前から仕えてくれていますよ」

「そうだったか。初めて会うな。カタリナだ」

「お初にお目に掛かります。王女殿下」


 そしてカタリナはお茶をゴクリと飲んだ。


「……ありがとうございます」

「ん?」


 尚書にお礼を言われて、カタリナは戸惑った。

 だが、尚書もレイナも何も言わない。

 レイナは頭を下げて、退室していく。


「魔王軍の蜂起以後、魔族に対しての風当たりが強くなりまして」

「それは、そうだろうな」


 現代の魔族と魔王軍は関係はない。

 だが、歴史の上で、魔王軍と魔族は深い関係にあったと言われているのだ。


「ですから、しばらくの間、彼女に表に出さなかったのですよ」

「ふむ?」


 どうやら「汚らわしい魔族が淹れたお茶など飲めるか」などと言われることもあるという。

 もちろん、尚書に遠慮して、暴言を吐く者は少ない。

 だが、暴言を吐かなくとも、お茶には手をつけない者がほとんどだった。


「では、なぜ?」

「殿下ならば、魔族であろうと気にされないと思いまして」

「たしかにな」


 そういってカタリナはお茶をごくりと飲んだ。


 尚書は微笑んで、語り始める。


「それでウドー勲章の話に戻りますが、戦功に報いて軍人に送られた先例は七例あります。ですが、みな軍団長かつ爵位持ちです」

「さすが従兄殿。なんでも知っているな」

「まさか。日々、浅学非才を痛感しているところです」


 そういって、カタリナの従兄であり、尚書カール・フォン・ワイスは頭髪の後退した自らの頭をぽんと叩いた。

 カールは早逝した国王の弟の息子であり、一桁の王位継承順位を持った王族だ。

 同時に大公位を継承した大貴族でもある。


 だが、王が二十七歳の若き大公爵を尚書として重用しているのは貴種ゆえではない。

 歴史と法律に異常に詳しい天才ゆえだ。そして、学者肌で王位に興味を示さないのも大きかっただろう。


 絵本の代わりに法典を読んでいたとか、五歳の時に当時の司法長官に法律の矛盾について指摘したとか。

 尚書の神童としての逸話は山ほどある。


「従兄殿のことだから、私が言うまでも無く錬金術の有用性は調べておられるのだろう?」

「そうですね。陛下に奉る文書には全て目を通していますから」


 尚書は、王が裁可する全ての書類を事前に見ることができるという内覧の権限を持っているのだ。


「だが、文字だけでは錬金術の有用性を真に理解することはできまい」


 そういって、カタリナは瓶を取り出した。


「殿下。それは?」

「発毛剤兼育毛剤だ」

「っ! なんですって?」

「従兄殿も、そのように驚くのだな」


 カタリナは楽しそうに笑うと、発毛剤兼育毛剤の説明をした。

 それを一言も聞き逃さないよう、尚書は聞いていた。


 聞き終わると早速尚書は、発毛剤兼育毛剤をもう毛が生えていない頭皮に塗り込んだ。


「髪を生やすなど。そんなことも……できるのですね」

「それでだな。無事髪が生えれば、従兄殿に頼みたいことがある」

「なんでしょう?」

「父上に錬金薬を処方する許可が欲しい」

「……なるほど。錬金術師に陛下に処方する薬をつくらせるとなると、先ほど申し上げた法律三本に加えて二本改正せねばなりません」

「もちろん、簡単では無いだろう。だが、父上の病を治せるのは錬金術師ルードヴィヒさまだけだろう」


 侍医たちによる懸命な治療の甲斐もなく、王の病は癒えなかった。


「今日の父上は健康そうに見えたが……無理なさっておられただろう?」

「……陛下は余程魔王軍の襲撃を撃ち破ったことが嬉しかったのでございましょう」


 尚書は国王の病状について明言することはしなかった。

 だが、余程嬉しくて、一時的に元気になっただけで、快癒したわけではないと言外に言っていた。


「なるほど。私に錬金術の力を実感させるための、この薬というわけですか」

「そのとおりだ。それに従兄殿の髪が急に生えたら、皆驚くであろうしな」


 カタリナがそういうと、尚書は微笑んだ。

 そして、髪が生えたら、国王の薬をルードヴィヒが処方できるよう善処すると約束したのだった。

 その後、カタリナはレイナを呼び、ルードから教えてもらったお茶の淹れ方を教えてから退室した。



 カタリナの王宮に錬金術を広めるという使命は順調だった。

 次の日には尚書の頭皮に産毛が生え始めて、話題になった。


 加えてカタリナは午前二回、午後三回、別々の騎士団の演習に参加した。

 そして、錬金術で強化した剣と鎧、盾をアピールし、身体強化薬やヒールポーションを配り歩いたのだ。

 その結果、先日の戦闘に参加しなかった騎士の間にも少しずつ錬金術の有用性が広まり始めた。


 夜になると連日高位貴族がカタリナを訪れた。

 これまで、カタリナは王位継承から遠い、冒険者などをやっている冷遇されている王女と思われていた。

 だが、本来であれば王太子にしか授与されることのないウドー勲章を授与されたことで、カタリナの重要度が上がったのだ。


「殿下。ウドー勲章の授与、まことにおめでとうございます」

「ありがとう。とはいえ、我が功績など微々たるものなのだがな」


 数年ぶりに出会った公爵にカタリナは笑顔で応対する。


「何をおっしゃいますか、剣聖たる名にふさわしい活躍だったとお聞きしておりますぞ」

「公爵も知っているだろう? 我が足が失われたことを」

「お噂は耳にしましたが……ですが、それは偽りの噂にすぎなかったのでは?」


 公爵はカタリナの右足を見る。


「そうでは無いのだ。実際に我が足は失われたが――」


 そういって、カタリナは錬金術の偉大さを説いた。

 足の治療、錬金薬の効果、そして武器防具の強化の効果。


 それらを実物を見せながらカタリナは語った。


 最後に、国王が錬金術を広められるように法改正するよう、尚書に命じたことも教える。


「公爵にも錬金術普及への協力を願いたい」

「もちろんでございます!」


 そのように連日高位貴族にも、カタリナは錬金術を宣伝した。

 王宮における錬金術普及は極めて順調だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宮廷魔術師の立場が一気に下がってくw 冒険者ギルドの魔術師達は別にライバル意識なかったけどな 高位の魔術師はプライドが邪魔するのかな
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